盟友達の思い出の証(narou)
一方、こちらは英彦とマオ。
彼らはヨーマの身に何が起こっているかも知らずにのんびりと会話を楽しんでいた。
「遅いねーヨーマまだかな」
「そうだねートイレに時間がかかってるんでしょうか」
ゲームセンターの前に置かれたベンチに座りながら、2人はヨーマの帰りを待っていた。
すると、英彦は先程考えていた事を思い出す。
これまでのお出かけでは聞くことができなかった。
兄妹の家族についてや過去である。
「──あのマオさん。そういえば前から気になってたんですけど、僕と出会ったあの日より前って何してたんですか?」
ふと英彦が呟いた質問。
その質問にマオは一瞬真剣な顔になったが、またいつも通りの顔に戻って回答する。
「──うーん、我達の昔ね。英彦っち達と出会うまではロクな目に会わなかったからな。まぁ…今もちょっと問題は残ってるけど。
それより英彦っちはどうなの?
我らと会ってないあの1年間より前は何してたの?」
すると、今度はマオから英彦への過去の事の質問。
英彦は少し悩んだ後、自分の過去について話し始める。
「そうですね~。白帝家の中でも上位の家系だったのですが、家族とは生き別れ。
遠い遠い親戚の家で長男として生活してました。その頃から村の付喪神狩りとして活躍してたんですよ。
そして、高校生になってから一人暮らし。
その後、色々あって2年生に上がった時、付喪カフェと出会いました」
こうして英彦の身の上話を聞いたマオは、初めて聞く彼の身の上話に驚かされたが、自分の会話のペースに移した。
「へー大変そう。
でも、まさか再会した時はこの都市にいるなんて驚いたよー」
「僕もですよ。まさかこの町に来てるなんて」
2人は付喪カフェで再会した時の事を思い出す。
あの時から彼らは色々な場所へ行ってこの国を探検して回ったのだ。
「ほんとよかった。ヨーマも喜んでたよ。
助けてもらった恩人……明友にまた会えて」
「──会えてよかったのは僕の方です。あの日、2人と出会って外の世界に憧れたから、僕は村を出てこの出会いを見つけたんですよ?
再会できなかったらこうして想いを告白できませんし」
英彦の目に写るのは、あの日の事。
急に天井を見て何かを思い出し始めた英彦。
だが、マオには何をしているのか分かっていないようで。
「───おーい? どうしたのさ? ボーッとしてたぞ。それとさっき何て言ったの?
あの日がどうのこうのって?」
どうやら、マオには英彦の感謝の気持ちが聞こえていなかったらしい。
すると、先程の台詞が急に恥ずかしくなったのか。
英彦は顔を赤面させて、話題を変えようとする。
「あっ、いえ何でもないですよ。
それより2人が付喪カフェの方々と仲がいいようで安心しましたよ」
「あーそう? みんなが優しいからだね。
妙義っちは厳しいけど面倒見がいい。
店長っちは仕事や見た目がクール。
ウサギっちは可愛い。
簀巻っちは世の中の底辺を示す良い反面教師。
黒っちは甘えればすぐ何でも聞いてくれるチョロ…………良い人。
死神っちはお上品な感じ。
明山っちは…………あの人はよく分かんないけど良い人ではある。
みんな優しい人達ばっかりだよー」
悪口と賞賛が混ざったみんなの評価。
これはマオの本心からの評価である。
おそらく、兄のマオがこういう印象なら、妹のヨーマからの印象もそんなものなのだろう。
2人の考えはいつもだいたい同じになるのだ。
「それより英彦っちはどうなの?
みんなと仲良くやってる? 彼女出来た?」
「そりゃ仲良くしてますよ。彼女は聞かないでほしいです」
「そっ、なら安心だよ。それよりー妙義っちやヨーマや黒っちや死神っちの中に好きな子いないの?」
いきなり始まった恋バナ。
それはまるでノリが合コンのようだ。
恐るべしマオ!!
いきなりこんな風に恋バナに話題を変えるとは流石である。
「──べっ、別にいませんよ。それよりマオさんはどうなんですか?
旅をしてきて誰かいました?」
今度は英彦からマオに振るのだが、
「ん? 我が世界で1番好きなのはヨーマだけだよ?」
マオは真面目な顔でハッキリと言いきった。
2人が恋バナで盛り上がっていると、ようやくヨーマがトイレから戻ってきたようだ。
「ごめんね~2人共遅くなっちゃって~」
聞き覚えのある緩い声が2人の耳に届いてきたのだ。
「遅いぞーヨーマ。早くいこーぜ!!」
先程までの恋バナが嘘のようなテンションでマオは立ち上がると、ヨーマの元へ駆け寄る。
「遅かったじゃん。どうしたのさ。なにかあったー?」
「──我は何もなかったですよお兄様。それより何話してたんです?」
横に並び、ゲームセンターへと入っていくヨーマとマオ。
英彦はその後ろからいつものようについていく。
この2人の間に入るなんて、なんだか兄妹の邪魔をしているような気がするのである。
「そういえば、お兄様達は何を話してたの?」
「んー? 恋バナ」
「恋バナ!?」
さて、ゲームセンターに入った英彦は普通に何をするか見て回っていた。
ふと目にしたクレーンゲームを見ながら、英彦は何をするか考えている。
どうせなら、3人で楽しめるものがしたいと考えていたからである。
だが、ゲームセンター内にはたくさんのクレーンゲームがある。
それにいろいろなゲームもあるから大変だ。
幸い客の姿が見えないから探し放題だが、2人が楽しめるものを捜せなければいけないのだ。
「うーん何が良いだろう」
英彦の手元には帰りのバス代と今日の夕御飯代と100円。
まさか、ここまでお金が無いとは…。
確かに3人で国内を観光する時に毎回金を使っていたが、こんなところで報いが来るとは思ってもいなかった。
「100円って1回しか出来ないじゃん。
そうだ!! 2人のお金も使えば……」
……と思ってゲーム機から目をあげた英彦だったが、既に2人には置いていかれたようだ。
数分後。
「おーい、英彦っちー。なにしてんの?」
「なにかいいの見つけました?」
ふと横を見ると、手にたくさんの景品を持ったマオと1つの景品を持ったヨーマの姿がそこにはあった。
まさか、2人だけで既に始めてしまっていたのだろうか。
「──僕は置いていかれてしまった」
……と英彦は2人に聞こえないように小声で呟いたので、ヨーマには聞こえていない。
「~?? あっ、プレゼントだよ~はい、これ」
ヨーマは自らが持っていた景品を英彦に差し出す。
「これは?」
英彦の手元には剣の形をしたブレスレット。
「さっきお兄様が獲得した3つのブレスレットの1つ。3人でお土産になる物をお兄様が自ら獲得したんだよ!!」
「2万使ったけどね。値段なんてどうでも良いのさ。思い出になるんだから。
あと我が今持ってる沢山の景品はヨーマが獲得したんだよ」
そう言って2人は片手に剣のブレスレットを持ちながら、英彦に見せつける。
それがまるで仲間の証のように…。
「これで良い。やっぱり良い。
いいか? 英彦っち。もし我らがまた旅に出る事になっても泣くなよ?
君にはみんながいる。それにこの証がある。
我らは国市の三銃士だ。盟友だ。
生涯の盟友でいような!!」
マオからの優しい台詞と満点の笑顔。
英彦はその台詞に対して、先程の仕返しとして聞いてなかった風を装うとしたが、台詞からの感動が強くて、それは出来なかった。
それをしてはならなかった。
久々にマオが真面な事を言ったのに、それを冗談で終わらせることはいけないことだからだ。
おそらく、彼らはこれからも盟友であるのだろう。
例え、何があっても離ればなれになっても、英彦は一生彼らという盟友を忘れないだろう。
「それじゃあ帰ろう~お兄様。そろそろ帰らなきゃ間に合わないよ」
すると、マオの後ろからヨーマが声をかけてくる。
ヨーマは壁の上にある時計を見て時間を知ったようだ。
「あっ、そうだね。治……じゃなくて帰りのバスに間に合わなく……」
2人は帰ろうと出口へと向かうが、ヨーマの手を引っ張る者が……。
「──最後にあそこの写真機内で撮りませんか?」
英彦は目を剃らしながら、ヨーマ達に頼んでみる。
英彦だって時間がなくなりそうなのは分かっている。
ただ頼み込んでみただけなのだ。
断られるのを覚悟に聞いてみただけ。
さぁ、2人からの返事は…。
「もちろんー!!」
「もちろん~!!」
マオとヨーマはニコニコとした笑顔で英彦に近付くと、英彦を間に挟むようにして写真機へと向かう。
「いつもの定位置が違いますけど!?」
2人の間に入れられた英彦は戸惑いながらも、流れに抗わない。
いつもは2人の後ろから追いかけていたが、今日は並んでいる。
その事がなんだか嬉しいのだろう。
「いいんだよ遠慮しないでー!!」
「妾達は盟友なんだからね~!!」
3人の盟友は時間も忘れてそのまま写真機へと向かっていった。




