英彦と駒ヶの買い物
「はい。これであなたの情報は更新されました。それで…あの…どうしますか? このまま続けますか?」
付喪連盟の受付にて、女性スタッフの方から英彦のサンチュウを返してもらう時に彼女は言った。
以前の戦いで無理をして放った代償は僕が付喪神の能力を使えなくなること。
これでしばらくは付喪神に襲われても、戦うこともできずに死亡すること。
その二つの運命が待っているという事を彼女は僕に教えてくれた。
それでも付喪人を続けていくか、彼女は僕に問う。
しかし、どんなに危険でも僕は付喪人を辞めたくはない。
「はい。ここで投げ出したら、こいつと戦ってきた意味がありませんから」
そんな事をドヤ顔で言った僕への印象はスタッフの方には低くなったかもしれない。
無言で返されてしまった。言わなきゃよかったかもしれない。
そうして、僕は静かにスタッフの前を立ち去る。
これからどうするか。
僕は付喪連盟の外にあるベンチに座りながら考えてみた。
先程のスタッフの女性には続けると言ってしまったものの、契約する付喪神がいないんじゃどうにもならない。
何か策はないかと頭を捻って考えていると……。
「おっ、困ってるのか? どうした英彦君」
気軽に僕に声をかけてきた人物がいた。
「駒々さん。別に悩みなんてないですよ」
僕は返答しながらも彼との距離をおく。
この人と関わると嫌な事が起こる気がする。
僕の本能がそう訴えかけてくるのだ。
しかし、こうなった原因は駒ヶにはお見通しらしく。
「もしかして、以前の戦いで強い技を放とうとしたが、その代償で付喪神が壊れて契約が解除されたのか?」
「何でそんな事まで知ってるんですか!?」
僕は彼にしゃべっても無いことを的確に言われて驚いているレベルというか、引くレベルまで到達してしまった。
駒々さんがその事を笑ってごまかしているのも少し腹立つ。
「なぁ、お前の付喪神は治してまた契約し直せないのか?」
「それがですね」
そう言うと僕はポケットからライターを取り出す。
そのライターは真っ二つにひび割れていた。
「お前……もう中身がないからってポケットに入れるなよ。だけど、こりゃ駄目だな。魂がない」
やはり、もうこいつとは戦えない……そんな真実を改めて聞かされると、寂しいものである。
これは今まで世話になってきた相棒のようなものだったのだ。
「分かっていますよ。でも、もうこいつとは戦えないのは……。だからせめて新しい付喪神と契約をして、こいつの跡を継いで貰いたいんですが」
すると、駒々は僕の心情を悟って代弁してくれた。
「そうだよな。例え付喪神が多くても、お前の求める付喪神が多いわけじゃないからな。
それに見つかったとしてもお前と契約してくれるかも分からないからな~」
僕は小さく頷く。
すると、駒々さんはため息をついて僕の顔を笑顔で見つめながら言った。
「良い所があるんだが英彦君、お前はどうする?」
良い所……?
電車を乗り継ぎながら着いた場所は英市であった。
最近来たばかりだったが、この日も町は変わらず繁盛している。
大勢の観光客で店はにぎわっているのだ。
付喪カフェもこの場所に移転すれば良いのに。
そう思ったが、ここまでの繁盛ぶりなら移転争いが大変なのだろう。
または、あの土地に思い入れがあるのかもしれない。
そんな事を考えながら店々を二人で見歩いていたのだが、とある店の路地裏に駒々さんは入っていった。
置いていかれたみたいだったでその場に立ち尽くす僕を、駒々さんは手招きをして着いてこいと言っているかのようであった。
「駒々さん。大通りから離れているんですが」
「ああ、そうだな」
路地裏を歩く二人。
大通りからはどんどん離れていく。
結局、どこに連れていかれるかも分からず駒々さんの背中を追いかける事にしたが。
「おい、そんな後ろにいなくてもいいじゃないか」
駒々さんは少し微笑しながらこちらを向く。
「……で英彦君。前から思ってたんだが学校とかはどうしてるんだ?」
駒々さんはまるで親戚のように僕に話しかけてきた。
彼も話す内容に戸惑っているのだろうか。
「別に……たまに行ってますよ。まぁ、黒さんはちゃんと学校は行ってるみたいですが。明山さんは行ってないみたいですね」
「お前の事を聞いたのに、二人の話も出てくるとは……。お前ら本当に仲が良いな」
笑いながら答えた駒々さんの態度で、少し赤面してしまった。
すると、再び駒ヶは話の内容を変えて、僕の知らなかった真実を話してくれた。
「なぁ、お前知ってるか? 明山はたまに国市の近くの草原で修行してるんだぜ」
「え……?」
知らなかった。
僕にとっては衝撃の真実である。
「あいつの残金がいつも少ないのは、戦いの時だけではなく修行中も使ってるからなんだ」
僕にはあの人の気持ちが分からなかった。
明山さんが何故今でも無双状態なのに修行をしているのか。
何故給料を削ってまで、修行をしているのか。
「これまた不思議でな。前にあいつに聞いたんだよ。何で修行をしているのか」
僕は駒々さんの話にのめり込んでいた。
「そしたらな、一つ目の理由が五百円を使うことが出来るようになることで、二つ目の理由があの眼鏡をかけなくても戦えるようになることらしい」
てっきり、僕は皆を守ることも入っているかと思ったが明山さんの中には無かったようだ。
確かに、今まで明山さんが五百円を使って戦った所を見たことは無かった。
使わないのではなく使えなかったのである。
それにあの眼鏡だって、最初の頃は戦う時にレンズに金と書かれた眼鏡をかけていた。
更には眼鏡をかけなくても戦えるようになろうとしている。
いったい、あの格好いい眼鏡の何が嫌なのだろうか。
「そういえば、あいつが修行をしだしたのは、だいたい三ヶ月ほど前からだったかな」
ふと呟いた駒々さんに今度は自分から話題を作ってみることにした。
「三ヶ月ほど前……でも僕が初めて駒々さんに会った時は、明山さんの記憶は無かったじゃないですか」
「ああ、あのときは明山とはちゃんと会ってなかったからな。あいつ、滅茶苦茶真剣に頑張ってたし、声がかけずらかったんだ。もしかして記憶が無くなった時に付喪神の能力の仕方も忘れてしまっていたのかもな?」
僕は明山さんがとても哀れに思えた。
今まで出来ていたであろう事が急に出来なくなるのはとても大変だったのだろう。




