四阿との戦い
物体は今度こそちゃんと俺の後ろから逃げる事はなかった。
そして、モゾモゾと動く物体は次第に大きくなっていく。
その物体は大きくなりながらも、俺たちに向かって話始めた。
「残念だ…ったわね…。私は……死なない。殺せ…ない…。そう…私は…創造神よ。どんな神でも私には勝てないでしょうね…。
私は…私の契…約した付喪…神は粘土…。粘土の付喪…人よ。
私は体…を持たない。私は偽…物を創る。箱入り娘だった私にピッタリね。この能力は…」
その声の主は先程崩れ去ったはずの四阿。
結局、完全に体を創り直した四阿。
しかし、衝撃的な発言が聞こえた。
俺には信じることが出来ない。
「お前、神だったのか!?」
なぜなら、人間が神に勝つことは出来ないからだ。
もう既に俺たちは既に諦めかけていた。二人を除いて……。
そう、黒と大台ヶ原である。
「あんなのが神!? 明山さん今、あいつを神なんて言ったの。バカなの!? あいつなんか認めない。ちょっと、ぶっ飛ばしてくるわ」
こいつ、何かの教の信者だったのか。
「そうだ。俺にとっての神…いや女神は黒さんだ。例え、お姉ちゃんキャラでもそこは譲らんぞ」
お前は……………いや、何も言うまい。
心の中でそう思いながら、二人の発言を聞いていた俺と山上は、お互いを見て頷くと、自分達の仲間の大変さを改めて知った。
キャラの濃い2人言い寄られてしまった四阿は、少し自信をなくしてしまったようだ。
「まぁ、創造神は言い過ぎたかもね。反省反省。
ねぇ、明山君。お姉ちゃんクイズです。
問1 あなたはここに来るまでに何体の付喪神の死体を見たか覚えてる?」
すると、四阿は突然俺に話題を振ってくる。
そんな事を聞かれてもあんな暗闇だったんだ。
分かるわけ……いや違う。
「これは単に恨みをはらすぞ」とか言うものではない。
それ以上に酷い結果に繋がるはずなのだ。
「はっ、まさか!?」
「そうよ。下に気を付けてね。」
四阿がそう言った瞬間、床が崩れはじめた。
「ヤバい落ちる」
「床がぁぁぁ!!!!」
「まさか、下で死んでいた付喪神を操って床を壊させていたのか。」
見ると床の隙間から粘土が出てきているのが分かる。
下の階に放置していた付喪神の死体を操って、床を崩したのだ。
「こいつ……粘土を操るのか!?」
「そうよ~。それでは弟妹たちが下へ参りまーす。アハハハハハハハハハハハ!!!」
四阿の笑い声がどこかから聞こえる中、廃ビルは崩れていった。
どこかで誰かが俺を呼んでいる。
何度か体を揺すられ、目が覚めた。
「ここはどこだ? 日差しが眩しいな」
長時間、暗い場所にいたので太陽の光が眩しく感じる。
視界に写った黒の姿が俺の目には日光を浴びているので美しさが目立っている。
まるで女神様のように見える。
そんな自分の目を潰したい。そんな風に考えてしまった。
俺は起き上がると、周囲を見渡してみた。
周りには四阿も山上も大台ヶ原もいない。
みんな外に出てしまったのだろうか。
俺は黒に連れられて瓦礫を踏みながらゆっくりと外へ歩き出すと。
「『カースオブダークネスドラゴン』」
「『エレメントグリードグリフォンデビル』」
「『ナイトメアスパイダースカル』」
四阿はそう言いながら偽物を創ったようだ。
そこに現れたのは滅茶強そうなモンスターである。
そして、そんな奴らを迎え撃っていたのは、山上と大台ヶ原。
「すげぇー。黒、見ろよ。モンスターだぞ!!!」
そのモンスターを見て、俺のテンションは上がりに上がってしまった。
あんなカッコいいモンスターなんて見たことがないからである。
俺は普通の異世界に飢えていたのだ。
しかし、そんな俺を無視して黒は、
「あいつは私が倒す。神を名乗った罪は重い」
そう言いながら歩き始めた。
「バカ野郎。殺されるぞ」
俺はそう言って止めたのだが、黒は言うことを聞かずにモンスターの前に立ちはだかる。
モンスター達の獰猛な視線がじっと黒を見つめている。
その時。
「邪魔!!!」
黒はそう言ったかと思うと、掌を横に振った。
その衝撃でモンスター達は真っ二つになって消えてしまう。
「あんた達みたいな魔王レベルにもなっていないカスが私の邪魔をするなんておこがましいわ」
「はわわわ……」
その黒の変貌ぶりに俺も四阿も恐怖で腰が抜けていた。
いつもはただでさえチートな黒が、神を愚弄された事で更にチートになっているのだ。
本来ならあのチートは俺が受ける設定だと思うのだが。
何で俺じゃなく。黒がもってんだよ。
そう考えると本当に俺が主人公かどうか疑問が湧いてくる。
「安心しなさいお姉さん。私がちゃんと送ってあげるわ。あんたは懺悔でもしながら逝くことね。おりゃぁぁぁぁ!!!!」
黒が遂に四阿に殴りかかった。
だが、四阿はその拳を見事に受け止めたのだ。
驚く黒に四阿はにっこりと笑いかける。
「やっぱりあなたが一番魔王様にとっては危険な存在。そこまで神にこだわる信仰心。そして、そのパワー。更に…いや何でもないわ。とにかく明らかに危険なのよ」
「へぇ……あなたって強いのね」
そのまま拳を握られて投げ飛ばされる黒。
俺はその黒を無事にキャッチする。
俺は黒をゆっくりと地面に座らせると、山上の方へ歩き出した。
「おい、山上。このまま殺されるのを待っても仕方がないよな」
「ああ、意見があったな」
そう言うと俺たち二人は横一列に並んだ。
そして、そのまま二人とも歩き続けていたのだが。
「なぁ、覚えてるか? 好きにしろって約束」
俺は一度立ち止まって山上に話しかける。
「───ああ、覚えてる」
山上も一度立ち止まって答えた。
「なら、いくらでも良いから小銭を貸してくれ。それでチャラにしてやる」
山上は財布から小銭を取り出すと、
「すまん。百円しかない」
そう言って俺に百円を渡してきた。
正直、足りない気がするが。
「充分だ。やってやろうぜ。あいつを!!!」
山上は紐を、俺は再び眼鏡をかけて準備を済ませた。
「はぁ、お姉ちゃん悲しいな。諦めが悪い人って哀れに見えてくるもの。
まぁ、自分から獲物が寄って来てくれるのは嬉しいのよ」
四阿はそう言うと遠距離から攻撃を仕掛けてきた。
飛ばされた粘土は空気中で槍の形に変身する。
先ほどの仕返しなのだろうか。
だが、それを山上が紐を操って撃ち落としていく。
そして、その隙に俺が四阿の正面から殴るという簡単な作戦である。
サポートの山上と攻撃の俺である。
チャンスは1発しかないのでほとんどサポート任せだ。
四阿の遠距離からの攻撃を、山上は叩き落としたり絞め殺したりして戦っている。
次々と現れる粘土の物体。
お互い、高速で行われる攻防である。
その間で俺はただ、四阿に向かって走るだけである。
避けながら走る者の事も考えてほしいものだ。
近くの地面に生えていた草花は既に紐の勢いで刈り取られ、地面が丸裸である。
スナップを打つ紐は土を舞い上がらせる。
地面に撃ち落とされる粘土。
遂に四阿に近づけた。あとはこのまま、百円パンチを喰らわせるだけだ。
しかし、山上の様子により事態は急変した。
「グハッ!?!?」
地面から鋭く尖った粘土が山上の体を貫いたのだ。
口から血をはく山上。
それに気づいた俺は心配になって立ち止まってしまった。
一瞬の油断、それが運命を変えた。
俺の足にまとわりついてきた粘土に気づかなかったのだ。
「うぉっ!?」
足から取ろうと努力はしたのだが、その努力も虚しく。
そのまま俺は粘土に引きずられ、四阿の目の前に宙吊りにされてしまったのだった。




