偽者達の真の狙いは?
「あの……何かごめんな。そんな見た目にさせちゃって」
その頃、山上はF-215に謝罪をしていた。
思わず首を蹴り飛ばしてしまったのだ。
「いや気にするな。死にはしない。簡単に言えばパペットだ。俺たちはパペットなんだ」
蹴ってしまった首を山上は元の位置に乗っけてみる。
しかし、F-215の首はなかなかくっつかない。
「とっ……とにかく。副会長だっけ? あの…生徒会長がいなくなってるけどいいの?」
「ああ、どうせあの人は校内に逃げ遅れた人がいないか見回ってんだろう。あの人は自分より他人の心配をする人だからな」
山上にとって、生徒会長とは……大台ヶ原とはそんな男なのだ。
自分よりも他人の事を心配するような、例えバ会長でも…彼らの誇れる立派なリーダーなのだ。
「それより、いい加減に俺たちも終わらせようぜ。俺は生徒会長の事が心配になってきたよ」
そう言いながら、山上は紐を辺り一面に張り付ける。
「こんな小細工がいったい何の役に立つのでござるか。切り刻んでやろう」
F-215は日本刀を使って一瞬にして紐を切り刻む。
そして更に激しい攻防が始まる。
山上は紐を巧みに操り攻撃を仕掛けようとするが、F-215は攻撃される前に紐を切り刻んで逆に攻めてくる。
そして、4分ほど激しい命をかけた攻防が繰り広げられた後、
「では、次はどうする? 何か策でもあるの?」
突然、F-215は日本刀を鞘にしまった。
その行為はおそらく山上の手の内を一瞬にして切り裂くという挑戦を表しているのだろう。
山上が動いた瞬間に策を封じ、圧倒的な力の差を見せつけるためだ。
F-215は知っている。
自分の周りの同類達よりも人間を学んできたのだ。
実際に見たのは初めてだが、彼には同類達よりも知っているという自信があった。
F-215の知っているのはこの後の行動である。
高確率で人間は、策は無いと言う。
敵を欺くために、油断させるために策は無いと嘘をつく。
そして、油断させた所を策によって逆転するのだ。
しかし、目の前にいる山上はニタッと笑うと……。
「ああ、もちろん策はあるぞ。素晴らしいのがな」
山上はF-215の思っていた事とは逆の事を言った。
F-215は次の行動について考える。
山上が言った自信のある策について予想し、考えるのだ。
元々、F-215は物事を慎重に考えすぎる性格だった。
それは変身した後でも変わらない。
「策だと……。これまでの俺の実力はハッキリと分かっただろ?
切れ味もスピードも太刀筋も身に染みるほどに圧倒的な技術だと分かったでござろう? なのに何故、その自信はどこから来る?」
山上は少し間を空けて考えていた。
そして、彼の答えは……。
「うーん。俺はお前の首を一度落とした」
答えにはなっていなかった。
しかし、その回答が余計にF-215を悩ませる結果となる。
下手な理由ではあるが、もしかしたらもう一度首を狙って攻撃してくると言うことか。
いや、そう思わせてそれ以外のところを……。
F-215はしばらくの間考えたが、決心はついた。
「では、行くぞ。その首貰いにかかるでござる」
F-215は再び刀を抜き振り上げる。
だが、山上は逃げずにただこちらを見ている。
間合いは良し、あとは斬り下ろすのみ。
「デリャァァァァァァァァァ!!!!」
その瞬間、山上は笑った。
すべて終わったような。諦めた表情を浮かべて笑っている。
そして、血の吹き出るような音。
床には赤い液体がジワジワと広がっていった。
「ふん、お前も見事だったぞ」
F-215は血だらけの山上を見る。
山上も血だらけのF-215を見る。
そうして身体を紐で所々貫通させられたF-215は倒れた。
紐はあらゆる場所からF-215の身体を貫通して吊し上げたのだ。
身体を貫通させられた箇所は、頭や手や胴などだけでも九ヶ所。
いずれもまるで壁と壁に紐を通して身体を吊るされている。
山上は返り血を拭いながらF-215に話しかけた。
「お前の太刀筋見事だったぜ。偽者でもお前は本物レベルだった。性格も中身も別人だがな。それでもお前は凄かったぜ」
F-215は山上に笑いかけながら答える。
「お前こそ、この奇襲は見事だった。予想していなかった。まさか、先程斬った紐に紛れさせて壁に潜ませていたとは……。
そろそろ俺の命が尽きる。最後に一つ良いことを教えてやろう。この市にある山の廃ビルには近付くな。じゃあな…」
そう言うとF-215はドロドロに崩れていった。
「じゃあな。F-215」
山上もF-215に対して別れを言うとその場を後にした。
「あら? 案外早いものだったのね」
その時 突然、後ろから女性の声がする。
山上が素早く後ろを振り返るとそれにあわせて後頭部に蹴りをいれられる。
「ガハッ!?」
山上はその場に倒れてしまった。
山上は薄れゆく意識の中で女性に尋ねる。
「何者だ。全く気配を感じなかったが……。それにそこにいる奴は……まさか」
女性の後ろで二人の男女が捕らえられていた。
「ーーーーーーーー!!!」
そのうち一人はガムテープで口を覆われて助けを求めても、しゃべれない生徒会長。
「あら、知り合いだったの? じゃあ、こっちの起きないお嬢ちゃんも知り合いかしら?」
女性の指差した先にいたのは何事も無いように寝ている黒の姿であった。
こいつは何で起きないのだろう。
「あっ、そうだ。質問に答えてあげれてなかったよね。
私は魔王軍幹部の八虐の一人、謀大逆の『四阿』よ。君まだ意識はあるわよね。
なら聞いて、この二人は人質。
返してほしければ鍵穴のシミを持った者を私のもとに連れてきなさい。場所はあの二人から聞いたとは思うわ。
それじゃあ、じゃあね。お姉ちゃん期待してるわ」
そう言うと四阿は二人を連れて窓から飛び降り、逃げていった。
「まっ、待っ!?」
山上は今にも消えそうな意識のまま、追いかけようとするが、そのうち目の前が真っ暗になっていった。




