学校への襲撃
「黒さーん~。まさかまた会えるとはこれも運命なのでしょうか。ぜひ、お昼をご一緒させてくださーーーーーい」
ここは国市高等学校。
昼休みから校内は騒がしい。
今日も生徒会長が1人の女子生徒をお昼に誘っているのである。
「ごめんね。今から友達と食べる約束をしていたの。じゃあね」
黒は即座に大台ケ原の前から離れる。
その光景を見ていた八剣と山上は、自分達のリーダーの哀れな姿を見ながら一言呟いた。
「「バカだ……」」
そして、場所は生徒会室へ。
「いい加減諦めれば」
放課後に二人の哀れみの目を向けられながら、大台ケ原は生徒会室で窓の外を眺めていた。
「でも、初恋なんだ」
大台ケ原は諦めきれないようだ。
八剣の言うことも分かってはいるのだろう。
どんなに彼女と近づこうとしても離れていく。
嫌われているまではいかないだろうが、距離をおかれているのは確かだ。
もしも彼がこんな事を続けていたら、告白など夢のまた夢である。
しかし、彼は返事はどうであれ、この想いくらいは伝えたいのだ。
「やめておけ生徒会長。
例え、あんたの権力でも黒帝 黒の親衛隊がいる限り黒に告ることはできない」
そう言いながら山上が扉を開けて生徒会室に入ってきた。
「黒帝 黒の親衛隊って?」
八剣が山上に向かって問いかける。
すると、山上は手に持っていた鞄の中から資料を取り出すと、
「黒帝 黒の親衛隊って言うのはな。黒帝 黒を護衛する非公式親衛隊だ。隊員は数百人ほどいる。幹部は6人。彼女の幸せを守るために日々努力しているらしいが、黒はその隊のことをあまり理解していないらしい」
山上が手元の資料を読み上げると、八剣は引き気味で感想を答える。
「マジですか。ヤベ~。非公式親衛隊ってのも凄いですねー」
八剣の台詞は明らかに棒読みである。
もちろん、恋に夢中な彼にこんな事を教えるというのは残酷なことだと山上も分かっている。
しかし、山上は大台ケ原の今日の行動にも正直ビビっていた。
大台ケ原がこの前会ったばかりの女性にあそこまでの台詞を吐けるとは思っていなかったのである。
「あ…あっ…今日の行動は不味かったぞ生徒会長。
あそこで黒が誘いを断っていなかったら非公式親衛隊によって」
山上からの脅しが大台ケ原を襲う。
しかし、流石に恋の病は簡単には治らないようだ。
「なるほど。黒さんのお陰か」
「「!?」」
生徒会室は重い空気によって静まり返ってしまう。
場所は変わって屋上。
「はぁ~今日は三人目ね。何でいつも跡をつけられてるのかしら」
黒は屋上で寝転がり、大の字になって呟いた。
最近学校でどうも跡をつける回数が多くなっている事に気がついたのだ。
「隠れてないで出てくればいいのに…。まさか敵じゃないわよね」
疑心暗鬼になりながらも黒は寝転がっている。
空を見ると雲は流れてきれいな空を作り出している。
この空を見ていると正直、何もかもどうでもよくなってくるのだ。
平和。平穏。安全。至福。
これらの事をちゃんと感じる事が出来れば人はもっと幸せになれるんだ。
そんな事を考えるほど平和である。
平和にふわふわと酔いしれながら、次第に黒は眠りについていった。
もしも黒がこのまま起きていたら恐らく、一番手っ取り早く終わっていただろう。
しかし、寝てしまっていたら仕方がないことである。
そう、これからの出来事には……。
校門の前にたたずむ三人の影。
夕日に背を向けて彼らは校舎の前にいた。
一人は日本刀を持ち、一人はムキムキでがたいが良く、一人は優しそうな目をした女性。
彼らは足音を立てることなく静かに校舎へと入っていこうとする。
しかし、現在この前の不審者騒ぎで校舎は簡単には部外者が入らないように市より警備されているのだ。
そんな中、不幸にも一人の騎士がこの三人に気づいてしまった。
「お前たち、何者だ」
不用意に訪ねる新入り騎士を、先輩騎士が注意してフォローする。
「やめろ新入り。彼らは王レベルの付喪人たちだ。すみませんうちの新入りが。
あれ? あなたは始めてみる顔ですね。新入り? この学校に……ゴリッゴッリブッシュリュ」
首の骨が砕ける音が響く。
後輩に面倒見がいい先輩騎士が殺された。話しかけた先輩騎士が殺された。
「先輩ィィィィィィ!!!!」
「何だお前ら?」
「こいつらどうしたんだ? くそッ、付喪連盟に救助を」
先輩騎士が殺された事によって校門前はパニック状態。
「救助を要求した。でも、今は王レベルのそいつらは外国に派遣されてるって」
「じゃあ、こいつらは何だ」
「知るか。」
「なら、こいつらを殺るんだァァ」
「死ッ…ブルシュリッヅ」
「やめ…ボルブレッズ」
「ダズゲデぐ…ベッ」
「うわぁぁぁ…ラブッシュヅ」
「「「「ギャァァァ」」」」
「ウッ……………………」
校庭に血の湖ができた。
地面の色が真っ赤に染まって色鮮やかである。
能力無しの国市高等学校防衛の任務を受けた、ある騎士団は全滅した。
大切な家族が待っている騎士達はもう家族に会うことはできないのだ。
その頃、生徒会室では……。
「生徒会長。今日は全校生徒は基本帰ってるんだから。早く帰ろうよー。この前命懸けの戦いをしたばかりじゃねぇですか。今日は帰りましょうよ~」
先日の事件の時と同じような台詞を八剣は無意識に口にしている。
「なぁ、これってこの前の日と流れが同じじゃないか?」
山上は八剣の愚痴にぶっちゃける。
「嫌な予感がするな」
そして、大台ケ原が最後にフラグを添えた。
これで何かが起こるフラグ乗せが完成である。
「やめてくれよ。今日は乗り気じゃねぇんだが」
「正直、あの日々以上の大変さってある?」
「せっかくの平穏な日が」
三人は思い思いの愚痴を呟いた。
「ねぇ、二人ともこっち見て。これはヤベェ。校庭が血だらけだよ」
すると、八剣は校庭の異変に気づき、二人を呼ぶ。
二人が窓の外を見てみると、そこには真っ赤な液体が水溜まりのように広がっていた。
「これはひどいな」
山上は思わず目を背ける。
「また、俺を狙っているのか。次はどこから俺を狙っているんだ。俺は後、何回狙われなくちゃいけないんだぁ」
そして、大台ケ原は恐怖でパニックになっている。
正直、理由が詳しくわからない状態で死にかけさせられるってのが辛いのだろう。
一番の恐怖とは無知である。
「安心しろ生徒会長。俺たちが守る。敵をまとめてすべて片付けてやる」
「そうでもしないと、借りはかえせないってもんよ。どっからでも来な。刺客さんよ」
二人は大台ケ原の前に立ち誇る。
再び彼を守るために立ち上がったのだ。
「そうだな。俺は生徒会長 大台ケ原だ。お前らが諦めない限り俺も諦めない」
大台ケ原は覚悟を決めた。
まだ、前日の恐怖は残っているが、こいつらが諦めない限りは俺も諦めない。
どんなに足手まといでも俺も戦う。
自分のために戦う覚悟はある。
彼の心を突き動かしたのは信頼。
仲間を信じ、共に問題と戦う信頼の心であった。




