偽者達が攻めてくる!!
「じゃあ、挑めよ。俺の剣の前にしだれ桜の花のように散り落ちながらなァ」
彼らが背にしていた生徒会室の窓ガラスを斬り割り、一人の男が大台ケ原に向けて斬りかかる。
あまりの一瞬、予想外の登場により反応が遅れ避け遅れる。
そして大台ケ原の頭に剣先が振り下ろされようと……。
「ふぅ~あぶねぇ。
あと、数秒遅ければ生徒会長がヤバかった。
しかし、敵も焦ってきたな。この前とは格段に違う刺客を送り込んできやがったか」
生徒会長に向けられた剣先は、山上の紐に縛られて日本刀を振り抜くことが出来なかった。
大台ケ原は冷や汗を流し、腰を抜かしている。
しかし、安心するのもつかの間であった。
今度は窓ガラスのあった場所とは反対の方向から、壁をぶち壊し殴りかかってきた者がいたのだ。
「危ない。副会長!!!」
気づくのが早かった八剣は、珍しく山上を押し飛ばし拳の一撃から身代わりになった。
八剣の体に感じる鋭い痛み。
巨体の男からの拳により八剣の体は吹っ飛ばされて生徒会室から壁を突き破り、外へと落ちていった。
「粉骨砕身する暇もなく。全身がグチャグチャになったかな? やはり女性に手をかけなきゃよかった」
そう言って現れたのは巨漢な男。
そして、男は八剣にトドメを指しに下の校庭へ飛び降りた。
こうして、生徒会室の人数は生徒会長と副会長、そして和風の侍が一人。
「てめぇら、いい加減にしろよ。学校と生徒会室の修理代払いやがれ」
山上は目の前の男に向かって怒りをぶつける。
しかし、男は微笑を浮かべながら、
「すまぬな。姿は人の物を借りているが俺は人じゃない。俺はF-215。よってお前らの法律は通用しない」
どうやら敵は誰かの偽者のようだ。
顔も身長も山上と同じ王レベルの奴に似ている。
しかし、偽者でも姿は王レベルの付喪人の一人である。
「じゃあ、殺された騎士団の騎士達の償いはさせるぜ」
山上は戦闘体制を構える。
大台ケ原達、生徒会は王レベルの付喪人として指定されている。
しかし、それは全員でまとめて国市高等学校生徒会というグループでまとめられている。
それに対して今回の敵達は、一人の実力での王レベルの付喪人。
だから山上達は油断ができないのだ。
山上と戦っている者は、王レベルである塩見しおみという者の偽物F-215である。
日本刀の付喪人であり、何でも斬ることができる。
噂では岩石を豆腐のように切った事もあるらしい。
伝説上の職業であるサムライの資格を持っており、たくさんの敵を切り捨ててきた和風の侍。
その剣さばきは美しく、強力なのだ。
前回の王レベル会議に参加出来なかったので、彼と会うのは久しぶりだ。
「こんな所でサムライに出会えるのはおめでたいが、偽者なのが残念だな」
そう言いながら山上は紐を操り襲いかかる。
まずは相手の動きを止めるために紐を操っているのだ。
「偽者でも技術は本物だぜ?」
しかし、彼が日本刀を振り下ろすと、紐は彼に巻き付く前にバラバラと切り刻まれた。
「山上とかいったか? どうだ今の俺の剣さばきが見えたか? 」
彼は山上を蔑むように笑みを浮かべながら顔色を伺っている。
その表情を見てイラつきながらも、山上は焦っていた。
彼には刀を振り下ろしたという結果しか見ることが出来なかったのだ。
刀を目で追うことが出来なかったのだ。
「では、次はこちらから行かせて貰うぞ」
F-215は間合いを取ると、勢いよく山上に斬りかかった。
外で八剣と戦っている者は、王レベルで乗鞍のりくらという者の偽物であるF-206である。
ダンベルの付喪人であり、筋トレをする度に筋力が増す。
最大でも手のひらでダイヤモンドを砕くほどの握力を出すことができ、たくさんの敵を砕いてきた。
そして圧倒的な筋肉で、怯ませるのだ。
「あんた、女子には優しくするのが常識ってもんでしょ」
八剣はF-206に向かって注意を促す。
どうやら流水を巧みに操って落下の衝撃を和らげていたようだ。
八剣は土を払いながら立ち上がる。
「悪いが俺は戦いに関しては男女平等なんだ。
例え、誰であろうと手は抜かない。だが、ひとつだけ助言をしてやろう。俺との戦いでは時間をかけない方がいい」
F-206からの助言を聞いた八剣は、少しイラつきを押さえて、
「へぇー。そんな事を教えてくれるなんて私に勝てる自信でもあるの? そういうのはムカつくんだけど」
「ならば俺に勝ってみろ。お前に出来るならな」
完全に言い返すことが出来なくなった八剣だったが、それが逆に彼女の闘志に火を着けたようで、
「じゃあ溺死しろ」
そう言うと八剣は彼の頭上に滝のような水を浴びせる。
「ふぅー。いいシャワーだな。でっ? 次はどうす……ゴボッ!?」
一度地面にかかった大量の水達は、空に向かってまるで柱のように固定され浮き上がった。
「ゴボッ、ゴボッ…ゴボッ」
周りを水でおおわれて息ができない状態でF-206は出口を探し泳ぎ始める。
「えっ? 何を言ったの? 聞こえないなぁ~」
八剣はまるで無惨な姿になった親の敵を見るような冷徹な目で見ながら、人を小馬鹿にしたような口調で言った。
「ふわぁぁぁ~。せっかくだし苦戦している副会長を助けにいこうかな。そしたら出世できるだろうなぁ」
八剣がその場を離れようとしたその時である。
突然、流水の柱からF-206が逃げ出す。
流水の柱は飛び散るとただの水に戻った。
本来なら呑み込まれた相手は溺死するはずなのだが、彼は見事脱出できたのだ。
しかし、彼は息はあるようだが体が溶け始めている。
「てめぇ、こうなったらもう俺は助からねぇ。だが、俺の能力でお前を卵のように粉々に中身を出すことはできるんだぞ。つまり死ぬのは俺とお前になるんだゼェェェェ」
「あんたこそ溶け始めているわよ。偽物って死にそうなときは溶け始めるのね。さぁ、どこまで溶けるか私に見せなさい」
そうして、煽り合うと再び二人の戦いは始まった。




