どうやら主人公は付喪人のようです。 ～付喪神の力で闘う異世界カフェ生活？～ ［なろう］【完結済み】

第５章 どうやら王レベルは仕事をしているようです。

人助けはモットーです

　夏の暑いある日。

蒸し暑くて蒸し暑くて、外にも出たくないほど暑い日。

「それで何で。私も一緒なんだ?」

病院への道をまっすぐと歩く二人の女性がいた。

黒と妙義である。

「いいじゃない妙義。今日は火曜日じゃないんだから」

何故か分からないが妙義は黒に誘われて英彦のいる病院へ向かっているのだ。本人も了解しないまま、いつのまにか黒に連れられて英彦の入院している病院へ向かっている。

「いや、火曜日じゃないからって。私だって忙しい日くらいあるんだぞ」

妙義にだってプライベートはある。彼女も1人の女子だ。いつでもいいように呼び出されてこき使われるような女ではない。そんな騎士ではない。

「でも毎日何分間か、店の前で立ち尽くしていたじゃない。何で中に入らなかったの?」

しかし、黒は知っていた。彼女が毎日毎日、店の前を猫のようにうろついて、「中はどうか」「大丈夫だろうか」と心配している事を黒は見ていたのである。

妙義は見られていた事を知り、恥ずかしそうに小声で、正直に事の真相を語り始める。

「心配してた……」

その一言を口にするのにどれほどの葛藤があっただろうか。

妙義の心の中は見られていたことの恥ずかしさでいっぱい。

その恥ずかしいという感情を表に出さないように必死にこらえながら、彼女は本心を吐き出したのである。絞り出すような小さな声で妙義は打ち明けたのである。

しかし、その本心も黒には聞こえていなかった。

「えっ、何て言ったの？」

「なんでもない気にするな！！！」

また、さらに自分が恥ずかしくなって今度は先ほどよりは大声を発する妙義。そんな彼女が何を思っていたのか知る由もなく、黒はコロコロと話を変えていく。

「そう言えば私達って、知り合って間もないのに何回も会ってるみたいね」

突然、黒は話を変えた。そんな黒のペースに翻弄されながらも妙義は話を合わせる。

「ああ、基本的に別の曜日のバイト仲間とは会うことが珍しいのだけどな」

落ち着きを取り戻した妙義がそう答える。「自分以外は」という発言をつけ加えることなく。

「そう言われれば私、別の曜日にバイトしている人って妙義以外に知らないわ」

「バイトをしている者にもプライベートがあるからな。皆、日常をバイト仲間に明かしたくないんだよ。でも、私はたまに曜日を間違えてお前たちと鉢合わせする。まったく困ったものだよ」

「でも、そのお陰で妙義に会えたんだから困った事じゃないと思うの。」

また妙義は赤面している。黒に言われた台詞が嬉しいのだ。

「……いくぞ。英彦が心配だ」

「妙義ってば。さっきは行く気が無かったのに……。でも、どうしたの？ 顔が赤いよ」

妙義は黒からの質問には答えない。ただ、これ以上何か言われてはたまらないと駆け足で病院へと向かう。黒はそれを追いかけるように後から走る。二人は駆け足で病院へ向かった。

　結局、英彦はまだ目覚めていなかったが、医者の話では退院するには一週間もあれば良いほど回復しているようだった。

「「良かったー」」

二人は安堵しきった顔で病院を出ていく。

「しかし、英彦があんなに酷い怪我をおっているなんて、いったい何があったんだ？」

「ちょっと遠くで色々あったのよ。帰りは私の能力で帰ってきたんだけどね」

引き出しの付喪人の能力は出し入れするばかりか、移動もできるようだ。ただし引き出しに入らないといけないのと、お腹が空くので彼女はあまり使いたがらない。

「まぁ、お前も付喪人の仕事が大変なんだろう。詳しくは聞かない。そんな事より今から食事にでも行こう。私達昼飯も食ってないし……」

時刻はちょうど昼時だったので妙義は黒を食事に誘う。

「食事? もちろん行きましょ。行ってみたい店があったのよ…というか「お前も」って？」

黒からの質問から逃げるために妙義は走り出した。

その答えが気になる黒も妙義を追って走り出す。

　黒達がたどり着いた先は最近テレビで報道されていた高級料理店であるドラゴンの卵焼きの店であった。

その店は希少なドラゴンの卵を使用しており、さらに専用の卵焼きフライパンを使って作った卵焼きである。

もちろんドラゴンなんて滅多に見つからないので高級料理として扱われている。

また普通の卵焼きよりも独特の香りと舌触りで絶品の料理でもあるらしい。

そんな庶民が入れそうにない店の前に二人は立っていた。

「さぁ行きましょ。妙義」

黒は値段の事など考えていないのだろう。とても黒にはこのお店で食事ができるほどのお金を持っているとは思えない。タダメシを食べて、食い逃げでもするつもりなのだろうか。そんな黒を妙義は心配していた。

「黒、流石にここは昼飯には向いてないと思うのだが……。確かにここはいい店だが、今日は持ち合わせが……。家に連絡すれば簡単だけど……」

黒が入ろうとするのを必死に止めようとする妙義。友人を食い逃げ犯にしたくはないという必死の想いで彼女の入店を阻止しようとしている。

普通なら通行人達からの視線が痛く感じるはずなのだが、この事が通行人達に迷惑がられそうになる前に彼らの目は別の方向を見ていた。

その視線の先には大勢の人に追いかけられている女性。彼女は何人もの制服を着た人達に追われている。

映画のワンシーンのような状況を珍しく感じていた２人ではあったが。

近くにカメラマンも監督もいないということは、これは現実に行われている事だ。

「妙義。私は……」

その女性から視線を逸らすことなく、ただ女性を見つめている黒。その表情は真剣で何かを決心しているような表情である。

「ああ、分かっている」

二人の思いは同じだった。

2人は女性を追いかけている集団の前に立ち塞がったのだ。

女性をかばう黒と妙義。

突然の事に女性と集団は驚いている。

しかし、女性は自分の味方だと分かると２人に頭を下げて走り出す。

集団は彼女らがどちらの立場か分かった様子でそれぞれの行動を続けた。

黒たちを押し倒してでも女性を追うような勢いで2人に向かってくる。

そんな集団に黒が一喝する。

「待ちなさい。貴方達それでも人間なの？ よってたかって一人を虐めて恥ずかしくないの？」

黒の一声に集団は驚いた。しかし、集団にもちゃんとした目的があるため退くわけにはいかない。目の前にいる見知らぬ女性２人に指図される筋合いなどないのである。

「お前らには関係無いことだ早く道を開けてくれ」

「これは我々の仕事だ。邪魔をするなら分かっているよな」

明らかにヤバイ雰囲気。例え相手が一般人でも邪魔をするなら、ただでは済まさないという脅し。

彼らの眼はその脅しを本当にやりかねないほど決意している眼であった。

これには流石に二人にも焦りが出てくる。

「あっ………さっき逃げていた人だ！！！！」

黒はあらぬ指を指した。

それにつられて制服の集団は黒の指差した方向を見る。

だが、もちろんそこにはいない。正確には1人の老人がいたのだが、集団からの視線が集まる中で恥ずかしそうに「やぁ」と手を振って返す。

彼らが騙されたと知った時にはもう遅く、二人には逃げられていた。

　「あの……ありがとうございました」

二人が逃げ込んだ先の路地裏に先程の女性が隠れており、こちらを見て言った。

二人はそんな彼女が無事な事に安心している。

「いや、お礼なんて良い」

「でもどうして、あんな連中に追いかけられているの? 」

「それは………」

黒の質問を聞くと少し困った顔をして、どうやら言いにくい事情のようだ。

この人は悪い人には見えないので、何かがあったとは思うが、黒達は深く聞くことは止めた。

そして、その不満は先ほどの集団に向かうことになる。

「しかし、何よ。あの集団は……。一人に対し大勢で、例えあいつらにどんな理由があっても許せない。あれ私の嫌いなタイプだわ。次あったら覚悟してなさい！！！！」

「フフ、優しいんですね」

「フッ（笑）」

すると、その愚痴を聞いた二人が少し笑っている。

「えっ、何？ 私何かおかしいこと言った？」

「いや、こんな美少女な方からも愚痴はこぼれるものなんだと思うと……意外で」

「私は、その……黒からそんな言葉が聞けるなんてと思ってな（笑）」

「ハァ～妙義ってば。せっかくの良いシーンだったのにさ」

妙義の笑った理由を聞き、黒は頬を膨らませた。

　その時だった。

「そうか覚悟しろと？

まあ、理由も知らない一般人から見ればそう映るか」

突然、声がしたかと思うと、彼女らの頭上に建物と建物の間を跨いで下から見下ろしている女がいたのだ。

しかし、その謎の少女の正体よりも先に黒と妙義はあることに気付く。

「あの見えてますよ。スカート履いてるから……」

「おい黒。こういうのは言っちゃダメだ。きっと制服なんだ。うん。わざとじゃなく、忘れていたんだろう。ほら、赤面している」

ようやく降りてきたが、女性の顔はまだ赤い。

その後、彼女は三人の前に立つと気持ちを落ち着かせて自己紹介を始めた。

「私は八剣（やけん）。国市高等学校生徒会書記やってるわ。

趣味、策略。特技、出世。夢は会長になること」

「貴方、この被害者の敵？」

黒は肝心な事を知るため聞いてみることにしたのだが。

「敵だねぇ～」

八剣は呆気もない返事で返してきた。すごく素直である。

その答えなので、黒たちは警戒心を解かない。

すると、八剣は再び自己紹介を続けてきたのだ。

「あと、訳もなく付喪人やってる。レベルは王。

まっ、チームで王だからそんな堅苦しくならなくても良いけど。

それくらいはあると思ってな……ってあれ？」

彼女が説明をし終わった時、目の前には三人の姿はなかった。八剣が長々と自己紹介をしている間に逃げられたのだ。

「あいつら人の話は聞けって……」

八剣は片手の掌を宙に向ける。

すると、その掌からは小さな雫が出てくる。雨など降ってはいなかった。暑い暑い夏の日であるにも関わらず、彼女の掌には水滴がついているのである。

「まっ、逃げられないけど！！！」

そう言って小さな雫が掌から放たれる。掌から投げられた雫は地面に落下することない。

すると、小さな雫は大きな流水となってまるで竜のように荒れ進んでいった。

そう例えるなら流水の自動追跡である。

「これを追いかけて行った先に奴らがいるってことだな」

もう一人、路地裏から人影が現れる。

それは紐を操り、車に潰され、ブロードに逃げられたあの国士高等学校生徒会副会長であった。

「何言ってるんです。そんな甘ちゃんの考え方するなんて、やっぱり副会長失格ですね。私に譲ってください」

「副会長の座はお前となんて絶対変わらねぇよ。あっ、お前はあいつらの事をどうするんだよ」

「決まってるじゃん。溺死だよ」

こうして、付喪人であり、生徒会でもある彼らの仕事が始まる。