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2人の不安に妙義は動く

 先ほどの場所から少し離れた道。


「キャァァァァァァァァ!!!」

「何よ。この水、ストカー。ストカーよ」

「いったい何でこんな事に……」


三人は横一列で流水から逃げていた。彼女らを追うのは八剣から放たれた流水。元は一滴の雫のようなものであったのだが、それが流水のように大きくなって彼女らを追跡してくるのである。


「妙義さーん。何か策を、私達をヘルプできるような作戦をー!!!」

「そんな事言われたって………。いや、一つある」


どうやら妙義は作戦を思い付いたようだ。


「「それはいったい?」」


期待するようなキラキラとした目で黒と女性は妙義の方を見ながら走る。


「私がこいつの本体を叩く。

恐らく本体はさっきの女で間違いないだろう。私があいつと戦えば少しは足止めができるかもしれない」


妙義はとんでもない作戦を考えてしまったようだ。


「無茶よ。あいつら王レベルの付喪人集団よ」


だが、黒の忠告も聞かず、妙義は足を止める。


「必ずまた会おうな。帰ったらちゃんと食事を食べるぞ!!!」


「あの、それフラグ立ってます。負けフラグ立ってるんですが!?」


女性の言うことも聞かずに妙義は走り出していた。




 場所は再び八剣と山上のいる場所へ移る。


「そう言えば会長はどうしたんだ? 今日は姿が見えないけど?」


山上は辺りを見渡したり、メンバーの位置をGPSで確認してみる。異世界らしからぬハイテクな機器。しかし、それも近代都市である数市の技術だからこそ。ツッコみは不要である。


「会長? 皆であいつらの方向に先回りしているわ。あと、集中させてください。見失います」


「お前……チッ、ああすまん」


不満そうに答えた山上だったが、大通りをチラッと見ると。


「おい八剣。自分から来やがったぞ。どうするんだよ。どっちがあいつの居場所を吐かせるんだ?」


先程の三人の女性の中にいた一人がこちらに向かってきた。

それも猛ダッシュである。


「私は遠慮する。拷問しかできない。下手したら彼女を溺死させてしまうわ。こういうのは副会長である貴方こそが素晴らしいよ」


山上は煽てられて少し恥ずかしそうにしている。


「チッ、しゃぁねぇ。やるか!!!」


「良いぞーがんばれー。じゃあ仕事は私の手柄ってことで。足止めご苦労様です」


立ち去ろうとする八剣を山上は呼び止める。さすがに今の八剣の発言には納得できないようだ。


「おい待てよ。それは明らかに手柄横取りじゃねぇか。今回の仕事が達成できてねぇじゃん」


すると、八剣はさらに山上に対してイラついてきたのだろうか。


「そんな訳ねぇじゃない(負けろ。)」


「おい八剣、( )の中に要らん言葉が入ってたんだが?」


「そんな訳ねぇじゃない(負けて楽になれ山上。そして死ね)」


これには山上も流石に、苛立ちをおぼえたようで、妙義のことを無視して八剣を睨みつけている。もともと犬猿の仲である2人にとってはいつも通りの行動なのだが、妙義には何が何だか理解できずにその争いを見ていることしかできなかった。


「よし分かった。八剣表出ろ。どっちが強いか今ここで試してやる。


「(山上さんじゃ私には勝てないわ。私よりも弱いし…。)」


「いや、それもう( )使う意味なくねぇ…?」


「うるせぇな。あんたなんかいなけりゃ私が副会長なんだよ。とっととそこの騎士に斬り殺されろよ!!」


「てめぇ、先輩の俺になんてこと言うんだバカ野郎!!!

てめぇこそ、そこの騎士に斬り殺されとけ!!!」


「じゃあ、あんたは斬り殺された後、カラスにでも食われて栄養分になってな!!!

お前にはそれ以外に価値なんてないんだから。」


「てめぇこそ、その蛇口の能力を持って砂漠に消えろ!!!

砂漠で能力の分も自分の水分も出し切って死ね!!

世界に貢献しろ!! 拷問しかできないサイコパス女め!!」


犬猿の仲というより、ハブとマングースだ。

もはや彼らの頭の中には妙義の事なんて微塵もない。このまま、彼らの口喧嘩を見届けたいと妙義は考えたものの、実際には二人の口喧嘩を見てるほど、妙義は暇ではなかった。


「おい。いいか?」


「「何か、すんません!!!!!!!!!」」


口喧嘩は妙義の一言によって中断される。彼女の般若のごとき怒りのオーラが、山上と八剣の恐怖を呼び覚ましたのである。


「あと、個人的にはあの流水を止めておきたいからお前と戦いたいのだが?」


そう言って山上は八剣を指差す。「えっ? 私?」と言いたそうな八剣の表情に妙義はうなずく。

妙義自らのご指名によって対戦相手は決まったようだ。

山上は薄ら笑いをし、八剣は山上を殺意を向けた目で睨み付ける。


「分かった。じゃあ戦おうか。山上後はよろ」


「しゃぁねぇ。本気出して殺すなよ。でも、お嬢さん八剣はボコボコにしてやってくれや。それじゃあ!!」


新たなる口喧嘩の火種を残して、山上は逃げていった二人を追って去っていった。




 こうして路地裏に残された二人。

妙義は剣を取りだし構える。

八剣は掌から小さな雫を出した後、流水を蛇のようにくねらせて戦闘態勢を整えている。


「溺死しても後悔するなよ?」


いきなり三発の流水を発射。

流水は妙義の周りをとぐろを巻くように宙を動いている。


「───死にやがれ!!!」


妙義の周りにあった三発の流水が一斉に妙義に飛びかかった。


「フンッ!!!!」


しかし、妙義の振り下ろした剣により、流水は辺りに飛び散る。

流水の形を形成していた水たちは、妙義の体内に入ることなく、地面に落ちていき、染み込んでいった。


「ふぅぇ!?」


呆気ない声を出して驚く八剣。

まさか、自分の流水が断ち切られるとは思ってもみなかったのだろう。


「──あんたいったい何の付喪人だよ」


八剣は妙義の力に震えながら、彼女に尋ねる。


「私か? 私は一応、付喪人だが、付喪神と契約はしていないぞ」


「仕事上の奴かよ。

あはははは。あんた面白いわ。でも、あんた位の実力なら強い付喪人になれるだろうに、どうして契約しないの?」


八剣が笑って質問してくる事についてあんまり考えたことなかった妙義は少し困った様子でその理由を思い出し始める。


「私が……契約……。ああ、そういえば、私が付喪人になった理由は自分の支配力が高かったし、付喪人になれば更なる強い奴に会えると思ったからだ。契約して能力を手にいれたかったわけではない。強者との戦いを。それだけだよ?」


すると、先程まで笑っていた八剣は、急にガッカリとした表情を浮かべる。


「あ~あ~、もったいないな。生まれた時から支配力が高いのに付喪神と契約して能力を手にいれないなんて」


「おい、どうしたんだ。私は何か悪いことを?」


いきなりの感情の変わりように妙義も少し心配している。


「いや、あんたには関係無いことだ。でも、辛いな」


八剣の目は何かを物語っていたかのように寂しい目をしていた。




 付喪人とは仕事名でもあるが、『基本的にはその者が付喪神と契約を結び、その付喪神の能力を宿した状態』の事を指す。

だが、付喪人になるには【支配力】というものが必要となっている。

支配力とは、自分が付喪神を宿せるかどうかの数値である。その数値が低いと宿す事は好ましくない。その付喪神と契約するのは危険である。逆にその数値が高いとそれに応じた強さの付喪神を宿して能力を手に入れることはできる。

ただ、誰しもが付喪人になれるという訳ではないのだ。

その事をよく知っているから彼女は寂しいような目をしていたのだ。


「あんたみたいな才能の未使用がいると、とてもイラついてくる。支配力の高さを自慢してるのに、付喪神と契約をして無い。自慢かよ!!」


八剣は両目から涙を流して言った。そこに何があるのか妙義には理解できないが、意味ありげな彼女の返事からはどこか寂しげな様子を受けた。明らかに何かわけありのようだ。


「まさか、あの女。お前たちはそのために?」


妙義は彼女の発言で気づくことができたようだ。




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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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