天地爆創
禁断の魔法であるラグナログに包まれたバイオンの身体は今度こそ焼け焦げた。
英彦が解除すると、バイオンだったものは黒く焦げていて、黒い灰となって風に舞っている。
そこにかつて大陸を恐怖で支配していたテロ組織のリーダーの面影はない。風の前の塵と等しい。
白帝一族を兵士や奴隷として扱っていた彼は、その子孫である英彦によって討ち取られたのだ。
その最期を看取った3人の戦士達。
厄介な触手に襲われながらも乗鞍と空木は戦い、英彦はトドメを刺す。
この三人………いや他の場所で触手と戦っていた戦士達がいなければこの勝利は掴めなかったであろう。
英彦たちは勝利に干渉していたのだが……。
荒野にただ立っていた3人のもとへ1人の戦士がやってくる。
「報告します。我らを襲っていた触手達は突然消息を絶ちました」
「そうか、バイオンは吾輩達が倒した。それで? 被害は?」
「生き残ったのは99人です。それ以外は不死身の触手によって……………」
悔しそうにクッと拳を握る戦士。
目の前で同胞の死を目の当たりにして彼の心は傷ついているのだ。
「そうか…………」
そんな戦士に空木は、よく頑張った……とでも言うかのように、彼は無言で頭を撫でてあげている。
そして、空木が戦士の頭から手を離すと、今度は乗鞍が戦士に頼みを伝えた。
「…………それじゃあ君。吾輩達の所へ生き残った者達を集めてくれ。
吾輩達はまだ行かねばならん」
そう、ここまでの被害を出しても戦争は終わらない。
今回は敵将を討ち取っただけにすぎない。
これから先には魔王との決戦が彼らには待ち受けているのだ。
合計102人の連盟同盟は魔王城へと歩き始める。
亡くなった同胞たちの無念を背負いながら、これから訪れる恐怖を押し殺しながら、彼らは歩いていた。
だが、彼らが魔王城へと歩き始めて3分後。
耳に入れたくもない声が彼らの耳に入ってきたのだ。
「どこへ行くつもりでしょうかね?
そっちは道が違いますよ。
ふははは……私の左手に気づかなかったのかね?」
そこにいたのはまだ皮膚が半分しか復活していないバイオンの姿であった。
「何故だ。御前は灰になったはず」
「残念でしたね空木さん。死体は確認すべきですよ。それと英彦さん。同じ手に2度も引っ掛かる癖は治しておいた方がいいですね」
「ハッ!!
まさか、腕を切り取ってそこから復活したのか?」
英彦が彼の話で思い浮かべたのは、最初の出来事。
彼は明山に討たれる前に腕を切断されていた。
そして、今回バイオンが英彦の目の前に再び現れた。
それはつまり…………。
「その通~り!! 私は保険をかけていたのですよ。自らの魔法で死ぬ前にね。
最初、あの野郎に腕を切られた時は、心が焦りと安堵でいっぱいでしたよ」
「くっ………………。」
全てを燃やし尽くせなかった。
バイオンを倒せなかった。ここまでの戦いで成長していたと思っていただけで、何一つ変われなかったのか………と英彦は落ち込んでいる。
「それで、何をするかはお分かりですよね?
『天地爆創』ですよ。あっ、安心しなさい。
魔王壁はあらゆる魔法を無力にする。
あなたの味方には天地爆創は効きませんから」
また、あの技をここで放つというのだろうか。
あの完璧に国市を滅ぼせちゃうくらいのエネルギー弾の塊をここに落とす。
そんな禍々しくねじれ動いている球体のエネルギー弾を落としてしまえば、他の方角の連盟同盟は助かるだろうが、ここにいる者達は全滅である。
高笑いしながら宙に飛び立ったバイオン。
彼は魔王城よりも高い位置まで飛んでいくと、そこで両手を宙にあげてエネルギーを溜め始めた。
「そんなことはさせねぇ!!!」
「空木さん。あなたの攻撃は宙に届きますか?
自分の限界を知りなさい。魔王候補であった私に勝とうとすること事態が愚かだったんですよ!!」
地面にいる戦士達の攻撃は届かない。
彼らはただ無念に思いながら見ているしかなかった。
「誰も魔王には勝てない。正義が正しいとか、勝つんだとか言う人もいますが…………。
くだらない。くだらないですよ。正義とは勝者。敗者は悪。力のある方が正義なんです。
私こそが正義!! お前らは悪。
さぁ、悪は滅びるがいいです!!」
まるで自らが正義だとでも言いたいような言葉を発する。
ふざけるな。お前の方が悪だろうが……と英彦は反論したかった英彦であったが、この距離じゃ反論しても聞こえないだろうと考えて黙る。
「もうだめだ………」
「せっかく生き残ったのに………」
「あんな上空にいる奴をどうやって攻撃すればいいんだよ」
王レベル以外の戦士達はみんなバイオンとの戦いを諦めかけている。
このまま、バイオンが巨大なエネルギー弾を地面に叩きつければ、ここにいる英彦達は死ぬ。
だが、バイオンを落とす程の攻撃を放つこともできない。
彼らはただ死を待つ以外に道は残されていないのだ。
ふぅ………もうこれしかないのだろうか。
本当はやりたくなかった。しかし、この状況でバイオンを倒すにはアレしかない。悔しいがこれも運命なのだろうか。
英彦は目を閉じて一度深呼吸をすると、覚悟を決めて王レベル達に話しかけた。
「みなさん、5分時間を稼ぎます。
だから、ここに来た時に使った鏡で元の世界に逃げてください」
英彦は拳を強く握りしめて、自分の感情を押し殺しながら、彼らに提案した。
しかし、英彦の提案は1人の戦士に反発されてしまう。
「何をする気なんだよ。もう終わったんだ。みんな死ぬんだよ!!!」
だが、王レベルだけは違った。
彼らは英彦がこれから何をしようとしているのか気づいてしまったのだ。
「いや、……………すまない」
「………いくぞ。お前ら!!!
少年の想いを無駄にするな」
2人はそう言うと、英彦に背を向けて鏡がある場所へと走り始めた。
鏡がある場所までは走り続ければ4分程でたどり着く距離である。
王レベルの2人は振り向くことなく。ただ鏡に向かって走り出した。
そんな2人の行動が理解できない戦士たち。
それでも、みんな何かが始まると考えて王レベルの2人に着いていく。
こうして、彼らは英彦ただ1人を残して、この戦場から立ち去っていったのだ。




