もしかして餌は俺ですかァ!?
俺が質問した内容に妙義は素直に答えてくれた。
「そうだな。私が悪かった。王族とはこの国ジャパルグを納めている方の一族。
今はヒマラヤ王が納めている。
今回の護衛の依頼はそのヒマラヤ王の娘様であるマナスル王女様の旅行の帰り道の護衛だ。
王女様は最近、暗殺者に狙われているらしいからな。警備は厳重にと言うことだ」
姫様も大変だな。暗殺者に狙われている身として共感する部分がある。
だが、それを聞いただけでも護衛へのやる気が溢れてくる。
そして妙義は更に王族の事を俺に教えてくれた。
「──幼い年ながらも暗殺者に狙われている王女様は本当にかわいそうなお方だ。
10歳というお年ながら悲しい運命を背負っていらっしゃるんだ」
妙義の発言のとある一言に俺の中のセンサーが反応する。
「10歳……」
「おい、明山。変な考えを持つなよ」
どうやら妙義には俺の頭の中が見通されていたらしい。
そして、彼女はその言葉を言ったついでに俺に質問をしてくれた。
「まぁ、お前はそんなことができるほど度胸が無いのは知っているから。安心だが、明山ひとつだけ聞きたいことがあるんだけど」
そう言いながら妙義はとある方向を指差した。
その方向に目を向けると、そこにいたのは……謎の簀巻きである。
「あっ、あれはこの前俺を襲ってきた刺客だが?」
「いや、そんな軽く答えられても困るんだけど」
妙義は苦笑いをして答えた。
「ねぇ…明山。あの簀巻きから嫌な臭いがするんだけど…。洗脳の臭いがプンプンするわ。こいつの背中から嫌な洗脳の臭いが」
そう言いながら黒は簀巻きにされた哀れな男に近づいていった。
もしかして黒は鼻が良すぎるのだろうか。
それとも邪悪な臭いだけをかぎ分けることができるのかもしれない。
「ムームーフガッームー」
そいつの口には猿轡が付けられていた。
涙目になりながら逃げようと暴れている簀巻きの男だったが、その努力も虚しく黒に捕まれてしまった。
「ねぇ~簀巻きさ~ん? 何か臭うんだけど……禍々しい鼻にくるにおいが……。」
何かを感じ取っているかのように息をはき、怒っている黒。
そして黒はそいつの胸ぐらを掴み上げ、地面に投げつける。
「フゲッ!!!」
その時、背中を黒に見られてしまったのだ。
「やっぱり何かあったわ。 でも何かしら? セロハンテープ?」
黒は背中に貼ってあったセロハンテープを見つけた。
その発見に気になった俺は席を立って黒の元へと近づく。
「ゴミが付いてるのか?」
そう言いながら俺は覗き込むが、黒に注意されてしまった。
「近づいたらダメよ。このセロハンテープから嫌な臭いがするわ。ねぇ…剥がしてみましょうか」
俺には近づくなと言っておきながらどういう風の吹き回しだろうか。
まぁ、興味があるのは同じである。
「そうだな」
「いくわよ」
俺たちの行動が気になったのだろう、妙義もこちらの様子を伺いにやって来た。
「いくわよ。せーの」
黒が掛け声と共に背中に貼ってあったセロハンテープを剥がす。
黒がセロハンテープを剥がしたその瞬間、そいつの体からセロハンテープと共に何かが剥がれ落ちる。
なんだか紋章みたいなマークの物である。
しかし、体の中から出てきたのに怪我すらしていないのは何故だろう。
すると、それを見た瞬間に黒の表情が一転する。
「これは…真ルイボルトどもの紋章…。
その紋章はおそらく強制的に洗脳ができるのよ」
「真ルイボルト教?」
「そいつらは神の教えを勝手に変更して、各地で悪行を行っている奴らよ。
これは魔法でも付喪神の能力でも外せない用になってたのね。セロハンテープを外す以外に洗脳を解く方法がないのよ。でも、これで安心ね」
強制的に洗脳ができる紋章を体の中に入れられていたのか。
俺はヤバイやつらに絡まれたんだな。
今、思うと恐怖である。
すると、その紋章を黒は粉々に砕き割った。
「もう一度言うわ。これで安心ね」
安心する黒を見ていた妙義は少し気になることがあったようだ。
「真ルイボルト教か。けっこう厄介な奴らに絡まれたものだな。なぁ黒、やはり明山を護衛に連れて行くのは……」
そう言いながら妙義は悪そうに俺を見つめてくる。
そりゃそうである。
狙われている王女に狙われている俺を近づけるというのは危険なものだ。
「そうだよな。俺が護衛になって近くにいたら王女様が危ないしな。あはは…仕方がないよな」
「明山……」
妙義が俺を心配そうな目でに見つめてくる。
そんな目で見ないで欲しいものだが、そう言う気力すらない。
「何を言ってるのよ。明山は護衛に行くのよ」
突如、黒が声を張り上げて発言した。
「いや、黒お前分かってるのか? 王女様を更に危険な目に会わせるのは」
「何を言ってるのよ。王女様への危険なんて沢山の護衛がいるんだから大丈夫よ。それよりも真ルイボルト教よ。こうやって強制的洗脳をして信者を増やすなんて……。
いい? 明山。真ルイボルト教を布教している奴はきっとあなたの前に現れるわ。その時こそぶっ飛ばしてやるのよ。
そのために…私のためにあなたは餌になりなさい!」
どうやら真ルイボルト教の信仰者は黒の恨みを完全に買ってしまったようだ。
俺は黒の肩に両手を置くと、
「お前って奴は……。俺は初めてお前を人の心があると思ったぞ」
「何言ってんの? もともとあるわよ」
「まぁ、黒がこう言ったら聞かない奴だからな。だが、王女様からは絶対に離れろよ」
妙義もどうやら俺の同行をいやいや認めてくれたようだ。
「ああ、肝に命じておくぜ」
これで俺も護衛に同行できる。
俺は嬉しかった。もはや金のためではない。
王女様を見てみたいという欲望が叶うのだ。
異世界あるあるの王族に出会えるとなると気分が浮かれるものであった。
「それじゃあ、王女様の護衛を成功させるわよ」
「「オオー!!!!!」」
黒の声かけにより三人の心は護衛を成功させるという目標の為、努力する覚悟を決めた。




