王都への侵入者
一方、王都内。
攻めこんできた10人のミハラたちは突如として消え失せたのだが……。
それでも、戦力差は埋まらない。
敵の大軍団の数は9万。味方は3万の戦士達で戦力差は3倍だったが、今ではたくさんの敵も味方も必死に戦っている。
「うわぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!」
たくさんの血が流れ。
たくさんの断末魔が響く。
ただ、生まれてくる陣営や種族が違うだけで、互いに血を流す。
それぞれの主に勝利を捧げるためにみんなは戦う。
連盟同盟は三原という戦力を失い。
大軍団はミハラという戦力を失っている。
今はお互いに重要な戦力を失った状況である。
だが、乱戦が繰り広げられているのは、城の周りだけではない。
城内でもすでに惨劇が繰り広げられていたのだ。
城内を走る一筋の風。
乗り込んできた男の目的はただ1つ。
マナルス王女の待つ部屋へと向かうことである。
目の前に現れた兵士たちを次々と走りながら銃殺していく侵入者。
それでも、城内にいた人間は廊下にて、侵入者を倒そうと武器を向けるのだが………。
「いたぞ!!! 侵入者だ………!!集まッ…………!?」
ジュバッ………!!
引き金は2度は引かれずに、脳天に銃弾を撃ち込まれる。
「足を刺してでも、動きを止めろ!!」
「殺せ、刺し殺せ!!」
侵入者を迎え撃とうと、武器を構える兵士たち。
だが、侵入者の運動神経はずば抜けて彼らよりも上であった。
廊下の壁を走りながら6人ほどの兵士たちとの直接的戦闘を免れたかと思うと、彼が着地した瞬間に6人の兵士の脳天に銃弾が炸裂する。
廊下に血を撒き散らしながら、倒れていく兵士たち。
その死体を振り向いて眺める侵入者。
しかし、侵入者を倒そうと兵士たちはまだまだ廊下へと集まってくる。
「いたぞ!!」
「こいつ、すでに何人も……………許さん!!!」
「この廊下は一方通行。お前はもう挟み撃ちだ」
侵入者を囲むようにして、大勢の兵士たちが30人ほど武器を構えて戦闘体制に入っている。
前後から放たれる殺気を嫌いながらも侵入者は愚痴を吐き捨てるように声を出す。
「…………通してくれないものかね。時間の無駄なんだが」
さすがの侵入者もこの狭い廊下で30人を相手にするのは部が悪いのだろう。
彼は持っていた銃を背中にしまい、なにも武器を持っていない素手の状態になる。
たくさんの武器を持っている兵士たちと素手で殺し会うつもりなのだろうか。
兵士たちは自分達がナメられていると感じた。
こっちは武器を持っているのだ。
例え、伝説のパーティーメンバーだった男でも、この数に素手で自分達を倒せるわけがない。ならば乗ってやろうと兵士たちはそう考えた。
「「「覚悟しろ!!! 白帝蔵王!!!」」」
数人の兵士の掛け声と共に侵入者討伐は再びゴングを鳴らしたのである。
場所は変わり、王女様と妙義は城内の舞踏場に身を潜めていた。
王女様におやつのリンゴを持っていこうとしたら、そのまま店長がどこかへ行ってしまい、大軍団が乗り込んできたのだ。
正直に言うと私はこの状況に頭がついていけなかった。ただ、王女様は護らなければならないとこの広い部屋へとやって来たのだ。
ここの部屋ならば敵が入ってきても、反対側のドアから王女を逃がすことができる。
外から聞こえてくる爆音などからして、すでに王都内でも戦闘が始まっているということは理解できた。
「王女様………私の側から離れないようにしてくださいね」
剣を構えて、敵がいつ飛び込んできても対応できるように王女様を護衛する。
集中力を切らしてはいけない。
王女様を危険な目に合わせたら、それこそ我らの敗けだ。
「ありがとう妙義家」
そう言って王女様がギュッと私の袖を頼りにして握ってくる。その手は震えていた。
やはり、彼女も自らが狙われていることが怖いのだろう。
なんの罪もないのに、大勢から命を狙われて本当にかわいそうなお方だ。
頼るべき父も、遠征に行ったまま戻ってこれず、母は過去の鍵の獲得争いに巻き込まれて亡くなっている。
私がもし、自らの命欲しさに彼女を見捨てたらと思うと彼女の中では敵味方関わらず、不安なのだ。
私はそっと片手で彼女の手を握る。
「大丈夫です。この女騎士。あなた様を最後まで見捨てません」
少しでも彼女の不安を取り去ろうと、私は彼女に語りかけた。
ああ、私がもっと強い武器を装備していれば、彼女の不安も取り払えただろうに………。
私が最後まで彼女を護らなければならないというのに、剣1つで敵に太刀打ちできるのだろうか。
不安…………いや、私が私の実力を信じないでどうする!!
もう少しで私にも不安な感情が呼び覚まされそうだったが、嫌な妄想を忘れようと首を横に振る。
強い武器と言えば、親父が私の出発前に「ここにあるミサイルや戦車、兵器を持っていってくれ。妙義ちゃーーん」と言っていたが、そんなことしたらみんなを巻き込んでしまうと考えて、親父に断っておいた。
今となっては持ってくればよかったと後悔している。
しかし、私は剣士だ。
自らの剣に自信を持たなければ、絶対に勝利など訪れない。
戦っているみんなを信じて、私はただ王女様を護るだけでよいのだ。
そう考えていた矢先。
舞踏場のドアノブに何者かが触れる。
ガチャッという音と共にドアがギィィと音をたてながら開いていく。
私は王女様を庇い、開いていくドアの方向へと剣を向ける。
ついに敵がやって来た。
この城内まで侵入してきた。
私は目の前の敵に集中し、王女様を背中で庇う。
ドアは完全に開き、私たちの目の前に1人の男の姿が映る。
その姿を見たとき、男の姿を忘れられないほど、まぶたに焼き付くトラウマになってしまった。
全身に血を浴びたように、黒のオーバーコートは真っ赤に濡れて……。
歩く度に血の水滴が床にポタポタと落ちる。
そして、臭ってくるのは吐きそうなほどの血の臭い。
敵だ!! これほど血まみれで、この部屋へと入ってくるのは敵に違いない。
「そこを動くな。私は騎士だ」
まるでホラー映画に出てくるような格好の男に剣を向けて警戒する。
だが、男は私の警告を無視して、舞踏場へと入ってくる。
斬りかかりにいくこともできるのだが、王女様の防衛が手薄となってしまう。
その事を侵入者は理解しているということだろうか。
「おい、お前の目的はなんだ。言え!!!」
王女様を背中で庇いながら、侵入者の動きに合わせて私も動く。
すると、侵入者は舞踏場の中央まで歩いてきて、血に染まった黒いコートを脱ぎ捨てる。
「…………私はただそこの少女に用があるだけだが。君は何をしているのかね?」
「私は王女様を護っている。見て分からないのか?」
「ん? まぁ、そうなるだろうな。なら、全力で護ってもらおうか」
侵入者は拳を握り、構えをとる。
騎士に拳で挑むというのか。
嫌な予感はしたが、とにかくこの侵入者を倒さなければ王女様への害となる。
そう考えた私は侵入者への視線を変えることなく。背中に隠れていた王女様に語りかける。
「王女様………向こうの柱の影に隠れていてください。もし私が不利だと判断した場合は安全な方から逃げてくださいね」
私だって死ぬ気はない。
王女様が他の場所へと逃げている最中に襲われるなんて事を防ぐために、なるべく側に隠れていてほしいのだ。
「妙義…………?」
不安そうな顔で私を見つめてくる王女様。
「私はあなたを見捨てませんが、あなたは私を見捨てても構いません。それは責められるべきことではありません」
私は剣を強く握り、侵入者への戦意を向ける。
これ以上、王女様を危険な目に合わせるわけにはいかないのだ。
「ほら、早く行ってください」
これ以上、近づけさせてはまずいと考えて王女を柱の方へと隠れるように急かす。
さすがの王女様もその想いは伝わったのか。
王女様は急いで柱の方へと走っていった。
これでいい。
これで少しは安心して戦える。
「私は『妙義鈴従』。妙義家の長女であり、兄に変わり跡を継ぐ者!!
王都の騎士としてその命を賭ける者!!」
名乗る。
これから戦う。いや、殺し合うであろう敵に自らの名を叫ぶ。
すると、侵入者は私の名前に聞き覚えがあるようで「妙義………?」と静かに呟くと、奴は口元を緩ませた。
「なるほど………そういうことか。
なら、私も名乗ろうか。
私は『白帝蔵王』。
元伝説のパーティーにして、カウンセラーを職とする者。
君はどこまで私を止められるかな?」
冷徹な視線で小さく嗤う。
その表情に戦いへの恐れはなく。殺意もない。
冷たい………冷ややかな鋭い視線に背筋が凍りそうになりながらも、私は蔵王と戦うために一歩足を出した。




