俺と主人公像と走馬灯(narou)
消えそうな意識の中、俺の頭に流れたのは走馬灯。
そこには幼き少年と父親の会社の先輩が桜を眺めていた。
丘の上にある1つの大きな桜の木。
樹齢何百年と経っているかもしれない。
そんな大きな桜の木の下で、2人はのんびりとしている。
少年の隣で花見酒を1杯楽しんでいる男。
少年は彼をアニキと呼んで慕っていた。理由などいくらでもある。
命の恩人だとか、彼の生き様に幼いながら憧れていたり。町の人を困っている事から助けたり。
とにかく、幼い少年はテレビや漫画のヒーロー主人公のような行いをするアニキに憧れていた。
そんなアニキの真似をすることもあった気がする。
少年に人を助けたい、救いたいって気持ちが全く無い訳ではなかったが、それを行っている彼がかっこよかったから憧れていた。
人助けしている自分が好きだった。
みんなを導いたり、救ったりする主人公が好きだった。
ストーリーの中心となり物語を牽引していく人物が好きだった。
例え、それが本当は悪だとしても、誰かのために生きていた者が好きだった。
誰もが昔は憧れていた者に少年も憧れを持ったのだ。
だが、アニキはそんな主人公達とはかけ離れた性格だ。
でも決して、引きこもっていたなどという訳でもない。
会社をクビになり、毎日することがない日でも、彼は近所の清掃など身近な事を行っていた。
良い行いをしてはいるのだが、子供達から見てもそれが空想物の主人公には見られないだろう。
普通の一般人。普通の良い人。
それでも、少年には彼の背中が大きく、かっこよく見えていた。
アニキが身近な場所……………帰る場所を守り、少年が世界を守れば良い。
幼い少年はそんな風に考えることもあった。そんなアニキが言っていた言葉がある。
「正義や悪なんて、結局は同じものなんだ。個人にとってはどっちも正しい。
個人の信じた道がそうだったってだけの事さ。
一番いけないのはどちらかの権力を目的の無いまま個人の鬱憤払いのために使うこと。
権力を持った者には責任が伴うんだ。
悪の首領だって皆が着いてきてくれているから組織は成り立っている。
皆がいるから組織があり、有権者に立てる。
だから、自分だけが気持ち良いからという理由で権力を使ってはいけない。そんな組織はいずれ潰れる。
───もう私の余命は少ないだろうけど、もしも君が仲間を纏めるリーダー、主人公のような立場になった時。
それがどんな方法でも良いから、皆の事を想った行動してくれ。
君にあとは託すよ」
そこで彼と話した走馬灯は終わっていた。
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そして、回想は終わり現在へ。
「所詮、オレの勘違いだったか」
終わった……………。
白魔は勝負を終わらせ、手から血を流しながらも狙撃者を探しに行こうとすると………。
「待てよ。俺との勝負がまだ着いていねぇじゃねぇかよ」
俺はゆっくりとふらつきながら立ち上がって白魔に言った。
「白魔お前は凄いよ。限界を超えても成長している。
時間が経てば経つほど強く進化している。
そのうち、お前はその第三形態をも超えるかもな。
そうすればもう勝ち目所か、何があっても俺には勝てねぇ」
白魔はじっとこちらを睨み付けて問う。
「なら、何故お前は立ち上がる。
何故まだオレに立ち向かおうとする?」
「俺がここで逃げたら漢じゃねぇ!!!」
最高のキメ顔でこの台詞を言うと凄く気分がいい。
ただし黒に見られていた事で、後で死ぬほど恥ずかしくなり後悔する事はまた別の話だ。
「これで最後だァァ。
俺はお前を倒して主人公のような漢になる!!!
『50円波動光線』ーーーーーーーー」
光線の衝撃により土煙は舞い、地面は削り飛び、風は風向きを強制的に変えられる。
圧倒的な衝撃。全てを飲み進む止まることのなき光線。
俺がこの技を決める時、それは戦いの終わりを告げる時のはずだった。
白魔を飲み込んだ光線が過ぎ去った後でも、彼は体勢を変える訳でもなく立ち尽くしていた。
「なっ、あいつマジかよ」
あいつは俺の必殺技を耐えきった。
だが、お互い今までの戦いで限界が来ていたらしい…………。
白魔はその場から五歩ほど歩くと、
「明山。今回はオレの敗けだ」
そう言って白魔は地面に倒れ込む。
黒に敗け英彦を再起不能にした男は、俺との戦いでとうとう倒れる。
俺は目の前に倒れている男に向かって、
「まったく………。俺の必殺技を喰らって生きてるなんて………。
それにこんな怪我まで負わさせるなんてな。
本当、金が余ってて良かったぜ………」
そう言うと俺は気を失ってしまった。
草原に再び、いつも通りの静かな夜が訪れたのだった。




