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白き白き影のいる場所

 白い。白い。白い。白い。白い。白い。

今までに来たことがない白い空間。

前に死んだときはこんな場所に来なかったけど。

いや、俺はなんでここにいるのだろう。

たしか、俺は妖魔王に手も足も出ずに負けたんだ。


「────来てしまったね」


誰かが俺に語りかけてくる。

誰だ? 聞いたことがある声だが、長い間聞いた覚えがない懐かしい声。


「誰だ? ここはどこなんだ?」


その声の主が誰かは砂嵐でよく見えない。

それでも、そいつの声を聞いているとなんだか安心する。

敵ではないようなそんな気がしてきた。


「───ここはどこでもない。あの世と思えばあの世だし、この世と思えばこの世だ。私は私だよ」


曖昧な返答。椅子に座った影から聞こえてくる声は冷静そのもの。


「───ところで、君は何を悩んでいるんだ?

不安があるようだな」


「ああ、俺は敵に負けて死んだんだ。手も足も出ずに一瞬で負けた。だから、無念だし、その後の世界に何があったか不安だ。あいつが鍵を使ったらと考えると不安だ」


素直に言えた。相手が誰だか分からないのに普通に不信感もなく話せた。


「───そうか。でも、君は無念ならなぜ動かない?」


「俺はもう殺されたんだぞ。死んだんだ。それに実力も足りない」


悔しい。無念だ。

このままでは無念を晴らすこともできずに幽霊のようにさ迷ってしまいそうだ。

まぁ、フィツロイみたいな幽霊なら夜だけは楽しく暮らせそうだからいいかもしれない。


「────私はね。かつて1人の少年に出会った。その少年は生き生きと若々しかった。憧れるべきではない私に憧れて、私の信念を受け継いだ。過去にあらゆる罪を背負った私は最後に元の世界で死んだんだ」


「────けれど、その子も戦いの運命に呑まれてしまったんだ。私とのかつての縁が巻き込んだんだろうね。私も獲得候補者だったから」


獲得候補者。鍵の獲得候補者?

椅子に座った影の男も俺と同じ鍵の獲得候補者だったのか。


「────私はね。悔やんでいるんだ。どちらの世界にも私と言う存在は死んでいる。

死者だから手出しはできない。あの少年を救うことはできない。

最後まで恨まれるんだ……。

私は故郷を離れ、世界に恨まれ、故郷で死んだ。

そんな苦悩だらけの人生だったけど、一瞬の人の縁に救われた。


だから、君も救われているんだ。神は救ってくれたんだ。

君たちの行いは無価値じゃない。価値はあったんだ。無駄ではないんだよ」


彼の話からは彼の経験してきた重く辛い人生が予感できた。

それでも、彼は俺にはまだ救いがあると言ってくる。


「でも、俺にはもう戦う手段も方法も命もないんだぞ?」


負けたんだ。手段も肉体も命も何もない。

それに神に救われるわけもない。

ルイトボルトという神は今は俺なのだ。

神は神自身を救えない。

神はただ死ぬのみ。


「───いや、それは違う。手段も方法も命もない?

君には信念がある。その胸に抱いてきた信念がある。

その信念はまだ消えてはいないだろう?」


信念。俺の信念。

そうだ。託されたんだ。

アニキが最後に俺に託していった想い。


───もしも俺が仲間を纏めるリーダー、主人公のような立場になった時。

それがどんな方法でも良いから、皆の事を想った行動をとる。


【皆の事を想った行動】。

それは平穏だった。俺が望んだのは平穏だった。

だから、金剛の正義に勝った。勝たねばと自分を奮い立たせることができた。

そして、今度は人類の進化と真の平和を相手に戦った。

実際は誰の信念も正しい。

でも、俺はそれを否定した。

否定したからには責任が必要だ。

それを否定したなら、自分の信念を貫くのならその結果を見せつけなければならない。

敢作敢当。

俺がその信念を決断してここまで……ここまで歩んできたんだ。八虐を倒してきたんだ。

その責任は最後まで果たさなければならない。


「…………そうだな。信念がある。俺がまだ敗けを認めるには速すぎる」


まだ速かった。敗けを認めるのは速かった。

確かに肉体的には負けていた。

でも、俺はそれを否定する。精神的にはまだ立ち上がれる。

俺の心は……受け継いだ信念はまだ折れていないのである。


「───なら、行ってこい。私が出来なかった続きを果たしてくれ。真のラスボスを頼んだ」


真のラスボス……?

魔王を越えたラスボスでもいるのだろうか。


「真のラスボスって……?」


「───それはそれだ。……私の苦労はやっぱり知らされていないのか。戦争が始まる前に王レベルの子供が見つけてくれたはずなんだが?

【6柱の異端】の話だが……まぁ、言わないでおこう」


そうやって勿体ぶられると気になってしまう。

しかし、今は妖魔王だ。

俺が今現在戦うべきなのは妖魔王だ。真のラスボスなんていずれこの目で分かること。

今は奴の願望を否定する。黒に託されたんだ。

黒が勝てると言ってくれていたんだ。




 その時、俺の手から光が洩れ始める。鍵を握っていたまだ無事だった方の手だ。


「これは……?」


「───気づいているはずだろ。違和感の正体だ」


あの時の違和感の正体。

ああ、そういうことか。今なら理解できる。

これなら妖魔王と戦える。


「ありがとうな。えっと……」


今更ながら影が誰だか分からない。ここまで相談しておいて相手が誰だか分からない。最後くらいはお礼でも言っておきたいのに、名前が思い出せない。

そんな俺の心を見透かすように椅子に座った影の男は言った。


「───お礼はいらない。私がしたいくらいだ」


「そうか……?」


「───なぁ、青年。

それを使う時を間違えるなよ。

それを使えば……今後の運命は変わらない。

握っているだけでも効果がある代物だ。完全体ではない羽化寸前状態とでも言おうか。

できれば持つだけでいてほしい。

それを完全に使うと言うことは……」


影はそこで口を閉ざした。

言いたいことは分かっている。金剛や黒からの説明で理解できている。これを持つのではなく使う。

その時こそ俺は終わる。

この先の歴史に俺という個人は消える。

俺は俺じゃなくなる。

俺の信念とは違う。この先には苦痛が待っている。

だから、影は口を閉ざした。

その代わりに影の男は申し訳なさそうに小さな声で俺に謝罪を行ってくれた。


「───色々と受けてもらって悪いね」


本当に申し訳なさそうな声。


「かまわないさ。それが俺の人生なんだから。

様々な人が俺の人生に関わってくれたから。俺はここにいる。俺はこれまでの人生に後悔したことはあっても恨みはないよ。恨んだことは一度もなかったよ。

だから、あんたの言ってる少年もあんたに恨みなんてないと思うぜ。受け継いだ物を大切に生きてると思うぜ」


1人ぼっちの影に向かって俺はそう言い残した。

俺は白い世界から消えていく。

この世界に俺はいるべきじゃない。

影の男とはここで別れる。

彼の信念を今まで受け継いできた。それはこれからも利用させてもらう。土台として……。

俺はその信念に平穏という願望を前提付けた。

ここからは俺の……俺自身が決めた信念を貫いていく。


始めよう。俺の再戦リベンジマッチ

俺の戦いを…………………………!!!

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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