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黒い存在と銀色の狼(narou)

「あれから10年か。あいつ今どうしてるかな」


夜の空を見上げながら大人になった私は走馬灯を見た後で考える。


 中学のころ、転校生へのいじめにより彼女は学校から姿を消した。

私達は彼女を裏切ったのだ。

みんなして彼女を囲んで……。

その時、女子達が言った言葉はきっと深く彼女の心に染み付いたのかもしれない。


「幽霊が見えるなんて頭のおかしい奴ね。イカれてるわ」

「気をつけて彼女に触ると、とりつかれるわ」

「何が冒険者のかわいそうな魂よ?

そいつらはもう死んでるの。敗者は敗者よ。

死んだ人の事をどう思おうが私たちの勝手じゃない」

「冒険者達の事をそんなに悪く言うのかって?………だって時代はもう付喪人なんだから。

冒険者連盟なんて時代遅れじゃない」


我々にはただの言葉であったが、

当時の彼女には、またそういう家系で育ってきた者には恐らく辛い一言だったのだ。




 何故今こんなことを考えるのか分からなかったが、恐らく私はあの頃の事を後悔していたのかもしれない。

今、何故こうなっているかは理解ができないが……。

私の短い人生はきっと無意味だったのだろう。


「ごめんね。今そっちに行くから。謝るから私ともう一度友達になって……」


ドスッ…………!!!!







 塔の上から見ていた存在は今、死んだ魂を見ながら嘆くように言い放つ。


「一つのはぐれし魂ぞ。何故怨みが出でこず。呪へ狂へ、悪霊や負の感情が我が望み。

もしや、あれはいつもとは異なる魂か……。

未練や消えし。かの世に行かまほしや。

殺しがいが無くば あぢきなし。弱し弱き負の感情。この時は未だ平穏か。

ならばまた所へと移らむや……」


その黒い存在は、手をふり落とす。

すると、目隠しをされて塔に吊るされていた何人もの人々が塔から落とされ始めた。

彼らは目隠しをしているが自分がどうなっているかは理解できるようだ。


「助けてー」

「俺が何をしたって言うんだー」

「何でこんな目にー」


沢山の叫びや嘆き。

それと同時に声が途絶える。

または、呻き声に変わる。


「これなりこれなり。求めたるは…。無惨にも殺されし魂ぞ。

怨み怒れ、負の感情を絞り出だせ。それが我の求むるもの。さぁ、次はどの世に行かむや」


黒い存在は大いに笑い。

宙を舞いはじめた。


「次は、鍵をありきし八虐と転移者との戦ひの時に行かむや。

扉の先なる自身の願ひを求めるべく、鍵をありきし憐れなる戦へ。子猿どもの驚かぬまま殺し会ふほどへ。

なほ、いつの世も欲望を叶へむとぞする。

はぁ、もっとなり。もっとなり。負の感情を集めずは…… 」


黒い存在は、一喜一憂しながらこの場を去ろうとしたのだが。


「待てよ」


何者かが彼に声をかけてきた。


「何者なり?」


その男は鉄塔の上にしがみついて必死に落ちないように耐えながら自らの名を名乗る。


「俺の名は『空木うつき』。銀狼の空木って呼ばれている王レベルの付喪人の1人だ」


その男、灰色のモフモフとしているコートを着て黒髪。まるでどこかの親分のような雰囲気を醸し出している。

指には銀色の指輪が3つ。月の光を反射するように目立っていた。


「狼心ばへがなんのやうなり?

よも、足止めにもせむといふよしならざらむ?」


「ああ、まぁ……そう言われればそうだ」


「我は“かのお方”を復活さする準備に忙しけれど。

それともなんぢも糧にならまほしと?」


「くだらねぇことしてんだな御前は……。俺はただ御前と月を見たかっただけだ。

今日は満月だからな……。こういう日には強い奴に会いたくなんのさ」


そんな事を言いながら、月を眺める空木に黒い存在はあきれた表情のようなものを浮かべている。


「ただのをこ犬なりきや。

よしなし。とっとと負の感情を出ださずやな。

我の案に要るぞ」


「そっ?

じゃあ、始めるのか?

めんどくさいけど仕方がないか」


空木はそう言うと、鉄塔の柱に乗ったまま立ち上がる。

そして、夜空を見上げ月をジッと眺め始めた。


「『月夜の血肉舞踏曲ムーンリット・ブラッディー・ダーンス』」






 黒い存在の目の前に、先ほどとは違う雰囲気の男が立ちはだかる。

その姿はまるで獣人。

身体中から狼の毛が生えており、大きな鋭い牙と口、そして刀でも生えているのかと疑いたくなるような長く鋭い爪。


「今宵は満月ではないが知ってるか?

狼男ってのは銀の弾丸でしか殺せねぇ。御前はどこまでオレとおどれるか?」


「所詮は月がなくばなにもせられず。下等種族、世の常の人にもあらず世の常の怪物にもあらぬ擬物。

哀れなる哀れなる。

汝が不死身、我も死なぬ。

されど…期と命のある汝に勝ち目などなし」


余裕そうな表情のようなものを浮かべる黒い存在。

しかし、空木も不敵な笑みを浮かべて、


「じゃあ、聞こうか?

オレ達が落ちていくのを御前はいつになったら気づくんだ?」


黒い存在が気づかない間に鉄塔の柱はバラバラに切られ、彼らは地面にきれいに落ちていく。


「……!?」


思わず、一歩その場から退いてしまう黒い存在。


「狩りってのはどっちが早く喰らえるかだ」


黒い存在が、その言葉を聞いて理解する前に、黒い存在の身体は傷つけられていた。


「痛き痛き痛し?

我が我が我が我が?

何時なり何時なり何時なり

せっかくの魂がいたづらになる。

消えぬる消えぬ」


黒い存在は焦っていた。

気づかないうちに切り傷をつけられてしまったのだ。

実際、奴の身体からは黒い霧のようなモノが飛び出てくる。

だが5秒もしないうちにその傷口は塞がってしまった。



 そして、地面に着地する2人。

地面には血生臭い匂いが漂っている。

黒い存在が人々を地面に叩きつけていた残骸が転がっているのだ。

だが、お互いそんなことは気にせずに戦闘を行っている。


「チッ、このオレの攻撃速度は王レベルでも上位に入るのによぉ~。そんなに早く治られちゃエグリがいがあるじゃねぇかよ」


黒い存在に次々と傷をつけていく空木。

これ以上はまずいと思ったのだろう。

森の中へと逃げる黒い存在。

それを追いかけて彼も木々を切り裂きながら進む。


「誘い込んでるのか? 夜の深い場所へ」


空木は疑いながらも、奴を追いかける。

そういえば、ここへ入ってきてから先程とは雰囲気が違うように感じる。

まるで別の場所に迷いこんだようなそんな気がするのだ。

だが、そんなことは気にせずに木々の枝から枝へと猿のように飛び移る黒い存在。


「この森の奥……なにかあるな。空気が嫌いな匂いだ。血肉じゃねぇ……どす黒い呪いの匂いだ」


さすがにこれ以上追いかけてはまずいと、空木は木の枝に乗っていた黒い存在に飛びかかると、地面に叩き落とした。


「──驚ききや。あたらしかりきな」


「恐ろしい事を考えるんだな御前は……。この先は“あの場所”じゃねぇか!?」


空木はこれ以上追いかけていたらどうなっていたかを考えると震えてくる。

この先はとある危険な場所だ。


「噂でしか聞いたことがなかったが、まさか本当に存在しているとはな」


まだ力が足りないと悟った黒い存在は少し焦りだし、


「未だ力足らず。

出で直さずは、なほ喰らはずは……」


「──そうか!! 残念だな~」


形勢的に押していたはずの空木は、その瞬間攻撃をやめる。


「悪しけれどここに終はらせさせむ。

いづれ会ふは汝の命はもらひ受く。

認めむ今は我の敗けを」


黒い存在はそう言うと、暗闇の中へ消えていった。

朝日が登り始めたのだ。





数日後…。

付喪連盟内で空木は雲仙にその時の話を語って聞かせていた。

最初は机に頬をついて聞いていただったが、


「……それで君はあきらめて帰ってきたのかい? 君ほどの実力の者がなぜ倒しきれなかったのか」


「御前は頭脳だけ王レベル1位だな。“付喪連盟の軍師”とも言われる御前には分からねぇのか?


奴は空間を弄くって場所に送り込んだ。

では、なぜそこに送り込んだか?」


「バックに奴以上の大物が待ち構えていたということかい?

でも、“黒い存在”って言うのは何百年も前から目撃された逸話に近いレベルの存在。

そんな奴以上の大物がいるとは、限られるくらいしかいない。僕っちにはその推理は間違っていると思うんだけどね」


「まぁ、信じるも信じないのも御前の勝手だが、そういうことがあったって事くらいは覚えておいてくれ。下手したら何があるか分からねぇからな」


そして、空木は椅子から立ち上がると、彼の元から立ち去っていった。


「ありがとう、僕っちの図鑑にちゃんと記憶しておくよ」


男の娘はそう言って空木へ手を降って見送った。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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