脱サラリーマン鈴木さん
降りしきる雨。
一人の男がつい最近新装開店した付喪カフェを訪れる。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ……って、君か。久しぶりだね。まさか、こんな雨の日にでも来るなんて」
店長は早速お客様を席にお連れした。
「しばらくの間来てなかったけど。よかった。店長も無事で何よりですよ。それに店長と私の仲じゃないですか」
白髪の若々しい男は席に座るといつも通りコーヒーを注文する。
「仲って? まぁ確かにそうかもな。お前が常連客になるほどそんなに、うちのコーヒーが好きなんだな」
そう言うと店長はコーヒーを持ってきて、男の前に差し出す。
「おや、まるで私が来ると分かっていたくらい速いですね」
店長は男の近くの椅子に座って言った。
「ああ、一番に来るのは君くらいだしな」
そして、男はコーヒーを飲みながら店内を覗く。
「なぁ、店長。店員はどうしたんだい? 今日は店長だけ?」
その質問に店長は少し笑いながら答える。
「急用だとさ」
その返答に男は驚いた。
「急用!? はぁ、最近の奴はサボりぐせが強いのではないですかね?」
「いや、良いんだよ。何かあったんだろう。それに彼らはいつも良く働いてくれている」
店員たちに対して甘ヶな態度に驚きながらも男は冷静に店長をいじる。
「あなたのその性格も驚くべきものですよ」
「そうかもな。アハハハ」
男はコーヒーを完飲すると、二杯目を注文した。
「珍しいな。二杯目を注文するなんて、遅刻するぞ」
「良いんだよ店長。私はもう会社に行く意味が無くなってしまったんだ」
男は二杯目を飲みながら落ち込む表情を見せる。
「そうか」
店長は詳しくは理由は聞かなかった。
ただ、何も言わずに愚痴を聞いてくれていた。
「…………と言うわけでさ。なっ、私のせいではないのだよ。それなのにさ」
「そうだな。じゃあ、これからどうするんだい?」
突然、口を挟んできた店長。
「気づいてたぞ。そのバックの中の履歴書と就職届。お前はここで働きたいんだろ」
ドキッ!?
「バッ…バカな。まっ…そんなわけないだろう?」
男は赤面して慌てて答える。
「顔赤いぞ。お前にしてはらしくないな。じゃあ、来週の火曜日からよろしくな。鈴木」
「待て店長。私はまだ決めてないぞ。おい、店長? 制服を持ってきてどうしたんだい? まさか、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」




