それを見てはいけない
「えっ!?」
すると、いきなり山上は八剣の目に指をいれ、何かを摘まみ出す。
「はぁーはぁー。やっぱりな。これがお前にしか見えない理由だ」
そう言うと、山上は摘まみ出した物を床に投げ捨てる。
何と……それは、コンタクトレンズであった。
「よし、八剣。反対の目も出せ。こいつはお前に取り憑いて、お前の視界の中を行動していたんだ。今はもう片方の目に逃げやがったみたいだがな」
「ちょっとマジですか!? 今までのは?」
八剣は驚きを隠せなかった。
「はぁ? 何言ってるんだよ。俺が何かおかしいことを言ったか?」
確かにおかしいことは言っていない。
全て八剣の勘違いである。
山上はもう片方の目に指を入れようとソッと指を伸ばした。
「いいか、動くなよ。俺も他人のコンタクトを外すのは始めてだ」
そう言いながら山上はコンタクトレンズを摘まみ出した。
しかし、2度目はうまく取り出すことが出来なかった。
「「ギャァァァァァァァァ」」
二人分の叫び声が重なって響く。
「──くそっ、コンタクトレンズを乱雑に扱いやがって。しかし、バレたなら早くここから離れないと……」
男は自分の能力の秘密がバレたと分かりその場から逃げ出そうとする。
もう秘密がバレたとなっては暗殺に成功する保証もない。
そう考えて早いうちに行動しようと、撤収の準備をしていたのだが。
しかし、どこからか紐のようなものが彼の足に絡み付いてきたのだ。
「何ィ。離れない!? 離れないぞ」
男は足に絡み付いてきた紐に引きずられていった。
男の体はしばらくの間紐の引っ張られていく方向に従いながら進んでいる。
「おい。やっぱり近くで様子を見てやがったな」
そうして、山上の紐に引きずられて男は彼らの前に姿を現した。
そんな男の姿が気になったのだろうか。
大台ケ原は宙吊りにされている男を見ながら山上に尋ねる。
「なんでこいつはこんなにボロボロになってるんだ?」
見ると全身にアザやたんこぶができている。
速急に病院に行かなければならない程の重傷だ。
「ゲホッゲホ。お前、引きずる時は周りに物がないか確認しろ。危うく気絶するところだったぞ」
既にボロボロな男は血相を変えて怒鳴りながら山上に怒る。
「じゃあ、一つ目の質問だ。お前が今までに殺してきた人数は?」
「言うわけがないだろ」
すると、山上は八剣を呼び出していつものように拷問を任せようとしたのだが。
「おい、八剣。いつもみたいに頼むぞ……?」
山上の目線の先には隅っこで一人壁に向かって体操座りで座っている八剣の姿。
彼女は見るからに落ち込んでいる。
八剣は今、改めて先程まで言われてきた言葉をふり返っていた。
すると、明らかに山上の言っていたようにも聞き取れる。
あれは本当に八剣の勘違いであったのだ。
くだらない妄想にとらわれていた。
その事が八剣を苦しめていたのだ。
しかし、怪我によって頭の回転もままならない山上には原因が分からなかった。
しかしただ、そっとしておくことが良いことだとは理解できていた。
山上は仕方なく、どこからか水入りバケツを取りに行くとその中に男の首を突っ込む。
「ゴボゴボ!?!?!?!?」
水責めというやつだ。
しばらく時間が経った後に山上は水入りバケツから男の顔を吊り上げる。
「殺していない。僕が能力を手にいれたのは最近だから。ゼェゼェ」
仕方なく山上はバケツに水を入れてその中にその男を突っ込んでいる。
「真実だってば~。カウンセラーと名乗る男から貰ったんだ」
いつもなら八剣がうまくやってくれていたのだが。
しかし、カウンセラーという男?
こいつはブロードピークとは関係ないのだろうか。
「じゃあ、次の質問だ。何故、俺達を襲った?」
「そればかりは答えら……」
数分後。
「ゼェゼェ、生徒会長を殺せと言われたんだァ。ゼェ……」
「誰からだ。答えろ」
山上は三問目の質問をするが、男はすぐに口を割らない。
「こればかりは言えない」
数分後。
「バフッゼェーハァー。女だ。女に頼まれた。生徒会長を殺せば大金をくれるって」
「理由は? その女は誰だ?」
山上は更に男に迫る。
「その女は知らない奴だった。だが、最後にその女は俺に言ったんだ。他の王レベルも殺せば大金をあげるって。本当だぞ」
この男の表情と勢いから見ても本当の事なのだろう。
「分かった。お前の話を信じるよ」
山上がそう言うと男は顔を明るくして、
「本当か? なら今すぐこの紐をほどいてくれ」
男は体を揺らしながら頼み込んできた。
馬鹿め。ここでお前が紐を外した瞬間にお前に取り付き、生徒会長を殺せば俺のもとに大金が転がり込んでくるのだ。
こんなガキに負ける僕ではない。
先日から突然こんな能力を手にいれたが、これは恐らく神からのプレゼントだったのだ。
僕の能力は目が見えれば発動できる。
後は、生徒会長と目を合わせればいい。
実に簡単な仕事だぜェェェ。
彼は心の中でそう思っていたのだ。
「いいだろう。だが、お前は殺人未遂の罪を償ってもらうために牢屋に連行されるのは確定だろう。最後の景色を味わうといい」
山上はそう言うと男の視界を覆っていた部分の紐を外した。
「馬鹿め。ガキが、甘いんだよ。俺の能力を忘れたのか? 今すぐお前に取り憑いて、お前の目で大事な仲間を殺すんだ。
さよならだぜド糞野郎がァァァァ!!!」
外された瞬間に男は山上と目を合わせようとしたが、
「これは!? 水の膜だ。空中で水が膜になっている。はっ!? 」
そう、彼の視線の先は山上の目ではなかった。
突然現れた水の膜により、目を合わせることが出来なかったのである。
「金に目が眩んでるじゃねぇですか。
あんたはその能力を手にいれたから今みたいに人を平気で殺すようになる。
それはいけないことだわ。
そしてよくもあんたみたいな能力のせいで…能力のせいで…。よくも私の心を…。
あんたなんか、溺死しやがれぇぇ!!!!!」
八剣は流水を使って男に連続で攻撃を放った。
八剣の攻撃を喰らった男の悲痛な叫び。
「「ゴブォ、ブベゴブゥォブベシャゴボッッッ!?!?!?!?!?!?」」
流水の連撃と顔の周りにくっついた水の塊によって、男は溺れ叫びながら吹っ飛ばされる。
「すごい。さすが八剣だ。でも、八剣…怪我人の山上も巻き込まれていたんだが」
大台ケ原の視線の先には男とは反対方向で気絶している山上がいた。
八剣はまるで朝日を浴びるかのごとく清々しい気分で、
「今日の所はこれくらいにしておいてやる。
生徒会長、説明についてはよろです。
じゃ、帰りまーす」
最終下校時間もとっくに過ぎている中で、八剣は三人を置いて靴箱から立ち去った。
今回の事で山上が何を考えながらあの台詞を言ったか本当の所は分からない。
しかし、八剣にとって初めから山上は、ライバルであり、仲間であり、潰したい敵であり、下の立場にいる自分以下の存在であり、憧れだった。
その思いは変わらないのだ。
数分後、大台ケ原の連絡で男は逮捕された。
そして、不審者を捕まえたとして生徒会の名声は更に高まっていったのである。




