盟友、数市へ行く(narou)
「ふわぁ~~~」
朝の付喪カフェに英彦のアクビが響き渡る。
今日もお客が少ない店舗。
つい最近まで穴場スポットだったというのに、もっと人が減ってしまったようだ。
英彦は眠そうにしながら、店内を清掃中。
掃除機の力をマックスまであげて、ゴミを吸い上げている。
店長はディスクワークしながら、新聞を読んでいる。
「カウンセリングサービスで有名な相談援助所リベリオの黒い噂? くだらない都市伝説だな」
ボソッとなにかを呟きながら、新聞をめくっているが、英彦には聞こえていないらしい。
英彦は少し気になり、掃除機の電源をきって新聞の内容を聞こうとしたのだが…。
それはドアの開く音に意識を遮られてしまった。
大きな音を発てて開く付喪カフェのドア。
そして、2人の男女が店内へと入ってくる。
「たのもー。カフェ破りに参った。英彦っちを出せー」
「たのも~。人探しに来ました。英彦っち来てる~?」
息ぴったりの2人組の男女。
彼らは英彦の事を探しに来たようだ。
都会で流行しているようなファッションに身を包み、お出かけムード満載の雰囲気のマオとヨーマ。
「どうしたんですか? 2人共?」
今日はバイトの日でもないのに、現れた2人に英彦は驚きを隠せない。
「最近、英彦っちは我らにいろんな場所を案内してくれてるでしょ?」
「でも、今の数市には行ったことないから。連れてって欲しいなーってお兄様が言ってたんだよ~」
ヨーマに実際の事をバラされてマオは恥ずかしくなったのだろうか。
顔を赤面させて必死に言い訳を考えようとしている。
「別に2人でも行けるしー。盟友だから誘ってあげてるだけだしー。てか、ヨーマだって3人で行こうって賛成してたじゃんか!!」
そんな兄の恥ずかしそうな顔つきを妹は面白そうに眺めていた。
「分かりました。でも、バイトが終わるまで待ってて!!」
英彦は2人にそう言い残すとバイトを再開し始める。
兄妹はその様子を椅子に座りながらのんびりと見ていた。
「大変そうだなー英彦っち。」
「客いないのにね~。」
2人が英彦のバイト終わりまで待っているつもりのようだ。
そして、2時間後……。
英彦はバイトが終わったようだ。
マオとヨーマはやっと出かける事が出来るのだ。
英彦がバイトを済ませて、2人の前に現れる。
「──よし準備は良いかなー?」
「英彦っち、じゃあ出発~!!」
マオとヨーマは手を繋いで、英彦の前を歩く。
英彦はその後ろをゆっくりと着いていく。
そして、歩いたりバスに乗ったりして1時間30分。
ビルが並ぶコンクリートジャングル。
車が至る所に列を作る。
ファッション、スイーツ、ショッピングモール。
そう大都会。若者が集う流行の都市。
それが数市である。
そんな同じ国内の数市なのだが、英彦達はあまり来たことがないようで、眼をキラキラと光らせている。
「「「ウォォォォォォォ!!!!」」」
たくさんの若者や会社員が道路を渡る中、英彦達はその建物などの凄さに感動している。
景色だけではない。
大きなテレビ画面から流れてくるCMの音や広告車の音声など、耳にも響いてくる感動。
3人は涙を浮かべるほど感動しそうになっていた。
その様子が気になったのだろうか。
通行人がしばしばこちらを見て微笑んでいるように感じる。
おそらく、英彦らが上京してきたと思われているのだろう。
きっと自分たちと姿を重ねて、自分たちの懐かしさを感じているのだ。
「スゲー、同じ国とは思えねー」
「おしゃれしてきてよかったね。お兄様」
「僕もおしゃれしてくればよかったな」
急に目立ち始めたのが、恥ずかしくなってきたので、英彦達はその場から颯爽と移動することにした。
人目を避けて、とあるショッピングモールへと避難した3人。
ここなら、のんびりと買い物が出来るかもとウキウキしていたヨーマであったが。
「あっーーーー2人ともツピキクドリンク店があるよ!!」
マオがまず興味を持ったのがドリンク店。
マオはツピキクドリンクに目を奪われて、ヨーマと英彦の手を掴むと一直線に向かっていく。
「「……!?」」
その心の奪われように驚くヨーマと英彦であったが、2人はマオの行動に身を任せることにした。
マオが店の前に立つと、店員のお姉さんに向かって注文を行う。
「おねーさん、あの2人にドリンク2つくださーい」
「2つ!? 何で?お兄様」
てっきり自分の分だけ買いに来たと思っていたヨーマは驚き、マオに尋ねる。
「我はお金あんまり持ってきて無いし、飲んだことあるから。飲んだとこ無い2人が飲んでよ」
マオなりの優しさ。
ヨーマと英彦は少し申し訳ない気持ちになったが、ありがたくいただく事にした。
目の前に出されるツピキクドリンク。
きっと甘い風味に優しい友情の味が口に広がるのだろう。
ヨーマと英彦はありがたくそのドリンクを店員から受けとる。
しかし、そんな優しいだけがマオではない。
「あと、このチケット使えるー?」
そう言ってマオが取り出したのは、限定ドリンクのチケット。
「あれは!? 限定雑誌の付録に付いている応募券でしか当たらない。究極の激レアのツピキクドリンク!?」
ヨーマがそのチケットについて完璧な説明をしてくれた。
そんな2人が驚く様を見てニヤッと笑うマオ。
それはまるで小悪魔のような笑顔。抜け目ない奴だ。
「さすが、マオさん。僕たちの感動を奪いさって行きましたよ」
先程までの優しい友情への感動を返して欲しいと思う英彦であった。
無事にドリンクを買った後、3人は近くにあったベンチに座りながらドリンクを味わっている。
結局、マオから激レア限定ツピキクドリンクの3分の2を貰った2人。
マオは残り3分の1の激レア限定ツピキクドリンクを飲み、2人はツピキクドリンクを1杯飲み干す。
「なんか、我だけ飲む量少なくね?」
一番先に飲み終わったのはマオ。
彼は頬を脹らませながら、ヨーマと英彦の顔色を伺っている。
「どうしたんです?」
英彦はそんな様子のマオをチラ見しながら、ドリンクを飲み続けていた。
すると、その様子に気づいたヨーマは、
「お兄様はドリンクが英彦っちの口に合うか。心配なんだよ~」
……と彼の心境を説明してくれた。
「てっきり、苦手とかだったら悪いじゃん?
ヨーマは好きそうだから良かったけど…。英彦っちはコーヒーに慣れてるだろうしね」
マオはドリンクの味が英彦に合うか少し心配だったようだ。
先程までの小悪魔感が微塵も感じられない。
英彦へ余計な心配をしてくれていたのだ。
「いやいや、年中無休でコーヒーを飲むほどカフェイン中毒じゃないですよ!!!
───まぁ、コーヒーには負けてますけど、これはこれでアリですね。ハマりそうです」
「よかったー。あっ、そうだ。ヨーマ次どこ行くー? 我はドリンク飲めただけで大満足ー!!」
英彦から感想を聞いたマオは、次の場所をヨーマに聞き出そうとしている。
「う~ん、そうだね~」
すると、ヨーマはドリンクを飲み終えてからしばらく考えると…。
どこか見つかったようで、
「あっ、ここの6階にいい場所があるよ」
…とニコニコしながら提案をしてきた。




