闘技場での一幕 一般プレーヤーの哀愁
「……無理だよ。第一、どうやったらあんな動く?」
二つ名持ち同士のエキシビションが終わり闘技場が歓声に湧く中、俺はひっそりと頭を抱え深く溜息をついた。これ以上動く気も、所構わずわめき散らす気も、あること無いこと触れ回る気も起きない。
周りが何か言っている気がするが、何を言っているのかさっぱりだ。いつの間にか激しく揺さぶられたのに気付いて、すごすごと顔を上げた時には、目の前に闘技場の係員らしき男がいて、
「やっとか……これでも分からんなら、追い出してる所だったぞ。部外者は帰った帰った」
と面倒臭そうに話し掛けていた。俺はその言葉を聞いてちょっと苛ついたが、抵抗して無駄な労力をかけたく無いので、渋々席から立ち上がり、とぼとぼとした足取りで出口に向かおうとしたら、
「早せんか」
と、男からせっつかれると共に、じろりと睨まれた。男にせっつかれた拍子に俺の体がよろめいて、二歩三歩と前に進む。俺の心が多少男への怒りに振れたが、係員の義務だと思えば、現実で苦労を知っている身故に怒る気にもなれない。
「給料上げてくりゃなぁ、はぁ……」
と後ろから聞こえた気がしたが、また怒られるのは御免だ。それで、俺は止まろうとする体に鞭打ち気合を入れると、急ぎ闘技場を出ることにした。