どんな奴でも助けがほしい
そして場所は変わる。
山上はピンポーンとある家のチャイムを押す。
外は雨が降っているが、彼は傘を持たずにずぶ濡れだった。
「すみません。明山いますか?」
声をかけてみたが、帰ってきた返事は、
「いませんよ。明山はいません」
「ですが、今はこの家は明山平死郎だけですよね。家族は皆、別々の所にいるんですよね」
そう、ここは明山の家である。
どうやって調べたかは分からないが、山上は訪ねてきたのだ。
玄関のドアが開く。そして中から出てきたのはもちろん明山だった。
「誰だよ。てか何で俺の住所を知ってるんだよ。ん? あっ、お前は?」
「ああ、そうだ。あの時」
二人は見つめ会っている。
「? 知らん」
そう言うと明山はドアを閉める。
「おい、頼む入れてくれよ。外は雨だよ。頼む顔見知りじゃないのは分かった。でも俺はお前と会ったんだ。前に会ったんだよ。思い出せ。紐だよ。紐ーー」
再びドアは開き、俺は少しだけ顔を出す。
「まぁ…入れよ。話くらいは聞いてやるから」
全く知らない人を家に入れるのはどうかと思ったが、俺はそいつを家に入れてやることにした。
これ以上玄関の前で叫ばれても、後日に近所の人からのクレーム対応が面倒だったからである。
「じゃあ、早速聞くがお前は誰だ」
俺はそいつを椅子に座わらせ、タオルで濡れたところを拭いてもらい、暖かい飲み物を差し出して話を聞くことにした。
俺はどれほどお人好しなのだろう。
自分の甘さに反吐が出そうだ。
「ああ、俺は国市高等学校の生徒会副会長の山上。紐の付喪人だ。あの時はすまなかった。あの時は犯人探しに焦ってたもので……。お前がブロードの仲間だと思っていたんだ」
ああ、思い出した。こいつは俺を殺そうとした奴だ。
まぁ、殺されたんだけどな。
しかし、その加害者が今日は何のようなのだろう。
俺にはこいつが来た理由が分からなかった。
「そうか。あれはお前だったのかで何のようだ。また殺しに来たのか?」
俺は山上を睨み付けながら質問をした。
「いや、今日は依頼を頼みに来たんだ。頼む。俺たちの生徒会長を救ってくれ。魔王軍幹部の八虐に人質にされてしまったんだ。
鍵穴のシミのある人を連れてこいと言われたんだ。虫がいい話とは分かっている。だが、頼む。捜索を手伝ってくれ」
本当に虫がいい話である。
俺は困った時だけ助けてもらいに行くような奴は少し嫌いなのだ。
じゃあ、お前が神様に願い事を言うのは……って?
それは言わないでいただきたい。
「それが…俺を殺そうとした奴からの態度か?
それに俺はひさびさの平穏な生活を味わえているんだ。俺はこれから平和に生きるつもりだ。
命を賭けて魔王軍幹部の八虐と戦う…そんなのはもうごめんなんだよ。ほら、帰ってくれ」
俺は山上を家の外に追い出す。
しかし、外に追い出しても山上は諦めていなかった。
「頼む。あの時の事は謝る。この案件が済んだら俺を煮るなり焼くなり好きにしてくれてもいい。首を取って公衆に見せ、俺を侮辱してくれても構わない。裁判に賭けてもいい。だが、頼む。俺たちの学校の生徒会長と女子生徒が人質になってるんだ。どうか捜索を手伝ってくれ」
俺はため息をつく。
「はぁ、その覚悟がお前にはあるんだな」
すると山上はまっすぐとした目をして答えた。
「ああ、あるぜ」
その返事を聞いて俺は少しだけ彼の行為を許してあげることにした。
「こうなる運命か。あの女、やっぱり許せない。次会ったときは覚えてろよ」
俺は山上に聞こえないほどの小さな声で“あいつ”に向かって愚痴を呟く。
「じゃあ、お前の知っていることを全部話してくれ」
俺は気を取り直して情報収集を始めることにした。
「ああ、いいか」
山上は自分が知っているすべての情報を俺に教えてくれた。




