街の散歩
読みに来ていただきありがとうございます!
私とマティアス様は前後に護衛の騎士を歩かせながら、商店が並ぶ通りを歩いていた。ここは王都の中でも市場に近い辺りになるため、売り買いする人や観光客目当ての飲食店や露店が沢山あった。
「アイリーテ嬢あの子供が持って食べている雲のようなもの何だ?あれは美味しいのか?」
子供が食べているわた飴を指差して、マティアス様が聞いてくる、干した果実入りのドーナツを食べながら。気まぐれかつランダムに買うものなので、毒の混入はないだろうが、護衛の騎士が毒味して一定時間たったものを彼は食べていた。
「マティアス様楽しそうですね。あれは綿菓子です、少量の砂糖を綿状にしたものなので、甘くて口の中ですっと溶けます。」
ここは観光地でもあるらしく、普通の店舗だけでなく、日本の縁日のような屋台も並んでいる。道ゆく人の服装もバラバラで、労働者風の人から、外国から来た貴族がおつきの者と歩いているのも見かける。
そんな中で、目立たない格好をした護衛の騎士三人に、使用人の私たちが囲まれているような形で、街を散策していた。偉そうで食べまくりの使用人だから、ぼっちゃんのお忍びなのはバレバレかもしれない。私は周囲を警戒していたので、露店に寄ることはなかった。ただ、最後にはよく買う焼き菓子のお店には寄るつもりだ。
そういえば、マティアス様は八才。王宮育ちなのだから、貴族用の高級品が並ぶ市街を通ることはあっても、市場の近くの下町なんて歩く以前に通ることも少ないだろう。うちの公爵家に近いとはいえ、この通りは人が多く貴族の馬車は別の通りを経由するからだ。
そこを歩くマティアス様の興味は、果物やお菓子、焼いた肉と香味野菜を薄いクレープで巻いたもの、どれも食べものばかりなのは非常に徹底していた。甘い物が多いのは、さすがマティアス様だが、今までに無く無邪気で楽しそうだった。
私は小さな甥っこをお祭りに連れてきた気分で、純粋に微笑ましく眺めていた。
私はさすがにこの商店街を歩くのは、こそっと公爵家を抜け出したこともあるので初めてではない。ただ、どんなに一人で抜け出そうとしても、ユーリが私を見つけてしまうので、私も単独行動をしたことはないのだ。
今頃、ユーリは館に着いたころだろうか。今回ばかりはあの衣装ではついて来れなかったらしい。クスクス笑いたくなるくらい、してやったりという気分。
「アイリーテ嬢は何か食べないのか?」
一人で食べまくっているのが気がひけたのか、マティアス様が声をかけてきた。
「ありがとうございます、マティアス様。私はちょっと気になったことがあって、歩きたかっただけなので、今はちょっと。」
「アイリーテ嬢はほとんど外には出たことがないと言っていたが、よくこの街を知っていたな。」
「まぁ、貴族付き合いは少ないですが。閉じ込もり続けるには、息抜きも必要な時があります。その関係で、数度この街には来たことがあるのです。」
息抜きにこっそり抜け出したとは言わず、微妙にオブラートに包む。
まぁ、そろそろ良いだろう、なんとなく釣れた気がする、と行動を起こそうとした瞬間、目の前をかなり大きな真っ白な塊が視界を塞いだ。ぶつかりそうになり、慌ててその物体を見る、ふわふわの綿だ。マティアス様が私の顔の前に、綿菓子をつき出していた。
「綿菓子を買ってきてもらったぞ。これはどうやって食べるんだ?さっきの子供はかじっていた気がするが、大きすぎて口に入りそうにない。」
横のあたりに摘まんでちぎったような飛び出した部分がある。毒味はすんでいるのだろう。子供でもテーブルマナーを厳しくしつけられて食べる習慣の人間には、口回りをベタベタにして綿菓子にかじりつくのは、抵抗があるかもしれない。
仕方ないので私は手を伸ばして綿菓子を受け取り、ふわふわの部分から少し引っ張り出しちぎった。
「これはこうやって食べるんですのよ、はい。」
私はマティアス様の顔の前に、ちぎった綿菓子を差し出す。口元に近い辺りだ。さっき顔の前につき出されて驚いたお返しだ。
マティアス様は反応に困ったのか動きが止まる。
「はい」
手はそのままで再度、受けとるように促す。
「アイリーテ嬢・・・・・」
なんだか、マティアス様の顔が赤くなっていく。綿菓子を早く手で受けとってくれればいいのに、なんだかこの間と反応でこちらも恥ずかしくなってきた。
「あ・・・・」
何か話そうとしたのか、口が少し大きくなって、綿菓子を持つ手に近づきかけた時に、私は手を引っ込めた。そのまま綿菓子を自分の口に運ぶ。ふわふわした綿菓子は、口の中に甘味を解放してすっと溶けた。もう、待ってられない。マティアス様は自分でちぎって食べればいいのだ。
「あ・・・・・」
「美味しかったですわ、ありがとうございます。」
ちょっと間抜けな感じで、マティアス様の口が半開きになったまま止まっている。
しかし、もうすぐ公爵家から追加の護衛が来る。ショックを受けたように固まる彼に、付き合い続ける時間はない。惚けている彼に綿菓子を押し付け、私は大きな声を上げ行動を開始した。
「あー、私目当てのお店を見つけましたの。マティアス様は護衛の皆様と公爵家に向かってくださいな。すぐ追い付きますわ!」
急に適当な方向を指差し、護衛を撒くために走り出した。
「待て!一人で行くな、アイリーテ嬢。足が速いぞ!」
小さな体を行かして、わざと人ごみをすり抜けマティアス様一行の視界から私は消えてみた。護衛の人たちはマティアス様のそばを簡単には離れられないから、すぐには追えず初動が遅れ私を見失ったようだった。
私が動いたのは、私たちとずっと同じ方向に動いている男たちがいたからだ。ただ、同じなだけではない、彼らは私たちが足を止めれば止まり、歩けば歩くという様子でじっとこちらを伺っていた。
だから、私はマティアス様ご一行から、店を見るような顔をして離れたのだ。
そして、入り口が露店の影になっている、酒場の裏口がある細い路地に一人入り込む。ついて来た人たちは、護衛の皆さんよりは土地勘があったのだろう。人気のない路地、私の後ろに気配がついてくる。空いた酒壺が転がるその路地に、三人の男たちの影が差した。




