絶える個の道
ここが終着点か……。
かつて、知った未来はここまでである。
あのジジイ、大まかにしか語ってはくれなかった。
念願だった自分の王国を建造することができるとか。
その王国を滅亡させた者が今後の人生での宿敵となるとか。
決着がつく時、青年はその生涯を終えるとか。
そんな事をジジイは吾に教えてくれた。
今その事を思い出すと言うことは吾はもう知っていると言うことか。
優勢なのは代わりないが、この戦いで吾は死ぬ。
あいつは知らない吾の運命。
「ネタバレは嫌いだったんだがな………」
この戦いの時を待っていたのも、自分の死期を待っていたからだろうか。
吾としてはもう世界を見尽くしてしまった。
吾の納めていた国が滅びた時。
吾は死ぬはずだったのに、吾だけがこんな時代まで生き残ってしまった。
「ルイトボルト………」
他の我には聞こえないほど小さな声であの人の名前を呟く。
まぁ………この余生はあいつに貰ったような物だ。
だから、ここで吾は我との決着をつけなければならない。
「………………吾はアレを使うぞ」
ルイトボルトにそう宣言するように呟く。
ジジイは吾の死因までは語ることがなかったが、きっとこの死因が一番正しいのであろう。
結局、この戦いに勝敗などつかない。
無限に沸いて出てくる我らをひたすら自害させたり、倒したりして時間が過ぎるだけだ。
それならば、勝敗をつけずにこの戦いを終わらせた方が最善の選択なのである。
もちろん、ミハラたちもこの場で足止めをくらっている訳ではなかった。
鑑を使用し、数人を王都殲滅のために送り込んでいたのだ。
「おい、我ら。王都に攻めこんだ我らからの連絡はどうなっている」
「ああ、10人はすでに大軍団と一緒に攻め込んでいるぞ。まだ誰1人として欠けてはいなッ……」
我の頭に三原がワープさせた短剣が突き刺さる。
「やはり、貴様ら………」
我らめ………抜け目ない奴だ。それなら尚更早く我らとの決着をつけなければならなくなったではないか。
「おいおい、よそ見する暇があるのか?」
グザッ!!
………………きりがない。
吾が鏡によって我らからの攻撃を反射させ続けているが、我も吾を殺すことを諦めずに次から次へと襲いかかってくる。
モンスターに蔵王に我10人。
王都の精鋭だけでは太刀打ちできるのがギリギリかもしれない。
せめて、我10人をなんとかして敵戦力を減らしてやらなければ、王都内で10人が増殖してしまう。
この戦いに終わりが見えない。
もう何人殺した? もう何人自害させた?
数を数えようとしても、多すぎて数える気にもなれない。
「もう諦めた方が得策ではないか?」
「いずれ、王都へ攻めこんだ我ら10人が増殖するぞ?」
「貴様以外の我らも、お前とは違う道を選んでいるのだ」
「我らはどう転んでも破壊の神であるのだ。異端者である貴様はなぜ染まらん」
吾が貴様らの事を嫌いなのは、個人が消え去っているからだ。
同じ吾であるのに、どの世界線でも可能性が1つしかないなんて冗談じゃない。
あいつらの世界線では吾の目標である国などできない。
人の……民の心を学ばぬ暴君どもだ。
「吾は貴様らには理解できぬ物を知っているからだ。
孤独に自分を増やし続けて、自分の思想だけの国を造る? くだらん。じつにくだらん!!
国は民がいなければやっていけぬ。人の心、想いを守る場となるのが国だ。
国を造ろうと、暴虐の限りを尽くし、恐怖で支配しようとした貴様らに残ったのはなんだ?
世界の破滅ではないか。
それを勘違いして、自らの国を造ろうと、人々の心の中に自らの国・軍団を………王国を恐怖という形で爪痕を残す。
貴様らの言う国は国ではない。ただの災害。
災害を心から愛する民などおらぬわ!!!」
「貴様の実在した国は弱く脆いものであったな。だが、我の国は違う。
恐怖という名の国。決して崩れ去らない意識内にできる国という集団。民は我、王は我。
悪魔の子・神の子と言い喚かれた我だからこそたどり着いた道だ!!!
眼には見えぬ。だが、意識として残る常世の王国。他の国(平行世界)を滅ぼし領土を得る。それが我らが王………いや、神として崇められる国だ。
下克上をされることも、内乱を起こされることも、攻め込んでくる敵もない平和な国ではないか!!!!!」
────これでハッキリした。
やはり我らは同じであるが、お互いを理解することはできない。
名前も夢も生まれも同じであった吾たちは、人との出会いによって引き裂かれた。
もう戻ることもない。
──────────────
三原は自らの周囲を守護させていた鏡たちを解除する。
これではスズメバチの群れに裸で立ち向かうほどの無防備なのだが………。
終わらせるにはこうするしかないのだ。
「……………ほら、ミハラ。来ないのか?」
たくさんのミハラに向かって歩き出す三原。
そんな三原を見てミハラは驚く。
まだまだミハラはたくさんいるのに、まるで自ら殺してくれと頼むような行動。
防御を解いてしまえば、襲いかかるミハラたちの攻撃を反射して自害させることすらできなくなってしまう。
それなのに奴は警戒体制を解いた。
奴に先程、威勢がよくミハラたちに牙を剥いていた奴の面影はない。
あの悪魔のような傲慢不遜な態度の憎たらしい高笑いもない。
「………………」
冷静、冷徹、残酷、無慈悲。
そんな目付きでミハラを睨み付けている。
「この戦いで吾は貴様に教えられたよ。
吾もあいつらに出会わなければお前のようになっていただろう。ワレを変えたのはジジイ達だ」
「あんな下々の存在に貴様が?
くだらん。そんなやつらが原因で我らは違えたと?」
ミハラは3人のミハラをこちらへと向かっている三原に向けて放った。
ヴォーパールの剣を掲げて、三原を斬ろうとするミハラ達。
今回は三原を守る鏡もない。
3vs1。3人の自分と自分の戦い。
勝敗など決まっているはずだった。
ザッ…………シュッパッ……………ッ…………!!!
切り捨てられたのは3人。
三原は3人の返り血を浴びながらも、こちらへと向かってくる。
「そうだ。吾があいつらと出会った結果が、今の吾だ。貴様の言う下々の存在に吾は変えられたのだ」
なにかを訴えかけたいような鋭い目付き。
ミハラたちがいつも人類を見下すような目付きとは違う熱い目線。
「なぜだ。なぜ我らをその眼で見る。
そこまでして、我らを否定したいか!!
貴様が1人なのは変わらん。貴様の可能性は目の前のお前だけなのだ!!!」
三原が2人組と旅に出た世界線は1つしかない。他のどの平行世界にもない。
鍵の付喪人という存在に出会うことこそが、1つの道しかないのだ。
多数決では圧倒的にミハラの方が優位。
孤独の異端者である三原は、多勢に押し潰されて消えるはずだった可能性なのに………。
その後、三原はその後6人ほどのミハラを切り捨て、立ち止まった。
彼は小さく息を吐き、空を見上げる。
「ふぅ………」
「何を企んでいる。この敵陣に入り込んでくるのはなぜだ」
「決着をつけなければならないからな。吾は永く生きすぎた。お前たちと言う宿敵に会うにはとても長い時間だった。
もう終わりとしよう」
三原は1枚の鏡を宙に浮かせる。
その鏡がなんなのかミハラたちには分からない。彼らは興味深くその鏡を見ている。
ミハラたちとは違う世界線を生きた三原だから持っている鏡。
三原はそれを取り出す。
その鏡の中に眠るのは、三原しか手に入れられなかった剣。
無敵の魔法剣ヴォーパールの剣とは違う。
鏡に反射することができない定めの宝剣。
故に複製も増殖もできない。三原しか持つことを赦されない。
『“ ”剣フィーネ』
斬られた者はすべての世界線で同じ時間・同じ死因で死ぬ。
死を贈る最強の宝剣。
どんなにこの剣の攻撃を防いでも、他の平行世界(世界線)の奴が防げない場合、すべてが死ぬ。
斬られた存在の概念自体に死を贈る。
「さらばだ我らよ………………。『絶える個の道』」
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ザグシャ………………!!!
1人のミハラの胴を宝剣がハネる。
それと同時に、周囲にいたミハラたちの胴も切断される。
この世界……………すべての平行世界でのミハラが切断される。
それはもちろん、三原の運命も決まっていて………。
薄れ行く視界の中で次々とミハラが死んでいくのを見送る三原。
立ち上がるための足はない。
傲慢不遜の付喪人は敵と共に地に伏せた。
「(これでもう………十分だ)」
吾に後悔はない。やりきったのだ。
付喪連盟に加担する契約もこれで潰えた。
「フハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
三原は昂った笑い声をあげると、微笑みながらその生涯を終える。
神代を生きた恐れられし仔。
ジジイと世界を旅した青年。
自らの国を建設した国王。
国を失っても生き続けた王。
永き時を経て付喪連盟に加担した暴君。
その伝説はこうして魔崩叡者霊興大戦ラスバルムにて幕を閉じたのである。




