鈴木のコーヒーは国内1ィィィィィィ◯◯い
「明山さんも入りましょうよ。ルイトボルト教。おすすめですよ? 今なら~今なら~えっと……………」
「何もないのかよ! 黒。
あと、あれから生徒会どもの様子はどうなんだ?
お前、一緒の学校なんだろ?」
放課後、付喪カフェで二人の男女が席に座りながらコーヒーを飲んでいる。
この店でバイトとして働いていた俺と黒の二人である。
俺たちは普段は接客をする側なのだが、今日は客としてこの店に来ているのだ。
こうして客として店内を見てみると、いつもの視点と違って見える。
俺が店内の雰囲気を楽しんでいると、黒は自身のアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、めんどくさそうに答えた。
「生徒会ね~。あいつらは魔王軍幹部の八虐であった四阿を再起不能にしたから……評価が高くなって有名人よ。
付喪連盟の王レベルへの評価も鰻登り。ますます人気も上がってるわ」
「ふ~ん」
あの後、あいつらはもっと知名度をあげて、一躍町のヒーローとなっている。
俺はまだ一番下のレベルなので記録には手伝ったとしか登録されていないのだろう。
正直な感想を言うと、王レベルの付喪人達のように知名度をあげて幸せ生活を過ごしたいのだが…。
俺の周りの奴らが俺の出世を邪魔するのだ。
「あら明山、まだミルクなしでコーヒーが飲めないの~?」
早速、俺の静かで貴重な時間を黒が邪魔をする。
そんな黒は俺が普通にコーヒーが飲めない事をネタにしてくるのだ。
彼女は俺のコーヒーを覗き込みながら、必死に笑いをこらえている。
「いいだろ? それくらい。
水曜日バイトの2人だって飲めないんだから」
俺は言い返せそうにもないので、目線を黒からそらし黙ってコーヒーを飲んだが……。
「不゛味゛ッ゛!!!!」
表現できないほどの不味さ。
毒でも入っているのだろうか。
口に広がってくるのは、絵の具に苦い薬を混ぜたような味。
泥水感が満載の液体。
俺は思わず吐き出しそうになるコーヒーを必死に口の中で耐えていた。
俺がミルクを入れたコーヒーを頑張って完飲すると…。
「どうですか? 今日のコーヒーは私が入れたんですよ」
そう言いながら、こちらに向かってきた男はショートケーキを俺たちの机に置く。
「さすが、鈴木。サービスが効いてるわね~」
白髪の新人さんは自身の先輩に向かって特別にショートケーキを差し出してしまったのだ。
黒は目をキラキラと光らせながら美味しそうにショートケーキを食していく。
「鈴木さん、黒を甘やかしたらダメですよ。こいつが調子に乗ってしまいますから」
すると、鈴木さんは仏のようにニコリと微笑んで彼女を庇う。
「いえいえ、私も早く皆さんと仲良くなりたいですから……。挨拶代わりですよ。それでは・・・・・・」
そう言い残すと鈴木さんはまた厨房に戻っていった。
鈴木さんが厨房へと戻っていった後、俺はあのときから気になっていた事を聞いてみることにした。
「なぁ、黒。そういえば、前に言ってたよな。
ほら、回復魔法を使った後だよ。白帝家とは違うって…。あれはどういう意味なんだ?」
俺はコーヒーの入っていないコップを片手に黒に疑問をぶつける。
すると、黒は少し気まずそうな表情を浮かべた後に、
「白帝家は本来、黒帝家よりも魔力が苦手な血筋なのよ。
私たち黒帝家と白帝家は相反する家柄…。
古来よりライバル関係というか…敵対関係というわけよ。
でも、向こうは世代事に魔力が低くなっている。
兵器とか武器とか神具に浮気してたからね。でも、黒帝家は魔法を使ってた………だから魔力は世代事に低下したりしなかったのよ」
先代から引き継いできた才能の違いという事だろうか。
英彦や黒でさえも先祖からの才能があるなんて。
俺には…明山家には何か先代から受け継いだ才能は無いのだろうか。
主人公だからあるのではないかという期待を考えてしまったが、今までの流れから考えると無いのは確定であろう。
俺…こいつにはおそらく、その様な潜在能力もないのではないだろうか。
自身満々に自分の先祖からの才能の事を語っている黒を見ていると、自分の力で示せよ…と言いたくなる。
だが、そんな由緒ある血筋の黒を羨ましいとも思ってしまうのだ。
俺は恨めしそうに黒を睨んでいたのだが、黒はまったく気にしていない様でショートケーキを食べ終わり、追加注文を行うようだ。
「ねぇ~妙義~。追加で注文いい?」
そう言いながら追加注文を頼む黒を見ていると、なぜこいつばっかりいい目を見れているのかと少し妬んでしまうものだ。
それは妙義も同じらしくこちらへとやって来ると、呆れた様な顔をして黒から注文を取り始めた。
「何を頼むんだ?」
「えっとね~。このカフェラテとパンケーキをお願いするわ」
「本当にいいのか。今日は食べ過ぎだぞ」
「いいのよ。いつ敵が来るか分からないし」
そう言いながら追加注文を取った黒を見ていると、なぜだろう…この雰囲気からは平穏を感じる。
まるで魔王軍なんていない、俺の元いた世界に似ているのだ。
毎日が変わらず、ただ時間だけが過ぎていく日々。
今思えば、そんな退屈な人生の事が俺は大切だったのかもしれない。
なんだろう。何だか急に家族が恋しくなってきた。
またみんなに会いたくなってしまった。
しかし、その願いは届く事はないだろう。
元の世界での俺はすでに事故死してしまったのだから。
「どうしたの? 元いた場所が恋しいの?」
すると、俺の表情から何かを察したのだろう。
黒が心配そうに、また優しく俺に語りかけてくれた。
「いや、何でもない。ちょっと昔の事を思い出していただけだから」
俺は自分の気持ちをリセットして落ち着くと黒に向かって半笑顔で語り返した。




