王レベル会議 その1(narou)
「どうしてこうなった??」
ここは付喪連盟内にある会議室。
本来は王レベルの付喪人達か、職員達しか入れない場所に、俺と黒は床に正座をさせられて座っている。
「おかしいわよ。なんで朝っぱらからこんな所に呼び出しをくらわなきゃいけないのよ。
私、何もしてないのに……。明山みたいに悪い事してないのに………ううっ……………」
隣ではなにがなんだか分からずに悲しんでいる黒が、俺に責任を擦り付けてこようとしてくる。
「おい、人に濡れ衣を着せるのはやめろ!!
俺らは何も悪い事はしてないし、理由だってないんだから」
そう俺たちはこの日、なぜか付喪連盟に呼び出しをくらったのだ。
会議室の机は楕円状になっていて、そこに椅子が9つ並べられていた。
その椅子の1つに座っている男性。
彼は俺たちに向かって自己紹介を始める。
「集まってもらってすまない。私は付喪連盟の副会長だ。よろしく」
少し年をとった男性は真面目な雰囲気を醸し出しており、俺たちが呼ばれた理由が真剣な内容だということを表しているかのような態度だ。
「あの副会長さん?
ここでいったい何をするの?」
「もう少し待ってくれ。全員が揃えば話は始めるから」
おあずけ。
全員の前で羞恥をさらされるということだろうか。
ん、全員?
……ということは何人かまだこの部屋に来るという事。
いったい俺たちは何故呼び出されたのだろう。
流石に付喪人という仕事に就いてすぐクビを言い渡される訳ではないと思うのだが。
「遅いな。あいつら、時間はとっくに過ぎているというのに」
副会長と名乗る男は時計を気にしながら、全員が揃うのを今か今かと待っている。
その時、会議室の扉が勢いよく開かれ、1人の子供が会議室内に入ってきた。
その子供、赤髪でメガネをかけており、背が小さくカジュアルな雰囲気の花色の服を着ている。名を『真円雲仙』という。
都会にいる少女の様な容貌である。
「あらら、人が少ない。
僕っちがあいつらより先に、最初に来たってこと?
なら、生徒会達は今日は学業に励んでいるのかな~?」
「………!?」
その勢いよく開かれたドアの音に正座しながら驚く2人。
「あっ、うるさかったかな? ごめんねー」
「「いえいえ、別に大丈夫です!!!」」
その元気いっぱいの無邪気さがうらやましく思う2人だったが、その子はどうやら勘違いしたらしく。
「もしかして、お兄さん僕っちの魅力に惚れちゃった? ハハハ、男同士恋ばなでもするかい?
でも残念~僕っちの好みは君達2人じゃないの。ごめんね~」
そう言ってからかってくるとその子は、椅子の1つに座った。
まったく言われるまでは気づかなかった。
彼の話通りだと、もしかしたら男の娘という者なのだろうか。
なんという変貌ぶり。これが男の娘だと言われるのなら、俺はこれからの人生で会う女性の姿の人の性別がゴッチャゴッチャになって、相手がどちらか分からなくなってしまうそうだ。
「スゲー!! まったく気づかなかった」
「あら、気づかなかったの?
私はもちろん気づけてたわ。私レベルの目は誤魔化せないのよ」
汗をかきながら答える黒の言葉は信憑性が低いと感じた。
素直に見間違えたと認めればいいのに……。
そして、次に入ってきたのは長く黒い髪の毛を縛ったちょび髭の和服侍。名を『塩見刄』という。
何でも切れそうな日本刀を鞘に入れ、流れるままに放浪してきたような雰囲気を感じた。
「チッ、拙者は2番目か。それと新入りがなんでこんな所にいるんだ? おい、お前ら邪魔だ」
彼は俺たちにそう語りかけると、俺たちを睨み付けて椅子に座る。
「殺す殺す殺す!!!」
「おいおい、落ち着けよ黒」
イライラとしているのを黒は必死に抑えながら、彼を睨み付けていた。
3人目に来たのは、筋肉質の巨漢な男。
名を『乗鞍』という。
長く垂れたボサボサの髪に、リンゴの1つや2つ簡単に潰してしまいそうな腕。
白一色の服を着ているが、その下から筋肉の溢れんばかりに見ることができる。
「ガハハハハハハハハッ!!!
いかんいかん、3番目か~。吾輩が3番目とは失敗しちまった!!!!」
彼はそう言いながら、遠くにいる者へ大声をかけるときの音量で普通に笑い始めると、椅子に座った。
4人目は灰色のモフモフとしているコートを着て黒髪。ワイルドな雰囲気を醸し出した男性であった。名は『空木』。
まるで裏社会の殺し屋に間違われそうな見た目である。
指には銀色の指輪が3つ。
そして、鉤爪の様な武器を持っている。
だが、彼の目は鋭くまるで獲物でも見ているかのような眼でこちらを見てくる。
「………まったく、客がいるのならこんなところに座らせなくても良いのにな。だが、俺には御前達を助けるほどの権力なんてない。すまん。すまん」
言葉は優しいのだが、目付きが怖い。
「ねぇー明山。あいつ獣臭い……」
目付きが良く言葉がひどい黒とは大違いである。
5人目は看守服を来た17歳くらいの年齢に整った美人顔。
髪の色は梅重色でウェーブミディアム。
瞳の色は両目とも支子色の少女。
名を『中野紅葉』という。
「5番目か~ちょっといつもより遅れてしもうたな~。あらら、客しゃんやなかとしかも年近かし、こんにちは~。
うちゃ中野って言うんよろしゅうね~。あっ、看守服ばってん看守やなかけんね?
好きなもんな折り紙で……」
彼女は俺たちを見るなり、嬉しそうに自己紹介を始める。
だが、副会長に途中で止められてしまった。
「紅葉、自己紹介は用が終わった後にやってくれないかい?」
「しょうがなかね~あっ、2人共。まぁ、これから会うたときはよろしゅうね?」
そう言い残すと彼女はこちらに手を振って椅子に座った。
ふと、横を見ると黒がプルプルと震えながら、中野を睨み付けている。
「ヤバイわ…………私のヒロイン特性に圧倒的な敵が現れた気がするわ。良い子だけどヒロインを奪ってきそうな気がするわ」
「いつから、お前がヒロインだと思ってたんだ?」
俺からの鋭い指摘に黒は一度硬直しかけたが、なんとか持ち直し代わりに俺を睨み付けてきた。
6人目は薄紫色のツインテールに眼帯をかけた紅の瞳の女性。
名を『大楠巳汝』という。
「あらら、今日は生徒会は来ないようですね?
せっかく、八剣ちゃんとお話出来ると思ったんだけどな~。残念」
彼女はそう言って入ってきたかと思うと周りを見渡し、俺たちの姿を見つけたようで、
「───誰ですか? 何してるんですか?今日ここは王レベルの付喪人が集まる場所。見たところ新入りのようですが………」
「俺たちは呼ばれたんです」
「そう、じゃああなた達が………。なるほどね」
大楠は何か思うことがあるのだろうか。
それよりあいつらはここに集まった理由を知っていて、俺たちは知らないなんて……。
「なんか、ショックよね。私たちだけ聞かされてないなんて……………」
「上層部にしか内容を聞かされてないんだろうな。俺らとは地位が違うのさ」
俺と黒は自分の立場を心から理解し、ショックを受けてしまったようだ。
7人目は紫色で後ろ髪を縛った男性。名を『三原』という。
黄色のシャツを着て、金銀財宝で出来たアクセサリーを身につけた目付きの悪く、青い角を持っていた。
「なんだ? 頂点とは遅れて現れるもの。
吾が最後で何か悪いか?ハハハハハハハッ!!!」
三原が大笑いをしながら、ゆっくりと入ってくる。
だが、呆れたような顔で大楠はため息をついて愚痴を呟いた。
「やっと来たのね1位。遅かったじゃないですか?」
「ほぉ?人間が俺に何を言う……やはり貴様らは傾奇者だな。だが、許そう。吾はそんな傾奇者に興味がある」
「ハァ…………。まっ、いいです。副会長始めちゃいましょう。どうせ生徒会は学業でしょうしね」
大楠は頭を抱え、三原は椅子に座る。
席が1つ空いてしまっているようだが、これで全員揃ったのだろう。
「それでは、これより今期生13回目の会議を始める」
副会長は椅子から立ち上がると、机に両手を置き前のめりになって語りだす。
「今回はかつて初代付喪連盟から出た裏切り者。ギバーズの知識や術を世界に公表したブロードピークについてだ」
「「「………!?」」」
副会長がその名を口にした瞬間、三原以外の全員が俺たちの方を見てくる。
みんなからの視線に黒は少しビビってしまっているようで、震え声を出しながら俺に助けを求めてきた。
「ねぇ、明山さんなんか嫌な予感がするんだけど、大丈夫よね?
これ」
真っ青になって不安で涙を溜めている黒。そんな大丈夫かなんて俺に分かるはずがないのに、彼女は俺に助けを求めるような視線を送りつけてくる。
「………」
無視。
「ねぇー何か言ってよ!!明山さーん!!!!!」
黒の小声の叫び声が俺の耳に小さく響いてきた。




