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私の力は便利です

 しばらくして、私の魔法の力は意外に重宝されることがわかった。


 私にはかなり練習はしたがかっこよさげで、便利に使える魔法の才能は開花しなかった。魔力量も多くや制御も問題ないが、純粋に属性が混在する魔力のせいで、どの魔法もうまく発動しないのだ。普通は練習すれば、他の四大属性等の魔法も魔石等のアイテム補助が要っても、多少は使えるようになるのだが。属性がコントロールできないというのがネックになって、補助があってもやっぱり私には他の魔法は使えなかった。


 だが、自分の才能を試してみた夏、『灯り』の魔法を使ってみると、確かに私は夏に蚊に噛まれることは無くなった。さらに、豆電球のように一晩持つ『灯り』も作れるようになった結果。


 使用人たちにも重宝され、毎夜館のあちこちに魔法の『灯り』をつけて回ることになったのだ。ただ、さすがに毎夜歩き回るのは大変なので、すぐに歩き回ることは無くなった。公爵令嬢に厨房だのお屋敷の裏側を回らせるのは不適当だと、お父様や執事からストップがかかったからだ。


 だがそれからは、『灯り』を入れるランタンや燭台を沢山用意され、自室で夕食前に詰めることになったのだ。歩き回るより詰める方が数が、増えた気がするのは気のせいだろうか?


 まぁ、どのみち私の魔法が必要とされているのは嬉しいが、正直これじゃない感がすごい。だって、転生者の魔法なら、無敵なくらいチートが普通じゃないんだろうか?


 一応、魔法の労働対価はお父様に請求して、将来のために貯金はしている。貰える物は貰っているから、粛々と毎夜長持ちする『灯り』を大小のランタンや燭台に詰め続けることになったのだった。






 公爵令嬢なのに庶民の便利道具化した私に対して、ユーリの魔法の才能は煌めいていた。四大元素の初級魔法はすんなり出して、ライノールを唸らせ、魔力量も私なんてはるかに越えてすごいらしい。ちなみに平民に魔法を使える人は少ないし、使える人も適性のある一元素ずつが普通なのだ。


 複数元素を操れるユーリ。嬉しそうにユーリに次々に魔法を教えようとしたライノールに、お父様とフィリスからストップがかかった。


 理由は『魔法の才能が目立つと普通の人生が送れなくなるから』と二人は、異口同音に言った。


 例として変に聖属性の魔力があったために、商人になり幼なじみと結婚するという、将来の夢を諦めた女性の話をされた。彼女は命がけで戦場で人を救い続けた。聖女に等しい力を持っていたのに、体制の方向性に合わず悪女と呼ばれた。結婚してもその評価が緒をひき、最期は暗殺された女性、私の母の話だった。


「彼女は魔法の才能さえ無ければ、もっと違う人生があったはずだった。」

「お母様はお父様を愛していたのでしょう?違う人生だったら出会えなかったのでは?」

「リリアーヌは愛してくれたよ。私も誰よりも愛していた。だけど、私は彼女を結局守れなかった。だから、『もし、魔力が知られず暮らせたなら、商家の女将さんとして店を切り盛りして、子や孫に囲まれ平穏に一生を終えられたかもしれない。』と、思うんだ。たとえ、私に会えなくても、ね。」


 お父様は寂しそうに笑う。その笑顔はとても重い後悔を滲ませていた。


 次はユーリの母たるフィリスが言う、過ぎた魔法の力がどう人生を狂わせるかを。


「過ぎた力は人の欲しか呼ばないから。私や公爵、リリアーヌは魔法が戦場で使われるのを見てきた。強い四大元素の力が戦場で何に使われるか知ってる?」


 私とユーリは視線を交わし、同時に答えた。


「敵を倒すことです。」


 私は自分で答えたものの、平和な日本や温室な公爵令嬢生活で、ゲームでモンスターを倒すくらいしか想像できていない。


 ちなみに暗殺関係のおかげで、毒が入れられるとかは、割と日常なのだが。今のところほぼ屋敷から出たことが無く、腕の立つ警備のおかげで、剣を振り回す刺客も血まみれの死体も直接見たことはない。


「そう、殺すために使われるんだ、主に。だから、魔法が使える子供、特に貴族でもない人間は早期教育と称して、自分たちの都合のいいように育てるため引き離されるの。リリアーヌのように神殿や、王族含めそこを治める貴族たちが、魔法の英才教育と称して、ね。ただ、リリアーヌのような治癒魔法なら、市井で感謝されながら生きる道もあるから、まだ幸せだけど。敵に回れば怖い破壊の力は、畏怖も呼ぶから洗脳に等しい色々な枷をつけられる。さらに自分たちで、御せないとなれば殺されるんだ。」

「魔法がすごく使える子供は、兵器扱いなんですね。」


 私は転生前の世界で読んだ、さらわれて洗脳を受け兵士にされる少年たちの話が浮かんだ。


「うん、貴重で強すぎるほど自分で人生を決めるのが難しくなる。ちなみに四大元素全部自在に使える人は、国のトップ数人しかいないの。それに魔力が強ければ強いほど、より幼い時から、人より沢山殺すことになる。だから、せめて12歳で王立学園に通うまでは、自分の心がちゃんとできるまでは、普通の子供として過ごして欲しいと思ってるんだ。そこからなら軍属にされるにしても、三年間は学生として猶予もあるしね。」


 公爵家の保護があれば絶対大丈夫と言い切れないのは、ユーリほどの力がもし明るみに出れば、王家や神殿、あるいはそれらが使う非合法な組織が、理由をつけて親元から引き離すことになる。また場合によってはさらってでも、手元で飼い慣らそうとするからだと言う。


「確かに俺も八歳の時に親から引き離された。十二歳の頃には良くも悪くも一人前だった。」


 ライノールの言う一人前とは、魔法を使える兵器として一人前という意味なのだろう。ぼそぼそ淡々とした語り方は変わらないが、過酷な人生がほの見えてくる。


「そして、俺が14歳で聖伐に当然のように参加させられたのは、平民出身だったからだろう。今生きていて自由があるのは、公爵の力があったからだ。それが無ければ、今も誰かの道具だったろう。・・・・ユーリがあまりの才能だったので、夢中になってしまった。軽率だったようだ。すまない。」


自分の過去をライノールは頭を下げた。フィリスはかぶりを振る。


「いえ、普通は魔法の才能があることを、素直に喜ぶものだから。実際貧乏な家では出世やお金につながるもの。」


 魔法の才能があるとわかれば、平民でも学校で教育を国費で受けられたり、大人になれば高い報酬が貰える仕事に就け、場合によっては爵位を手にも出来たからだ。


 そこまでは聞き手に回り、言葉を挟まなかったユーリ本人が、訓練中止を了承しながらも、別方向から食い下がる。


「公爵様や母さんの心配は分かりました、ならば目立つ難しい魔法は要りません。だけど何の力もないのも困るんです。だから、簡単な魔法でいいです。魔力の制御を教えて欲しいんです。何かあった時に初歩すら使えなかったり、暴走したら困るんです。」


 ユーリの眼にもしっかりした意思と決意の光があった。


「僕も確かに権力者が、都合良く扱う兵器にはなりたくない。でも、いざという時に、守りたいものを守れないのは絶対嫌なんです。だから、その為の力が欲しいんです。」


 魔法がまともに使えない私と、使え過ぎるので目立ってはいけないユーリ。結果として皆の前では二人は身を護るため、内側で魔力を巡らせる身体強化と、剣や武器の訓練を中心に鍛えて行くことになった。私とユーリ、二人の将来を守るためそれぞれの魔法の使え具合は、外には秘匿されたのだ。身体強化+武器の適性はユーリにはあまりなかったが、私には向いているのかそこそこ使えるようになった。


 その後、公爵家の図書室で、一人魔道書を読みふけるユーリの姿をよく見かけるようになる。そして、ライノールと庭で二人話す姿もたまに見かけた。時折消えるのは二人でどこかで訓練をしているのだろう。


 派手な魔法を使っている姿は見かけなかったが、時折使用人が『ユーリが鼠を捕まえた』とお父様に報告していることから。まずは私と同じ、便利な厨房の守り人になれたようだった。

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