魔法ってのは珍しい!?
英彦の放った最終奥義ラグナロクによりえぐりとられた地面…。
その場所に二人の姿はなかった。
「あいつ……無茶苦茶だ。自分ごと何て……」
いや、英彦はきっと大丈夫だ。
今はきっと気絶しているだけだ。
そう自分に言い聞かせて俺は窓から離れた。
そして、あいつの努力を無駄にしないために俺は走る。
その時である。
「……!?」
俺は呼吸ができなくなった。
呼吸をしようと肺を動かしてはいるのだが、肝心の空気が吸えないのだ。
その苦しさに俺は思わず床に倒れ込んでしまう。
だが、それはまるで一瞬の出来事だったかのごとくその現象は終わった。
「ハァーハァーハァー?????」
先程まで吸えなかった酸素をおもいっきり吸い込む。
「なんだ? 今のは?」
下手をしたら窒息死。それほどの状況であった。
しかし、なにか嫌な予感がしているのはあきらかだ。
俺はこの場から一刻も早く逃げようと膝をつき立ち上がろうとした。
だが、足を出すより先に襲ってきたのはあの現象であった。
そして、二度目の苦しみが俺を襲う。
「……!?」
またもや訪れた窒息。呼吸ができない時間。
今度は先程より2秒ほど長い時間の苦しみであった。
「ガッハッーハァー…ハァーハァーーハァー???」
俺の頭の中に浮かび上がったもの。
それは死と言う名の拷問。
この現象は俺を殺そうとはせずに苦しめるための行為である。
恐らくこれは時間稼ぎ。
「動けば、また……?」
もはや恐怖で足が動かなかった。
もうあの苦しみを味わいたくない。そう思ったのだ。
だが、これは館にかけられたトラップ等ではない。
こんなタイミングで発動するトラップなんて、普段おじいさんが暮らしているような場所にこんなトラップを置くわけがないのだ。かりにも彼女が幽霊であってもおじいさんとは家族なのだから。
すると、三度目の苦しみが再び俺を襲いかかる。
俺は必死に空気が吸える場所を探して立ち上がり、歩き出そうとした。
「─────────」
誰かがこっちに近づき話してきているようだが、俺にはなぜかその声が聞こえない。
先程より3秒ほどの長い間、俺は苦しみ続けていた。
やっと解放され目の前を見るとそこには……。
「ハァーハァーお前は……?」
見上げるとそこにいたのはフィツロイ。
彼女は背中に血だらけの英彦を背負っていた。今すぐにでも病院に連れて行かないとやばそうに見える。
「英彦さんも馬鹿な人です。
まだラグナロクが撃てる力が足りないのに。
魔法で力を底上げして、更に同時に支配力を上げるなんて。
本当に最終奥義だったんですね」
背中から下ろされた英彦は既に虫の息で死ぬのも時間の問題であろうほどであった。
「英彦……お前」
英彦に駆け寄る俺にフィツロイの冷たい一言が突き刺さる。
「だから言ったじゃないですか。怪我を負わせたくないと……」
今回の原因は俺のミスだった。
病み上がりでまだ病院にいるべきだった英彦を呼び出し、さらにさっきは眼鏡を忘れてきた俺のために時間稼ぎまでさせた。
「英彦、英彦……。すまなかった。ゴメンな」
「明山さん。英彦さんは貴方を信じていた。
彼にはまだ、本来なら彼の宿した付喪神にはラグナロクを撃たせるほどの力は無かったんです」
フィツロイからの衝撃的な告白。
「それを彼は魔法を使って強制的に威力を強化し、更にその強化された自身の付喪神を支配するために支配力まで底上げしたんです。
もちろん本物のラグナロクは発動できませんでしたが」
そして、最後に彼女は残酷な現実を英彦に突きつけた。
「もし奇跡的に彼が助かったとしても、もう彼の宿していた付喪神はもういません」
だが、俺にとっては彼女の言葉のとある部分が気になってならない。
「え……今、魔法って言った?」
「はい」
「魔法って無いんじゃないの?」
「それは貴方が魔法が無いと勘違いしてるからですよ。誰か他の人に魔法があるか聞きました?」
なんだよ。異世界転移詐欺じゃないじゃん。
「じゃあ、お前の能力も魔法なのか?」
「まぁ一応、魔法使いですが。使ってはいません。
私の能力は……って言いませんよ!
敵に能力をばらすなんて危険すぎますので。」
どうやらフィツロイに誘導尋問はきかないらしい。
「しかし、このご時世に魔法ですか」
そう言ってフィツロイは今にも死にそうな英彦を見つめている。とてもつらそうに……。
「英彦さん。
あなたがまさか魔法を使えるなんて油断してましたよ。時代とはすごいですね」
「お前?」
俺には彼女が過去に何かがあったのだということを理解できたのかもしれない。
すると、フィツロイは振り替えって俺の方を向く。
「すみません。お待たせしてしまって。では早速……。」
「待て……!!」
フィツロイはいきなり大声を発されたせいで「ひゃい!?」と少しびっくりしている。
そんなに俺の声は大きかったのだろうか。
そんな事より戦う前にちゃんと確認したい事がある。
「せめて理由くらい聞かせてくれ。俺が何をしたって言うんだ」
今から命を奪われるであろう俺には知る権利があるはずだ。その質問をフィツロイに投げかけた時に彼女は少し迷っていたようだが、
「────分かりました」
フィツロイは真剣な顔で頷いた。
「明山平死郎さん。貴方は魔王様直々の暗殺命令の対象に選ばれたのです。
魔王様は鍵の獲得者候補への暗殺を命じられたのですよ」
暗殺命令の対象なんて……。そんな魔王に敵対する事も……。ん? バイオンの事だろうか。
「確かに殺ったのは俺だ。
でも有名……いや、町を人々を守るために仕方がなく」
フィツロイは俺の話を聞いてポカーンと頭の中が真っ白になっていたが、数分後、俺の言っていることを理解したらしく。
「ああ、バイオンさんの事じゃないです。
確かに魔王って名乗ってましたけど……。
結局、魔王の地位はあの人貰えなかったんですよ。
あの人は八代目になり損ねたんです。
受け継ぐ日の前に死んじゃったんですから……」
バイオン可哀想……。何か、すまん。




