王都
王都……。
ジャパルグ国の中心部に位置し、王族達が住んでいる。
そんな都に集められたのは、3万人の戦士たち。
王女を守護するために揃った戦士たちは敵の大軍団が来るのを望まない形ではあるが待っている。
その中には王レベルの三原や真丸などの様々な付喪人や、冒険者連盟の歴戦の戦士たち、お城を守る兵士たちがいた。
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そして、遠くの草原にいる大軍団はモンスターの群れ。
その数、およそ9万体。
あらゆる数のモンスター達が、その場から動くことはなく。攻撃をしかけることもなく。ただ、横に列になっていた。
草原を挟んで睨み合う両軍。
お互いに戦支度は住んでいて、陣取りも終わっているというのに始まらない。
「あのモンスター達は何を待っているんですね。」
お城にある見張り台では双眼鏡で敵軍の状況を伺っている若い戦士が一言呟いた。
すると、隣にいたベテランの戦士が彼に返事を返す。
「さぁ? だが気を抜くなよ。俺たちが知らせないと………ズレが生じる」
「ハイハイ分かってますよー」
緊張感のない返事で敵陣を見張り始めた若い戦士。
このように王都では緊張感がまったくないことが多かった。
何時間も目を合わせたままで、過ぎていったのだ。
中には「本当に攻めてくるのか?」と疑問に思う兵士もいるようだ。
その頃、お城の一室。
「真丸………貴様はどう思う?」
「そうですね………。すみませんが僕っちにも分かりません。
我々を油断させようとしているのか。それとも本当に何かを待っているのか」
お城の一室から戦況を眺めている王レベルの2人である三原と真丸。
彼らは周囲を見渡せる程の広い一室を作戦本部として活用しているのだ。
すると、1人の兵士が部屋の扉をノックして三原への報告をしに来る。
「三原さん。城中の鏡はすべて取り外しました」
「よくやった。あとは持ち場に戻れ」
その報告にかかった時間は10秒。
わざわざここまで訪ねてきてくれた兵士を帰らせる。
とりあえず、ミハラ対策はこれで万全だ。
城内に侵入されて内部から攻められては厄介なこと極まりない。
「しかし、何を待っているのだ。奴らは………」
だが、攻めてこないというのは、なかなか疑問が残る。
ただ何を待っているのか。モンスター達に命令できるほどの強い存在をあいつらは待っているのだろうか。
そう考えると三原は気になってお茶すら口に入れることができなかった。
そして再び場所は代わり、ここは城内のとある廊下。
長い廊下をリンゴを持った2人組の男女が歩いていた。彼らはこれから王女におやつのリンゴを届けにいくのだ。
「てか、店長……なんで黙ってたのさ」
不機嫌そうに妙義が店長に声をかける。
そんな彼女を刺激しないように店長は正面を向いたまま、彼女へ返事を返した。
「妙義君……君は親父さんから聞いていないのかい。君の親父なら話しているとは思ったんだがね」
「親父とあんたは昔敵だったってことくらいかな。伝説のパーティーメンバーとまでは聞かされてなかったよ」
ハァ……とため息をつきながら、妙義は王女の部屋を目指して歩く。
「まぁ、私もあいつらに家の事を話してないからお互い様か……」
「そうだね………。ん?」
すると突然、一緒に廊下を歩いていた店長の足が止まる。
何かを感じ取ったのか。
一瞬、真面目な表情を浮かべると窓の外を眺めていた。
その視線の先にはいまだに動かない敵の大軍団。
「ん? どうしたの? 店長」
「妙義君………。王女のことは君に任せるよ。私が来るまで護衛は頼んだ」
そう言い残して、あわてて反対方向へと店長が走っていく。
「ちょっ……!?
リンゴは私が持っていくのか?」
長い廊下にただ1人で取り残されてしまった妙義は店長の走っていく姿を見ていることしかできなかった。
ちょうどその頃、三原もまた店長のように何かを感じとり、椅子から勢いよく立ち上がる。
「どっ………どうしたんですか?」
あまりにも突然の出来事にビックリしてしまった真丸。
彼は飲もうとしていたお茶を吹き掛ける寸前のところだった。
「おい、貴様。戦闘配置命令を出しておけ。吾は行かねばならぬ。始まるぞ戦が…………」
「戦………!? でも、まだ動き出していないよ」
「阿保か。動き出してから報告してどうする。今すぐにでも伝達させよ。いいな!!
現場は貴様に任せる。頼むぞ」
三原は真丸に後の事を任せると、部屋から颯爽と出ていってしまった。
場所は移り、王都の砦門前。その門を潜ればすぐ先は草原という位置で揉め事が起きていた。
「おやめください。何するつもりですかい?
門を開けりゃ敵軍が突っ込んでくるかもしれません」
若き門番の言うことも聞かずに、2人の男が王都から出ていこうとする。
その2人の男達をこれより先に向かわせないようにと10人の兵士が彼らの行く先を阻む。
「すまないが開けてくれないかい」
「開けろ!!! 傾奇者めが!!
どうせ、破られる」
だが、門を守っている門番は赤子の手を捻るように簡単に押し倒されてしまい。
無傷の状態で2人の男は門の前に立った。
誰もが彼らに目を向ける。
「裏切り者か?」
「気が狂ったか?」
「この2人の男が何をしようとしているのか」
自ら敵に入ってこいと言わんばかりの行動に兵士たちは、本当によいのだろうか……と疑問に思いながらも、彼らの背中を目で追っている。
いや、これから起こる事柄から目を背けないように、彼らは緊張した面持ちで門の外へと出ていく2人を見ることしかできなかった。




