お手紙配達
いつも通りの穏やかな朝。
事件なんてなかったし、雨なんて降らない晴れの日。
今日もまたいつもの時間に開店する付喪カフェ。
「今日も頑張ろうかな」
店長は店を開けるため、看板を出しに外にでる。
「しかし、今日もいい天気だ……」
雲の間からでる日射しが少し眩しく感じていた。
だが、その平穏は一瞬で消え去ってしまう。
まさか、上空からこちらに何かが近づいているとは思っていなかったのだ。
ズドッォォォォォォォォ!!!!!
真っ直ぐ空の彼方から店に向かって何かが落ちてくる。
そして、激しい轟音と共に何かが付喪カフェに墜落してきたのだ。
飛んできた何かは、付喪カフェに衝突。
「これは夢だ。夢だ。ゆ……」
店長はあまりのショックに気絶してしまった。
それもそのはずである。目の前に広がるのは崩壊して廃墟のようにボロボロになった店の跡。彼が最も愛して最も長く付き合ってきた建物が、もうひどく半壊している様子なのだ。
目の前には半壊している付喪カフェらしき場所。怪獣でも踏みつけたのかと聞きたいほどの崩壊状態である。
「でっ? これか?」
「金曜日にこんなことになるとはな」
そんな店の現状を見た俺と妙義だったが、
「でっ?
なんでまた火曜日じゃないのにお前が来てるんだよ」
妙義は俺に痛いところを突かれてがっかりしている。
「またって……。今日はこんな状況だと連絡があって……」
「とにかく原因を探すぞ」
「無視か…!?」
もういい加減に妙義は金曜日もバイトすればいいのにと思う。
毎週のようにバイトに来て、手伝ってくれているのだ。
本人は必死に誤魔化しているのだが、もう金曜日にバイトがしたいという気持ちが駄々洩れである。
まぁ、そんなことはどうでもいいので、俺達は半壊した店の瓦礫をかき分けて、原因となった物を探す事にした。
「いったい何があったんだろうな。隕石か? 爆発か? 墜落か? …って!!手があるぞ!?」
瓦礫が積もった場所に人の手のようなものが見える。
その場所の瓦礫を退けてみるとみるとそこには……。
「あっ、店長」
そこには変わり果てた店長の亡骸。
ではなく、ちゃんと息をしているし、怪我もない。
だが、完全に無事というわけでもなさそうで、店長は気絶しているようだった。
店長が気絶している事を知った妙義はこちらへと走ってきて彼を見る。
「明山。私は一旦店長を病院へ連れていってくる」
「ああ、ありがとな。俺は引き続き原因を探ってみるよ」
妙義は背中に店長をおぶって病院へと向かって行った。
そんな妙義を見て俺が思うのは、彼女のどこにそんな体力があるのかということだ。
あいつは無限のスタミナ持ちか!?
妙義の体のどこにそんな力があるのか……正直なところ気になるが、聞くのはエチケットに反する行為かもしれないので聞くのは諦めることにしよう。
俺はかつて付喪カフェだった場所に1人置き去りにされている。
「しかし、いったい何があったんだろうか…」
今俺が立っている場所は休憩室へのドアがあった場所である。
だが、そこにはいつもと違うものがあった。
……というか突き刺さっていた。
「これは矢文?」
矢文とは、矢に手紙等をつけて相手に送るものであったような気がする。
俺が元いた世界の時代劇で見たことがあるのだ。
しかし、矢文でここまでの被害が出るとは思えない。
「えっ、嘘っ。違うよな。うん違う。まさか矢文ごときでこの有り様はない。……うん。ないない」
でも、その辺りだけ他の部分より壊れてない。
なら、考えられる事は……。
「きっとそうだ。この世界の矢文は戦闘兵器くらいすごいんだろう」
だが、そんな仮説を立てても俺は気になることがあった。
これは理由がなければあまりにも不自然なのだ。
俺は矢を抜き取り、文を手に取る。店を壊すほどの内容。
明らかに理由がなければおかしい。
勝手に見るのはどうかと思ったが、これは見る責任が俺にだってあるでだろう。
俺は縦折りにされた文を開く。
その内容に俺は目を見開くほど驚いた。
「嘘だろ……読めない」
手紙の内容がすべて見たことのない字で書かれていた。
何かの暗号か、または古代文字とかなのだろうか。
これではこの手紙の内容は分からない。
異世界に来て初めて読めない字を見た。
本来なら最初に覚悟すべき事だろうが、あまりにも慣れていなかった。
俺は解読を試みようと無駄な努力をする。
「何か……何か……ないのか……ん?」
すると、手紙の側面に何かが書いてある。
俺の目が見つめた先には、小さな日本語でどこかの住所が書かれていた。
「この住所に何か手がかりがあるのか?」
解決への第一歩。一つの手がかりである。
しかし、全く見覚えのない住所だ。
俺は手紙を折りポケットにいれる。
そして、反対側のポケットから電話を取りだし、頼りになる仲間に助けを求める事に決めた。
数分後。俺の素晴らしき手下達………いや、仲間たちが駆け付けに来てくれた。
「今日はどうしたんですか? 明山さん。
付喪人の仕事ならまだ、病み上がりですのでお休みしたいのですが?」
ここはカフェからそう遠くない公園である。
ベンチに座っていると連絡を聞き付けて、つい最近病院から退院した英彦がやって来た。
そして、また一人、朝の日射しを背に浴びながら一人の少女がこちらに向かって来る。
「明山今日は緊急だなんて何かあったの?」
黒の登場である。これでとりあえず俺が助けを請うた逸材はそろってくれたはずだ。たぶん。
「よし集まったな。じゃあ、話を聞いてくれるか?」
俺は今日起こった出来事をすべて話した。
今日の出来事を全てを話終えた後、
二人の反応は唖然としているみたいだ。
「この時代に矢文なんて、今の時代携帯があるのに……」
英彦は俺が先程言った事と同じ事を言った。その台詞の内容は若干異世界らしからぬ単語が入っていた気がするが。まぁ、そういう世界なのだ。
これで、この英彦の発言により、この世界では普段矢文が当たり前でないことが証明される。
つまり、俺の考えすぎではなかったのだ。
「やっぱり、こんな時に矢文なんて変よ。
電話じゃ言えない内容なのかな?」
黒はふと呟いた推理だったが、黒の適切な推理は今正解に一番近いような気がする。
「とにかくここに行かないと分からない事だな」
その住所には何かある。
何か嫌な予感がしていたのだ。
証拠も証明もない。ただ、勘である。
だが、何も行動を起こさないよりはマシだ。
こうして、何の根拠もなく俺たちはその住所に向かうことになる。
あと一人、駒々が来ることを忘れて……。
その住所は英市の場所を示していた。
英市はこの国で唯一外国やモンスター達と繋がっている町がある場所である。
その町には沢山の大使館、貿易センターや空港等があり、厳しい入国チェックをクリアした者のみしばらく入国が許可される。
よってこの市にいるモンスター達は人への攻撃をしない。友好的なのである。
初めての英市。
「オオオオオオオオオ!!!!!」
俺の心はハイテンションであった。
ここは英市の港町。我々が始めて来る町。
沢山の人で溢れており、物珍しい商品なども売ってあるのだ。
「明山。見て見て、これは不死鳥の羽に、竜の鱗。こっちには丸飲み花の蜜。誘惑草の香水まであるよ。すごーいわ。あはははははは!!!!」
しかし、俺以上に黒がはしゃいでいる。よくわからない名前が出てきたが、なんだか異世界っぽくていい感じの名前だと俺は1人で感心していた。
「お安くしとくよ。お嬢さん」
すると、その店の店主のゴブリンが黒に話しかける。
「あら。ごめんなさい今日は買い物に来たんじゃないの」
だが、黒も今日の目的は分かっていたようだ。
黒はゴブリンの店主からの誘いをキッパリと断り、俺らの元へと駆け寄ってくる。
「なぁ、英彦。この場所はこの国で人とモンスターが唯一共存できる場所なのかな」
はしゃいでいる黒を遠目に見ながら俺は英彦に話しかけた。
「はい。ここは霧島の野郎の目標としていた場所ですね」
英彦の意味ありげな返事に俺は少し興味を持つ。
「あいつ言ってたな。「共存できる事を信じる」って。だから、館に獣人のメイドさんを雇ってたということはここの市長さんもそんな願いを込めてこんな都市にしたのかもな」
立ち止まって、辺りを見渡しても旅行客の中に数人モンスターが混じっているのが分かる。
「もしかしてここの町長はあいつの知り合いだったりして」
英彦がふと、冗談を言い放った。
「それはないだろ。あっ、黒が呼んでる」
いつの間にか先に進んでいた黒。
二人が歩くのが遅いと感じたのだろうか。
黒は俺たちを急かすように手を振っている。
俺達は黒と追い付くため、距離を近めようと早歩きで道を歩いた。
先程の話を聞いて、俺はもう少し人と付喪神とモンスターが仲良く共存できたらと思った。
そして同時に何故、人の周りからモンスターがいなくなるようになったのか知りたくもなった。
「この先を右に曲がって……」
現地の人に道を聞きながら、目的の場所へと歩く俺達を日射しが照りつける。
そして疲れはて、レストランでの休憩を挟んだ後、遂に住所の場所へとたどり着いた。
「ここが住所の場所……」
「ここって……」
そこは小さな質屋だった。一階建ての木造造りの建物。
先程の港町から少し離れた山の上にあり、ここから賑わっている港町がはっきりと見える。
二人は外にいてもらい、俺は早速この店に入ることにした。
「おやおや、いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのはこの店の店主であろう。お年寄りのお婆さんであった。
「すみません。実は聞きたいことがありまして……」
俺は店に入ると早速この市に来た目的などを話した。
「この住所の書かれた矢文ですか?
どれどれ…………。あっ!!」
手紙の内容をお婆さんに見せると、驚いた様子で、住所の横に薄く書かれた文字を見た。
「これはうちの孫娘への物ではないでしょうか。このマークよく小さいときから孫が使っていてねぇ」
良く見ると住所の横の方に変なマークが書かれている。
一目でこれに気付くこのお婆さんっていったい……?
「そうですか。それでお孫さんはいったい?」
俺は気になっておばあさんに質問してみることにした。
数十分後、俺は店を後にする。
外で待っていた二人は結果が気になっているようだ。
「「どうだったの?」」
黒から結果を聞かれたので俺は静かにお婆さんから聞いた話を答える。
「この手紙、この店主のお孫娘さん宛だったけど……。孫娘さん亡くなったんだって」
「「えっ……?」」
二人の反応は当然だろう。
死人からの手紙がなぜ付喪カフェに届くのか、疑問に思うのも当然の事である。
「本当は本人宛だったけど手紙間に合わなかったのかもな。あと、家族さんの住所聞いてきたから届けてくる」
そう言うと俺は二人よりも先にこの店を離れた。
俺はそのお孫さんが元いた場所に行くため、坂を下って歩く。
この手紙が間違った所に届いたまま、俺たちが持っていたら、そのお孫さんが報われないと考えたからだ。
そして、後ろから置いていかれまいと、二人も追いかけてきた。




