失敗しても焦りは禁物(narou)
「黒様ー!!」
「よっ、次世代の勇者 黒さん」
「黒様~。こっち向いて~」
沢山の歓声と共に大きな拍手が付喪連盟に響き渡る。1人の女性へアイドル並みの歓声をあげられている。
ある日、付喪連盟から直々に呼び出された俺達。
「遂にクビになったか」と次の仕事を考えていたのだが。
俺の心配を返して欲しいものだ。
「黒帝 黒さん。魔王軍幹部の八虐の不義を倒したという事で賞金1億円をお受け取りください」
スタッフがドラマなどで見るようなトランクケースを黒の目の前に差し出す。
もちろんその中にはドラマなどで見るような札束がぎっしりと入っているのだ。
金!! 金!! 金!!
前回フィツロイを倒した俺達だったが、最後の最後で黒が止めを指したので残念な事にサンチュウには黒が倒した事になっている。
なので、黒の名義で報酬が受け取れたのだ。
「皆~ありがとう。どうぞ付喪カフェをよろしくお願いします。さぁ~今日はパーティーよ!!」
ちゃっかり宣伝も含まれてはいたが、その発言は聴衆の心を掴んだようだ。
沢山の人の心を掴んだ黒は、付喪連盟の大広間でパーティーを始めるつもりらしい。
魔王の幹部を倒したとなればそれくらいの事は当たり前なのだろう。
パーティーに参加させられるとますます黒名義で討伐されている事にイラつきを覚えそうなので、俺と英彦は静かに会場を後にした。
その後、彼らは暇な時間を潰すために町内を歩いていた。黒は今もパーティーの真っ最中である。必死にフィツロイとの戦闘を繰り広げた俺と英彦には何も得られない。苦労が報われない。
「はぁ~ツラい」
「しょうがないですよ。最後のトドメはとられちゃったんでしょ?
でも、次は良いことありますって」
すっかり気分が落ち込んでいる俺を英彦は励ましてくれた。
もう俺の努力を評してくれるのは英彦だけしかいない。
「なんだか最近、不運なことばかりあってる気がするんだよな~。なんか今にも問題が起きそうな気がするんだよな~」
「そんなに連続で悪いことなんて起きませんって。偉大な先人の1人はこんな言葉を残しています。
「悪い事と良い事は交互に起きるから、どれだけ時間がかかっても起きる。でも、最悪起きない時もあるから注意してね。悪かったからってクレームとか言わないでね。」と……」
そんな名言聞いたことがない。
そして、そいつはどれ程自分の言葉に自信がないのだろうか。
「はぁ? 変なこと言う奴もいるんだな…」
俺が英彦のいる方向を向いて歩きながら話していると。
「「……!?」」
俺の肩と通行人の肩がぶつかってしまった。
幸い、争いが起きることもなくお互いがお互いに謝罪を済ませる。俺の肩がぶつかった相手はごついヤクザっぽい姿の男性ではなく一般人。
「あっ、すいませんでした」
「いえいえ、こちらこそすいません」
育ちがいい謝罪だ。怖い人とかにぶつからなくて良かったと思いながら、相手の顔を確認しようと顔をあげると…。
目の前にいたのは、前に俺を魔王軍の関係者だと勘違いして殺そうとして来た男だった。
「「てめぇはあの時の!!」」
名前も知らない相手だが、お互いが恨みを持っている。
「ここであったのも何かの縁だ。今日こそ決着をつけてやる。かかってこいやァァァ!!」
「ああ? 上等だこのヤロー。土下座させてやるからな!!」
互いににらみ会う2人。
そして、喧嘩が始まってしまった。
その2人の間でどうすればいいか迷っていた英彦であったが。
いざ喧嘩が始まると2人を必死に止めようとしてくる。
「おら、喰らいやがれ!!!」
紐の付喪人野郎の拳が英彦に当たる。
「……痛ッ」
「お返しだぜこのヤロー!!!」
俺の拳が英彦に当たる。
「……おっとぉ~?」
「もう一発だ!!!」
「ちょっと2人とも拳が全部僕に来てるんですけど~?
巻き込まれ過ぎてます。いい加減にしてください。怒りますよ?」
2人の拳に半分以上巻き込まれている英彦。
「この一撃に全てを~!!!」
「これが最後でもかまわないから、最強最高級のパワーで~!!!」
2人はフルパワーの拳で決着をつけるつもりのようだ。
「「おらぁ、これで決まり。くたばりやがれェェェェェェ!!!!!」」
本気のお互いの拳が顔に迫ってくる。
「ギャァァァァァァァァ!!!!!!!」
英彦はこれまでの流れで察していた。
このままでは2人の本気の拳が英彦に当たってしまう。
だが……おそらくこの状況では英彦は2人の拳を避けることができない。
もう変えることのできない運命。
英彦は開き直って2人の拳で殴られてしまうのを覚悟していたのだ。




