精霊士
精霊士──────。
元伝説のパーティーのメンバーである店長は現在白帝蔵王に対抗できる唯一の戦力である。
彼は不意打ちではあるが蔵王に攻撃を与えた。
彼なら白帝蔵王を止められることができるかもしれない。
そう思いながら私と王女様は柱の影から彼らの様子を覗き見るのであった。
店長と白帝蔵王はお互いに距離を取ったまま、睨み合う。
2人はお互いに戦闘も性格も相性が悪いのだ。
「お前も老いたものだな。前は私の足の速さに追い付いてきたのに、今となってはここまで時間に差ができた」
「老いたのは君もだろう? 蔵王。その胸の傷はなんだい?」
お互いに煽り合う2人。
「フッ、煽り合うのもなんだか………。いや、ここは冷静に話をしないか?」
「それは断るよ。君の目的と私の目的は対している。どうやっても私たちは訣別する運命ではないかい?」
「やれやれ 。敵に慈悲の心というのはないのかお前は? 普段、君の店ではクレーマーにもそんな態度をとっているのかな?
店の質を疑ってしまうよ私はね」
「君こそカウンセラーと言いながら他者を甘やかす。成長させようとせず現状維持のまま何も変えようとしない。客を喰らい利用するカウンセラーに慈悲なんて言葉は使われたくないね」
「私が行うのは利用ではない。解放だ。
人としての苦悩からの解放。他者に強制契約を持ち込み暴走させる」
「解放どころか変貌じゃないか。人としての尊厳を奪い、後始末は付喪人に行わせる。ギバーズの技術を誰に教わったかは聞かないが、悪用するとはね」
ギバーズとは付喪人になるための契約をサポートする職業である。王レベル会議で真丸が語っていた単語。
自分で契約できない者に最適な付喪神を紹介し、契約させるという職業だ。
しかし、ブロードピークがその出禁されていた方法を白日の元に晒し、強制契約方法が流出。
それを使った悪用犯罪としての“低支配力暴走事件”を起こした元凶としてブロードピークは王レベルや様々な人々を苦しめ、恨まれているのだ。
「奴らは苦しみや苦悩からの解放を望んでいた。私は他者の苦悩が必要だ。体内の付喪神が暴走し術者の肉体を乗っ取ろうとした瞬間、後悔や恐怖や苦悩があふれでる。その瞬間こそが私には必要なんだ」
「君………そのためにいったい何人の犠牲者を出した? 何人の家族を苦しめてきた?」
「さぁね。ただ、分かることが1つだけある。お前を倒せば犠牲者が1人増える。そして、騎士の苦悩が濃く深くなる」
心が腐っている。まさにゲスだ。
店長は彼の発言にひどく悲しみ怒りを感じてしまった。
「くっ、なぜだ? なぜそこまで他者の苦悩を求める?」
「そうだな………。君には言っていなかったか。私はね『殲魔王』の転生体なのだよ。苦悩を喰らうのさ」
殲魔王………。
それは黒い存在が従えていた影の存在。
黒い存在は弄ばれていた。口約束に騙されて空の壺を命よりも大切に守護する。哀れなものだ。奴は数千年も蔵王を待っていた。側にいた新入りの使徒と共に新入りの使徒の帰りを待っていたというのだ。
それは店長には初耳な事実である。
元伝説のパーティーメンバーである店長にも知らなかった事実。
店長の感じた驚嘆は顔には出していないが、とても大きな物であっただろう。
「…………………………。協力者がいるな。
封印されていた殲魔王の魂を解放し、転生を促した外道が…………」
「ああ、いるとも…………。すべてはそいつの計画通りだ。八虐が壊滅寸前な今も、伝説のパーティーメンバーの冒険も、十悪が壊滅した時も……………。すべてがそいつの計画通りなんだ。
影の黒幕。それがそいつだ」
蔵王の口から語られるすべての元凶の存在。
しかし、彼はすべてを知っていながら少ししか語らない。
店長も私も王女様も知らない秘密を彼は知っているのである。
一方、柱の影で彼らの一部始終を見ていた妙義と王女様。
彼らの話には色々と思うことはあるが、私たちは聞き耳をたてて静かに話を聞いていた。
すると、私の側にいた王女様が私の袖をチョンチョンと引いてくる。
「ねぇーねぇー妙義」
「なっ………なんでしょうか?
王女様?」
「なにか聞こえない?」
なにか?
そういえば、先程からどこかで足音が聞こえる。
ドドドドドと数人の足音。
店長と白帝蔵王の会話を聞いていて気づかなかったが、やはり誰かがこちらに近づいてきている。
その時であった。
舞踏場の扉がドンッと大きな音を発てて開いたかと思うと、百鬼動乱怒濤の軍団。
たくさんのモンスターたちがこの舞踏場に攻め込んできた。
「「「ッ……………!?」」」
驚く私たち3人。
20ほどのモンスターの大群が王女様を狙ってやって来たのだ。
側にいる私だけでは王女様を護りきれない。
それに先程までの傷が酷すぎて戦うことすらできない状況である。
「妙義君!! 王女様!!」
おそらく店長でもこの距離ではモンスターたちに対抗するにも詠唱には3秒かかる。
店長では間に合わない。届かない。
このままでは、王女様をモンスターの軍勢から守りきることができない………!!
グシャ………!!
鈍い音が響く。大量の血が流れ落ちる。
王女様を背中で庇った私だが痛みはない。
ふと、振り返ると彼は立っていた。
「ふぅぅぅ…………」
その拳を構えて返り血をたっぷり浴びている。
彼は私たちを庇ってモンスターの顔面を粉砕した。
その意図は私には理解できない。
なぜ、彼が自らの味方を殺したのか理解ができない。
ただ、私の目の前では白帝蔵王がモンスターの首を殴り飛ばした。その光景が目の前に映る。敵であるはずの白帝蔵王が敵のモンスターを殺したのだ。
「お前たちが…………王女に手を出すことは許さん。獣でも獲物は判断できると思っていたが低能だな」
拳についた血をピッと払いのける。もちろんモンスターたちにも彼の行動の意図は理解できない。味方であるはずの白帝蔵王が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「コイツウラギッタナ」
「ニンゲンシンヨウデキナイ。コロセ。コロセ」
モンスターたちの標的は味方を裏切った裏切り者へと変更される。
王女様から蔵王へと標的を変えて飛びかかっていく19体のモンスターたち。
誰もが訳がわからず混乱している中で蔵王は1人。
王女様を護るために拳を振るい始めたのだ。




