本の趣味1
マティアス様は次の日、にこにこしながら何か紙に包まれたものを持ってきた。
「アイリーテ嬢、例の物持って来たぞ。」
「嘘っ、はやっ!?1日で!」
時間は朝、街の店は開くか開かないかぐらいの時間だ。私は一晩でどんな手を使えば、この本が手に入るのか想像もつかなかった。この本に王家の力総動員とかしてたら笑える。
何か複雑な紋様が書かれた薄いパリパリした油紙を、封蝋の部分から外し、私はタイトルを書かれた表紙を確認する。確かに『王子と親友の蜜な日々』だ。
「本物だわ・・・・。」
「偽物を持ってくるような卑怯者ではないぞ。アイリーテ嬢、約束通り、ルチア嬢と二人っきりにさせてもらうからな。」
この本はかなりマニアックな種類の本だと思う。こっそり抜け出した街の本屋や、王立の図書館では見つけられなかったからだ。
「ええ、ただ、今後の参考までに入手経路を教えていただいてよろしいでしょうか?」
「母上だ。」
「え?シェーラ妃殿下のお力で探されたのですか?」
シェーラ王太子妃殿下から?わざわざその本が欲しいと妃殿下に言ったと?夜を徹して、そ力で探したというのか?
「違う、探してもらう為に頼んだら。母上が持ってらっしゃったんだ。」
シェーラ妃殿下がこれを持っていた?
「アイリーテ嬢が欲しがっていると聞いたら、喜んで譲ってくれたぞ。勿論公言はしないように口止めはしてある。同時に母上からアイリーテ嬢にも、入手経路は秘するように伝えてくれと言われてる。とりあえず、使用人にバレなきゃいいんだろう?」
シェーラ妃にバレてる時点で恥ずかしい、いやそれはお互い様だから大丈夫?厳重な包装と意外な入手経路にドキドキする。
「この厳重な包装から考えて、貴重な本だったのでは?もらって良いのですか?」
「何でも母上は隠し部屋に読む用と保存用二冊を持っていて、保存用の一冊だから気にしないでもらって欲しいそうだ。むしろ、感想を今度語り合いたいと、随分力を入れて言われたよ。母上所蔵の中でも、かなりお薦めの本らしい。」
まぁ、何だろう、シェーラ妃殿下に親近感を感じるような趣味だったのは少し嬉しいが。私が読みたいというのが広まったのは、どうも納得がいかない。そして、また関わる王族が増えることになるようだ。
あと、もう一点知りたかったことを聞いてみた。
「ちなみに、マティアス様はこれをお読みに?」
「いや、母上から女子が読む本だからと言って止められた。ぐるぐる巻きに紙が巻かれていただろう?何でも中に魔方陣が書かれていて、男子が剥がそうとすると、燃える仕組みなんだそうだ。」
シェーラ妃殿下・・・本一冊にどんな証拠隠滅トラップですか?どんなインポッシブルな作戦ですか?何かの拍子で、ルチアやうちの騎士が、不審物チェック的に開けなくてよかった。
とりあえず、・・・・・保存用が二冊ある気合いも素晴らしいけど、そこまでして息子に知られたくないような内容の本なのね?と内容は推察できた。
「もし、気に入れば同系統の本は沢山持っているから、王宮に遊びに来るといいと、何だか母上はすごくウキウキして言ってたので。一度母上のところに遊びに行ってやってくれ」
「わかりました。」
王族の希望とあれば、半命令も同然である断る選択肢はない。そう、決して自発意思ではなく、命令により遊びに行き読書をするだけのことだ。日程や建前とか用意諸々は、お父様と相談だなと考える。だが、妃殿下所蔵の本は是非読んでみたい。まぁまずは、今から彼女の趣味とやらを確認してからだ。
「では、私は今日は行くが・・・・本当にルチアと二人でいいんだな?」
「あー、はいはい、いいですよ。いつもの応接室に居ますわ。突然ですし、彼女には言ってないので適当にやってください。」
本の内容に心が飛んでしまっている私は適当に答える。
「そうか・・・・・では行ってくる。」
何か歯に物が挟まったような顔をして、マティアス様は部屋を出て行った。もっと嬉しそうな顔をすればいいのに、照れてるのかしら?
リアルで美少年二人がが戯れていると素敵だけど、妙に生々しすぎて恥ずかしい。私には本の世界で楽しむくらいがいいわ。
ユーリがマティアス様を好きなら、私が何が何でも邪魔をする理由もない。ユーリの話を聞くと、大きくなるまでの猶予が欲しいから呼んだと言っていたので、どうもそれは違うようだが。何にせよ一年後くらいにルチアの存在を死んだことにしてしまえばすむ話だ。
今まだ八歳のこの時なら、幸せな二人の時間(マティアス様視点)があってもいいだろう。
そう、考えつつ現実を放置し、私は『王子と親友の蜜な日々』を読み始めた。




