解答篇
「それはつまり、みくじ掛けに結ばれていたおみくじがなぜ解かれていたのか分かったということですか」
氏家美千代はテーブル越しに小さく身を乗り出す。碓氷は頷くと、
「まったく偶然的なことですが、あのニュースが僕に大きな手がかりを与えてくれたのです。手がかりと言えば、氏家さんの証言も大きなヒントになりました」
「私の、証言ですか」
美千代は小首を傾げると、記憶の糸を手繰るように視線を宙へ彷徨わせる。
「あのニュースって、何とかとかいうバンドのボーカルが神社にお忍びでやって来たあれか」と、蒲生。
「そう。既に手がかりは出尽くしているよ。十日前に神社に参拝へ訪れた、人気上昇中のボーカリスト。手当たり次第に自身のサインを書き残す風変わりな癖。そして一週間前、ボーカリストが訪れた神社の、みくじ掛けに結ばれていたおみくじが解かれていた」
数学の計算式の解き順を説明するような口調である。碓氷先生の説明で先に答えへと辿りついたのは、謎解きの発端となった氏家美千代であった。
「ボーカリストの、ファンだったんですか」
にんまりと笑みを浮かべる碓氷。続いて蒲生も、両膝を叩いて鋭い声を発した。
「そうか! だからおみくじは解かれていたのか。犯人がおみくじを解いたのは、目的ではなく手段だった」
「そう。犯人は参拝者の不幸を願っていたわけじゃない。どこかに結び付けられているかもしれない、憧れのボーカリストのサイン入りおみくじが目当てだったのさ。結ばれたおみくじを解いてみないと、分かりっこないことだから――おみくじと掛けて、これで謎も解かれたってことだね」