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昔話

読みに来ていただきありがとうございます。


今回は長めになります。

「リーチェ様がんばれ~!」 


 ユーリはどんな時でも全力応援してくれる、私の味方だ。サントカル訪問時に、銀色の髪は短くしたがやっぱり可愛らしいことには変わりない。


 そして、私は今魔法の練習をしていた。異世界転生といえば、チート。チートの中でも魔法が使えるようになるのは、華やかで憧れでもある。そんな思いをこめ、私は今日も呪文を唱える。魔力が伸ばした手の先に集まる。私は気合いを入れ、私は力いっぱい叫ぶ。


「うりゃー!」


光の玉が空中に生じた。


「リーチェ様すごーい!」


可愛い弟キャラユーリは、どんな時でも私を大絶賛だ。


「ほほほ!・・・バカにされてるようにしか聞こえないけど、ありがとう。」


パチパチパチ、ユーリの拍手が聞こえる。だが、誉められれば誉められるほど空しくなる。この魔法は初級の初級だからだ。


「リーチェ様すごく明るいよー!」

「すごく眩しいまでの光量が、魔力の無駄遣いだな。魔力量はあるのに、何で『灯り』しか作れないんだろう?」


魔法の師であるライノールは、私の作り出した眩しいまでの光の玉を眺め、ちょっと不思議そうな顔をする。


「師匠の教え方が悪いんですわ、きっと!私のせいじゃありません!」

「一緒に教えている、ユーリは十二分に魔法を使いこなせているのに?」

「うううっ・・・」


 そう、残念なことに私は、ほぼ全ての属性の魔法を私は発動させることができなかった。魔力量は魔法器具で測定したが、高位貴族として恥ずかしくないくらい確実にある。ちなみに、魔法の力は血統で多さが決まるので、高位貴族や王族は魔力が強い。さらにその血統と魔力を維持するため、魔力が少ない者は高位貴族には嫁にはいけないなど、魔力の素養は人生に大きく関わってくる。逆に魔力量があったり希少な魔法が使えれば、平民でも貴族の養子になれたり栄達の道はあった。


 魔法が使えるユーリはそういう意味では、平民の出世コースに乗れるのは確定だろう。


 魔力量はあっても、無属性の初級の『灯り』の魔法しか使えない高位貴族は、陰で相手に笑われる類いのものだろう。


「私は公爵令嬢なのよ!師匠であるならなんとかしてくださいな!」

「無茶を言うな無茶を。魔力の量はある。何か精神的な的なものなのか。何か魔法にトラウマになるような思い出とかないか?あと、自分は魔法を使えないと信じるような失敗とか。」

「そんなものないですわ。私はすごい魔法が使えるって信じてましたもの。」


 そう、転生者はチートがお約束、だから魔法が使えるようになるのを楽しみにしていたのだ。


「その自信もすごいな」


 結構気合いを入れた『灯り』は部屋を太陽のように照らす。魔力量はあるため、灯りの明るさも持続時間も長く、魔法としては使いどころはあるのだが、攻撃魔法の華やかさはない。


「だが、異様に眩しいな、この灯り。」


 光量が落ちない私の作った灯りに、ライノールが手を伸ばして触れた。そしてちょっと驚く。


「これ、普通の無属性の魔力の明かりじゃない。いくらか聖属性の魔力が入ってる。リリアーヌ様は聖属性だったからかな。」

「聖属性って治癒魔法とか?リリアーヌお母様は聖属性だったの?」


 お母様の聖属性は肖像画や周囲の噂で聞くイメージに合わなかった。残っている肖像画も多分当人の容姿に忠実すぎて、館を支配していた妖艶な魔女ちっくだったからだ。お父様とかに聞くと聖女そのものなのだが、恋する者のひいき目を考えると割りびいて聞いている。まぁ、身分差による偏見とはいう、親戚にはことあるごとに、あの女の娘呼ばわりで、未だに陰口を言っている。公爵家の使用人でも古い者は、色香で公子を惑わしたと思ってる節がある。


 まぁ、自分の母の話ながら、外見だけならどちらかといえば聖女より、娼婦のイメージだ。肖像画のお母様は、強力な武器になったであろう豊満なバストを持っていた。そこはかなりうらやましいので、是非受け継ぎたいところだったりする。


「リリアーヌ様は軍の治療魔導師として召集されたが、破格に凄かったよ。戦後特別に聖女の称号をとの声が上がるくらい、彼女の治療に命を救われた人は沢山いる。広範囲に祝福と呼ばれる魔法を放って、彼女一人で戦況が全く変わったくらいだ。ただ、残念なことに。」


 そこまでお母様を褒め称えていたライノールは、私の顔を見てからため息をつく。


「顔が綺麗なのに、トゲがあって、笑うと悪巧みを考えているようにしか見えなかった。敗戦でしかない聖伐の結果明るい要素として、叙勲する候補に入ったんだけど。なんだか、見た目で損して叙勲から外されたって一時噂になったんだ。」


 お母様・・・・そこまでですか・・・。顔がそっくりな私の将来がちょっと不安になる。


「戦場で不謹慎にも、公爵家の跡継ぎであるサリアス様を誘惑したとか。意図的に撤退に持ち込んだとか。都に帰ってきた時には、公爵閣下と恋愛関係にあったから、噂されるのは仕方ないとお二人は反論はしなかった。最後は政治的判断で別の女性に聖女の称号を授けて、手柄も功績も彼女のもののように宣伝されてしまった。」


なんだか、お母様はとことん損をする星回りに聞こえる。ただ、平民で公爵たるお父様と結婚できただけでも、大金星な気もするが。


「ただ、本当にサリアス様とリリアーヌは愛し合ってたから。結婚だけは譲らなくて、ね。愛妾にすればという周囲を押しきって、田舎の教会で二人で式を上げてしまった。噂は凄まじかったよ。悪い方にも、純愛の美談にもね。ただ、聖伐軍にいた者たちは、皆二人に助けられてたから、心から祝福したけどね。駆けつけられる者は皆駆けつけたから、小さな教会に数百人が集まったんだ。そして、どんなに宣伝されようと真の『聖伐の聖女』が誰であるかは理解してたよ。」


 公式の『聖伐の聖女』は今は別にいる。身分高い後ろ盾のあるお母様の同僚がその栄誉ある称号を受けたのだ。

 ライノールのお父様とお母様の事を話す言葉には、温かい感謝の気持ちが滲んでいる。同時に、フィリスとお父様が私の魔法の教師に、ライノールを選んだのは戦場で培われた信頼があることがわかった。


「お父様やお母様、ライノール様やフィリスが魔王軍と戦って、勝利した伝説の軍隊だったんですね。お父様たちは全然話してくれないので知らなかったです。」

「勝利?君たちはサリアス様ににそう教えられてるのか。」


 ライノールは怪訝な顔をした。


「死者数が少ないから、そう宣伝されてたが。実際はうちの聖伐軍のボロ負けだから。うちの国の神殿の幹部が司令官で来ていてね。同じ神を崇めるイートフィリアを始め、何ヵ国かから小規模だけど義勇軍も来ていた。だから、連日ボコられてるのに、死人が少ないからと、神の御名の下撤退させなかった。撤退=神の威光が地に落ちると思ってたんだろう。」

「死者が少ないなら、いい勝負だったのでは?」

「いや、そうでもないかな。治療師のリリアーヌ様が破格に性能が良くて重傷者も数日で動けるようにしてしまったからね。」 


 ライノールがさらに昔を思いだしつつ語る。


「最後は食料が尽きかけた時に、治療部隊と食料が強襲をうけて全滅。実際は治療部隊は、後方の砂漠に転移させられてたんだけど。その夜の混乱で、神殿から派遣されてた司祭兼司令官一行が死んで、副司令官のサリアス様、つまりアイリーテ様のお父様が撤退の指揮をとったんだ。」

「お父様がそんな活躍をしたのですね!知りませんでした。」

「それだけ、魔王軍は強いのに、聖伐軍はどうして死者が少なかったんでしょう?」


 感動する私の横で、ユーリは真剣な顔で考えながら、ライノールに質問をする。


「それは、遊ばれていたというか、治療部隊の扱いを考えれば、何かの理由で手加減されてただけだろうね。治療師の腕があったにしても、死ねば生き返らせられないから。凄い美形が転移で急に現れて、一瞬後には砂漠のオアシスだったらしいから。治療部隊の皆があまりの神々しさに、神の使いが現れて救ってくれたって言ってたよ。まぁ、どちらなのか謎のままさ。」


 神の使いまで顕れるのか、さすが魔法や魔王のある世界だ。私は一度魔王の国に観光に行ってみたいなぁと、ほのかな夢を持った。そんな淡い楽しい気持ちに浸る私を、ライノールが自分の手をパンと鳴らして現実に引き戻した。


「さぁ、昔話はここまでだが、今日語った話は皆が知っている歴史とは違うのは分かったと思う。違うということは、権力者の方針と違うということだと、心に刻んでくれ。似たような話は貴族社会ではあるだろうが、不用意に権力者に逆らうような話を外ではしない方がいい。今日聞いた話は、ここだけの話だと思って欲しい。」

「もしかして、この事実が危険だからですか?」


 優しい顔をして、ユーリはライノールに鋭い質問をする。


「それは答えられないが、一つ言えることは今伝えられている歴史とそぐわないこと。聖伐に行ったサリアス様が教えない方針だと言うことが分かったからだ。君たちがこれについて口にすれば、家に妊婦の妻と二人の子供を抱えた私は職を失うだろうね。」


 その言葉に私とユーリは顔を見合わせ、あまり話してはいけない事なのだと心に刻むことにした。いずれ、お父様と二人の時に聞いてみよう、私はお母様や聖伐についてもっと聞きたい好奇心を押さえた。


 副司令官だったサリアス様は現実を知っているが、あえてアイリーテ様に教えなかったのだろう。聖伐の現実を、真実の聖女の名を声高に語った者は、行方不明になったり、暴漢に襲われ土の下に行った者が多いのだ、と。そうライノールが私に語るのは数年先のことになる。

9日日曜日から、日曜の更新を休む予定でしたが、月曜日休みに変更します。


10日月曜日はお休み予定となります。

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