目的を1つに
「なるほど。二人を人質にして、獲得者候補を誘き寄せるってことか」
山上から聞いた話はある程度理解できた。
後は、敵の戦力がどれほどいるか知りたいのだが、それは見てみなければ分からないものであろう。
ひさびさの主人公の見せ所だ。
「じゃあ、行くか」
俺達は玄関のドアを再び開いて外に出る。
すると、目の前にいたのは沢山の人々。
「副会長と明山さんお待ちしておりました」
八剣が代表して挨拶をする。
「八剣……それに皆まで……」
どうやら彼らが生徒会のメンバーなのだろう。
雨の中、傘も差さずに俺の家の前で待っていたのだ。
ふと周りを見ると、その中に見慣れた顔が一人。
「あっ、英彦だ。何でいるの?」
「道を聞かれたので道案内をしたんですよ」
なるほど、こいつが俺の家の場所をばらした犯人だったか。
「副会長。早くしてください。皆、風邪を引いちゃいます。今は生徒会長がいないから私が指揮しようと思ってたんですが、めんどくさいので。副会長頑張ってくださいね」
八剣は呆れた表情で山上を見つめている。
山上はゆっくりと皆の前に歩いていく。
それを鍵をかけながら俺は見守ることにした。
そうして皆の前に立った山上は、
「いいか、お前ら今日は俺たちの生徒会長に今までの恩を返す時だ。あのバカはどうしようもないほどアホだが、それほどいい奴だ。
あいつに会って人生や人間性が変わった奴もいるだろう。俺はあの人と出会って人間になれた。
いいか、今度は俺たちの番だ。あの生徒会長に変わって俺たちがあのバカのようになってやろうぜ」
山上はすばらしい演説で士気を高めようとしたのだろう。
それに対して八剣の意見は……。
「あの…………早くしないとガチで風邪引くんで。
それにあんなバカになって人として終わっちゃいますよ。
まぁ、たまには…いいかな……」
八剣を筆頭に皆が生徒会長を助けるという目標を持って歩き出す。
こんな奴らがこの先どのように考えて行動するのか…俺には少し興味が湧いてきた。
「……で、どこに行けばいいんですか?」
その時、英彦の言った当たり前の質問、
「ああ、それは理市の廃工場よ」
「ああ、それは国市の山の廃ビルだ」
八剣と山上の言った場所は異なっていた。
はぁ…まず、ここから躓いたか。
「……と言うわけで二つの隊に分けた」
結局、どっちか分からなかったので二つに分けることになった。
「二つに分けたのは分かる。いい案だ。八剣、お前にしてはいい案だ。だが……」
山上は一度息を大きく吸うと大声で言った。
「何で俺たちの隊は、俺と明山しかいないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
八剣は無表情で答える。
「だって皆が副会長とは行きたくないって」
更に八剣の周りにいた役員たちも小声で、
「確かにいい人だけどなー」
「八剣書記よりはいいんだけど」
「指揮が悪いからな」
「いつでも一人で特攻だから」
「最近は復讐の鬼じゃないけど、まだ怖いし」
「八剣書記よりはいいんだけどなー」
生徒会の皆からの山上の評価は低いものだった。
「やっぱりお前らの生徒会には生徒会長が必要なんだな」
俺は落ち込んでいる山上を見ながら呟く。
この世の終わりかよって程に落ち込んでいる山上。
それを見て上機嫌な八剣は小馬鹿にするように、
「副会長大丈夫ですよ。副会長はたぶん立派な人です。実際に見せつければいいんですよ。(無理だろうけど…。)副会長の底力を皆に見せつけてやるんですよ。
(こんな評価の低い副会長なら、私の眼中にはねぇ…。乗っ取った後、そのまま一気に生徒会長になって一番を…。私が一番になれる。)」
心の声が駄々漏れな八剣を山上は睨み付ける。
そして上機嫌な八剣に向かって冷静に、
「お前、そんな俺より悪いって言われてんだぞ」
この生徒会には性格が駄目な奴しかいないのだろうか。
「──じゃあ、英彦。くれぐれも気を付けろよ」
そんな生徒会は無視して俺は英彦の方へ、
「任せてください。僕だって新しい付喪神と契約したんですから。どんな敵でも焼き尽くしてやりますよ」
自信満々に答える英彦を見ると何だか勇気を貰えたような気がする。
この戦いは勝てる気がする。
「よし、じゃあ行こうぜ山上」
「ああ、じゃあお前ら気を付けていけよ」
山上も生徒会の皆に別れを告げる。
「副会長も気を付けてー」
二つの隊はそれぞれが向かうべき場所へと歩み始める。
目標はただ一つ。
人質の奪還のために。




