1000年天使のヨーマさん(narou)
さて、ついに6階についた英彦達。
彼らはエレベーターから降りる。
そして、ここからはヨーマが主導権を握る番だ。
「2人とも~行きますよ~」
ヨーマは両手でそれぞれの手を引いて歩く。
さぁ、ついにヨーマのファッションショーの始まりだ!!!
なんて、考えていた時期が英彦にもありました。
着いたのは服屋さんを通り越した先にあるゲームセンター。
そう噂に聞く、伝説レベルの場所。
“ゲームセンター”!!!
「どうです? 2人とも。
妾の見つけた面白い場所~!!」
ヨーマこれみよがしに自分の成果を自慢してくる。
これはまた珍しい。
「さすがだぞ。ヨーマ。さすが我の妹!!」
「正直驚きました。ヨーマさん」
2人からの熱い視線を浴びせられて、少し恥ずかしくなったのだろうか。
ヨーマは先程まで行っていた自慢を急にストップさせる。
すっかりと赤面した表情で俯いているヨーマ。
「──その……あの……やっぱり今のは…………」
彼女の先程までの自信はどこへいったのだろうか。
「ごめん。先にトイレに行くね」
ヨーマはそう言い残して走りながら去っていく。
猛ダッシュ。
それはまさに陸上選手のように速い速度である。
「ヨーマさんんんんんん!?」
「ヨーマアアアアアアア!?」
残された2人は彼女の身に急に起こった変化に取り残されたままその場から動けなくなった。
恥ずかしさのあまりトイレに急ぐヨーマ。
彼女はなぜ自分があそこまでハッチャケルようになったのか自分でも分からなかった。
「どうしたんだろ? 妾……今まであんなに自慢するなんて」
ヨーマの性格上今までこんなにハッチャケタことはなかったのだが、今日はいったいどうしたことだろう。
「もしかしたら、英彦っちと再会したからか?
それとも付喪カフェに出会ったからか?
それとも妾が……」
なんて、そんなことを悩みながら彼女はトイレで顔を洗おうと考えているのだ。
その時、彼女の行く手を遮るように、目の前に女が立っていた。
トイレに行く人への通行の邪魔になること確定の位置。
白い髪の女性が通路で仁王立ちしているのだ。
さすがに邪魔だと思ったヨーマは、優しく女性に語りかける。
「すみません。トイレに急ぐんですが」
申し訳なさそうな雰囲気で女性に語るヨーマ。
しかし、その女性のへびのような眼孔はジッと獲物を見定めるように動かず、体もジッと動かない。
だが、そんな彼女でも口だけは動かせる様子。
彼女はその場に立ったまま口を開き始めた。
「あら、ごめんね天使ちゃん。でも、お話くらい聞いてくれないかしら?」
その女性からの返事にヨーマは正直震え上がった。
初対面の女の子に天使なんてあだ名を付ける大人がどこにいるだろうか。
いたら、即刻警察を呼ばれるのがオチだ。
すると、そんな様子のヨーマには目も向けず、女性は語り始める。
「私の名は『澤上妙高』です。
私…ずっと娘が欲しかったの。でも、夫には裏切られて最愛の娘も産まれず死んだ。
私は絶望したわ。夫を奪った女を呪わない日はなかった。そいつは浮気相手の女性。
私に訪れたのは憎悪と欲望が渦巻く日々。
それでも神様は天罰を与えず、死神は魂を刈らない。
こんな世界に絶望したわ。弱者などに救いがない世界。
そんなある日、カウンセラーに会ったの。
彼は私の人生を蘇らせてくれたわ。
あの人が『Live as you want.』と言ってくれなかったら私は死んでいた。
だから、私は欲望のままに生きることに決めたのよぉ」
確かにかわいそうな話だ。
夫に捨てられてさぞ悲しかっただろう。
娘も産まれなくてさぞ悲しかっただろう。
そのカウンセラーに会うまでは絶望に染まった人生だったのだろう。
しかし、しかし、しかし、
そんなことヨーマには関係がない。
彼女がここで足止めを食らう理由にはならない。
でも、ヨーマは優しかった。
「──そうですか。辛い日々だったんですね?」
……とヨーマは声をかけてあげる。
そこに蔑みの感情や無関係の思考などない。
ただの同情。
「そうよ。分かってくれるのね?
なら私の願いも聞いてくれないかしら?
私ね…娘が欲しかったの。
ここまで苦労させられたんだから、美少女の……。
でも、ただの美少女じゃなくて1000年に1人くらいの美少女。
それがあなたなのよ?
天使、尊い、素敵、可愛い、伝説。
それがあなたなのよ!!!」
妙高からの歪んだ娘への愛情。
しかもそれは他人を自分の娘にしようというものであった。
その話を聞いていたヨーマの震えが止まらない。
「……ッ!?」
「そんなに照れないで? じゃあ、そろそろ行きましょうか。私達の幸せのハウスに……」
妙高は震えて動けないヨーマの手を掴み、引っ張っていこうとする。
無理やり引っ張られている手を振り払いたいヨーマであったが。
澤上の力が強くて振り払うことが出来ない。
このままでは人攫いにあったように連れ去られてしまう。
「さぁ、早く行きましょうね~♪」
必死に抵抗するヨーマであったが、それより強い力で引っ張られる。




