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王子様とハイヒール

ブックマークありがとうございます!

 少年キャラが好きだった前世。昔だったら、ユーリの次に推しになっていただろう、六歳にして華麗という言葉が似合う金髪碧眼のマティアス様。だが、今の私は全然彼に萌えられない。


 むしろ、王太子殿下のご子息マティアス様を高笑いながら、ハイヒールで思いっきり足蹴にして踏みつけたい。そんなことを最近切に思う。


 SM女王に踏まれる王子(まだ仮)なんて、すごくマニアックな趣味だが、一つのジャンルを作れそう。いや今は、そういう趣味やマティアス様が好きだからじゃなくて、純粋にムカつくから踏みたいだけ、なのだが。


 元の精神年齢から考えると児童虐待だが、六歳の子供同士なら可愛い戯れにならないかな?


 そんなことを考えるくらい、私は毎日ストレスを抱え、作り笑顔で過ごしていた。そんな私の横で今日も、小さな恋の物語は展開されていた。


「今日は君がいい匂いだって言ってた花と、街で有名なクッキーを持ってきたんだ」

「ありがとうございます・・・。」


 ちょっと、もじもじしながら、フリージアの花とクッキーの箱を差し出す金髪に碧眼の美少年。躊躇いながらも受けとる儚げな銀髪の美少女は「アイリーテ様」と、花と菓子を受けとるとすぐ私の後ろに隠れる。


「良かったわね、ルチア。ありがとうございます。マティアス様。」


 その態度に不満げな美少年、マティアス様。


 だって、ルチアがマティアス様を好きとか思われて、さらに燃え上がったら手のつけようがないんだもの、話しすぎて男子だとバレても困るし。だから、できるだけ、会話も私を介してしてもらっている。たまに、睨まれてる気もするので絡みたくはないんだが。


 私は気疲れから、密かにため息をつく。


 あの茶会の二日後から、マティアス様がほぼ連日に近くうちに来ているからだ。最初のうちは前日に手紙があり、来ても隔日だった。それが、手紙より先に本人が着いたり、今は先触れも無しに時間もバラバラに思い付いた時に来るようになった。


 それも最近は毎日。


 マティアス様は本気でルチア嬢(ユーリ)に、恋をしてしまったようなのだ、多分。


 平民の娘に会うため毎日外出って、六歳の子供を自由にさせ過ぎだろうが、王家。私は前世のせいで、貴族に対して選民思想はない。ない分最近王家への尊敬がかなり消えて、心の中で毒づくことが増えた。


 この状態でストレスを抱えるのは私だけじゃない。


 最初の二日くらいはちょっと違う方向性だけど、親交を深めるため、再訪してもらえたと喜んでいたお父様。マティアス様の本気の来訪が続くようになった三週間で、お父様は病気かと思うほど、頬がこけ激痩せした。


 ルーデルお兄様は「関わりたくない、責任とりたくない。」と休日家にいる時でも、マティアス様がいる時は絶対出て来ない。

 

 ユーリは男というのがばれたら、王族を欺いたと公爵家巻き込んで親子死罪かもという緊張感で、か細い声で必死で対応しつつ、たまに糸が切れて気絶するまでに追い込まれている。


 それらがルチアちゃん(ユーリ)か弱い説、守ってあげなければにつながり、来訪頻度や滞在時間を増やすことになった。さらに、


「こんなに身体が弱いルチアちゃんを、遠い国に帰すような長旅はさせられない。」


と、一ヶ月の滞在予定を無しにしようとしてくる。王族の強権で命令されると大変なことになる。


「お願いだから、お父様お母様のところに帰して!」


その時ばかりは真に迫った演技で、ユーリが大声で号泣して、こと無きを得た。


 さらに、巻き込まれた使用人も災難である。二回目の来訪で、お父様が従業員全員に『魔法契約書』を結ばせた。お給料倍、退職金も倍にする代わりに、『バーシュタイン公爵家であったことを在職中も辞めた後も、外にを漏らしたら死んでもかまいません』と自筆で書かせた。もちろん、書かないという選択肢もない。魔力の拘束があり、契約書を書いた時点で、情報を漏らせば即死である。給料増えて喜んでいる人もいるが、従僕やメイドさんにも顔色が悪い人が増えた。


 楽しそうなのはいつでも出ていけばいいやと適当なフィリスと、毎日プレゼントを抱えてくるマティアス様だけだ。


 ちなみに、食べ物系プレゼントは、たまに匿名さんからの追加で、針や薬が入っていた。マティアス様暗殺疑惑でうちの公爵家と王太子一家と仲違いさせたいのか、何故か世間的に婚約者候補筆頭に躍り出た私アイリーテを排除したかったのか。


 何故私が筆頭かって?それはマティアス様がルチア嬢(ユーリ)目当てなのは、魔法契約書の効果とマティアス様が口をつぐんでいるせいで、世間には知られていないからだ。


 とりあえず、私やお父様の采配でプレゼントは取り替えたり、毒味を先にさせるしかなかった、持ってきたマティアス様には言えぬまま。


 昨日、ルチアに話題提供させた店のクッキーは、こちらでも全種類交換用に買ってある。真っ先にお腹を壊したり、口に針が刺さるのは、二人の間で暇すぎてお菓子を食べてしまう私だからだ。


 菓子の基準は私が食べたいお菓子かつ、交換を容易にするため人気の店で数が置いてある商品にしていた。あと、私的な王家の我が儘での取り置きや取り寄せは、職権乱用だと釘を刺して、普通に買いに行かせるようにしていた。取り寄せ取り置きは渡る相手が分かっているので毒を入れやすい。逆に沢山客がいる店の商品に、無差別に毒は入れられないだろうと、お父様からのアドバイスもあった。


 それでも、一応毒味したこちらの用意したものと交換している。


 ちなみに、これだけ苦労している婚約者候補筆頭の私は、マティアス様にあからさまにお邪魔虫扱いされている。色々な面のフォローで、二人っきりにも出来ないので、私はずっと二人に付き合っていたからだ。そのため、しょっちゅう邪魔者扱いされた。


「アイリーテ嬢は無理して付き合わなくてもいいのだが」

「アイリーテ嬢がいると、ルチア嬢が話したいことがあっても話せないのではないか?」


明に暗に二人にしろと言ってくるのを、流すのは面倒だが。幼くても恋の力はすごいものである。


 美少年同士の恋愛模様(?)に、ちょっぴり萌えないわけじゃないがそれはそれ。まだ、王子でなくても、婚約してなくても、私はやっぱりヒーローとヒロインの邪魔をする悪役令嬢になっている気がする。


 きっかけは私の自業自得とはいえ、ここまで報われない状況だと、誰でもマティアス様をピンヒールで踏みたくなるんじゃないだろうか?

読んでいただきありがとうございました!

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