予定外の再来
マティアス様が持ってきた手紙を、私は確認しそのまま借りた。
「連絡不備のようなので、お父様に送迎を頼まないといけないから」
そう言って預かりお父様にも見せた、執事にも確認し、筆跡鑑定もさせた。結果、筆跡も紙質も今までのものと変わらないとの答えが出た。これでは偽手紙だと訴える要素がない。
手紙は基本私かユーリ、あとは執事が商品注文に混ぜて、短文の暗号で手紙の大まかな流れを指示し、サントカルにいる支部のメンバーがそれっぽく書いて返す。ちゃんと手紙が行き来しているという、実績を残すためだ。だから、便箋もサントカルの紙を使い、ロードクラインの物より少しざらざらしている。
暗号も簡単なもので「キセツノハナシ」と行けば、サントカルの季節の花や風物について、適当に書いてよこすような感じだ。封をしたものをこちらに送り、うちで確認した後新しい封筒に入れ、王宮に届ける。
王宮には公爵家からだと名乗る使いが、手紙を届けにきたと言っていた。
どう言い訳しようと、何の手違いか、ルチアが来るという手紙がマティアス様の手元に届いてしまったのは事実。お父様に相談し公爵家として最初否定しようとしたが、証拠も無いのに言い訳をすると、ルチア嬢に関する偽装工作がバレそうだと断念することになった。
バーシュタイン公爵家としては、覚悟を決めるしかなかったのだ。ルチアの迎えという名目でフィリスとこっそり隠れてユーリが、隣国の海の玄関口まで往復二週間強の旅に出ることとなったのだった。
ルチア嬢がひさしぶりに我が家に来た日。マティアス様は、楽しみにし過ぎて眠れなかったとかで、わざわざ早朝から来た。
この二年で顔なじみになった、彼の護衛のハイマートやニックスには、「アイリーテ様、うちの主が朝早くからすみません」と恐縮し謝られた。
そんな周囲に我関せずマティアス様は、明け方に起こされて眠い私の横で、そわそわしながらお茶を飲み、朝食と昼食も、鼻歌まじりでうちで食べた。相変わらずルチアに関しては、傍若無人猪突猛進だ。
昼過ぎに馬車から水色のドレスを身にまとったルチア嬢が出て来ると、マティアス様は頬を赤くして、エスコートのために手を差し出した。
「ルチア嬢、再会できるなんて夢のようです。」
私としては夢は夢で終わって欲しかったが、恋心は健在だったようだ。
「ありがとうございます。マティアス様お会いできて嬉しいです。」
儚い風情の小声でお礼を言うルチア。ドレスは私が腕によりをかけて、銀の髪が清廉で美しく映えるものを選び、化粧もかなりしっかりさせている。髪は二年の間に伸び肩くらいの長さとなっていた。その髪に付け毛をつけ、髪を結い長く見せている。
改めて見ると、成長したユーリの女装は、以前のものより私の目から見ても美しい令嬢として育っていた。男子なのに伏し目がちに優雅に振る舞うと、前より色香のようなものさえ感じる。そして、何故かマティアス様に優しい・・・ように見える。
とはいえ、接触が長くなると何でバレるかわからない。ボロが出るのを防ぐために、前より短く二週間の滞在です、と先に区切ってある。
その間マティアス様は最初から毎日日参してきた。毎日私も顔を合わせる訳で、つい真顔で彼に聞いてしまった。
「マティアス様は暇ですか?」
「暇ですか?」と聞いた時、ちょっと傷ついたような顔をしていた。愛の力とか、デリカシーがないとかぶつぶつ呟かれる。
聞いたらルチア嬢にゆっくり会えるように、その二週間に行うべき勉強範囲を、前倒しで詰め込んだと言われた。つまり、面倒なことに二週間全てフリーらしい。愛の力ってため息つきたくなるくらい素晴らしい。
さらに、遠くから来て館の中のお茶や食事だけではつまらないだろうと、マティアス様がルチアを変に気遣ってごねた。公爵家で会うだけでなく、観光や外出をしたいと。
ごねている内容を総合すると、ルチア嬢を同伴し、外で二人でキャッキャウフフとデートしたかったのだろう。
さすがにマティアス様を連れての堂々とした外出計画は、私には荷が重くお父様に相談した。自分のお忍びならこそっと出て、こそっと帰るだけなのだが。さすがに長時間は不安がある。
相談の結果、王太子殿下とお父様に警備計画を立ててもらうことになった。神殿や王宮等の観光地めぐりは、人が多く警備が難しいし、誰が見るかわからないので、却下。外出の予定はお忍びで芝居見物や、遠出は難しいので公園の貸し切りスペースでのピクニック等を計画することになったのである。
『ルチアの迎えという名目でフィリスとこっそり隠れてユーリが、隣国の海の玄関口まで往復二週間強の旅に出ることとなったのだった。』
の文を追加しました。似たような文をどこかに入れてたはずなのに、消したのか見当たらなくなってたので(汗)




