不老不死の失敗作
互いに恨みがある英彦とバイオン。
彼らがお互いに怒りを堪えている睨みあっていると……。
「おい、他所に集中してちゃいけねぇぞ?」
バイオンに語りかけてきた乗鞍の声。
その声に慌ててバイオンが乗鞍の方へと顔を向ける。
すると、そこには拳を握りしめて構えている乗鞍の姿があった。
バイオンが乗鞍の方を向いた瞬間に放たれる打撃。
無慈悲にも彼はバイオンを本気で殴ったのだ。
「『super Naguri』!!」
彼の技を叫ぶ声が周囲に響き渡り、バイオンの顔面に目掛けて放たれる。
グシャ……と骨が砕ける音。脳ミソがバグり始める。
そして、バイオンの頭蓋骨は耐えきることが出来なかったようで、彼の顔面は勢いに任せて殴り飛ばされてしまった。
頭と身体が離ればなれ。
バイオンの顔面だった物が地面にベチャッと音をたてて落下する。そして、散らばる肉片と血液。
バイオンの首から下は直立不動のまま、まるで顔がないことに気づいていないかのように動かない。
「おい、乗鞍」
「心配するな空木。吾輩のパンチで吹っ飛ばした」
これにて南戦終了。
誰一人欠けること無く敵将を討伐することが出来た。
15.5章 魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(南)終戦!!!
「「「「ウォォォォォ!!!」」」
「王レベルの乗鞍が勝った!!」
「やったー勝ったぞ!!」
「ウォー!!!」
圧倒的なパワーで敵を倒した。
その姿に同盟連盟のみんなは興奮している。
魔王を守る敵将に王レベルが勝ったのだ。
誰一人死ぬことなく戦勝したのだ。
みんなが勝利を喜び確信していた。
「いえ、まだまだですよ。おっ、首を潰しましたか?」
だが、あの声が同盟連盟の耳に聞こえてくる。
みんなの視線の先でグジュグジュと音を発てながら、バイオンの首の辺りが蠢いている。
気持ち悪いグロテスクな光景。
こうして、頚の中から次第に顔が再生され、しばらくすると元のバイオンの顔が肉体から現れた。
先程までの負傷はなかったかのように回復し、
彼の首は再生している。
「私は身体の一部分でも残っていれば再生できるのです。これがバイオ団のテクノロジーィィィィィィ!!!!
人類が求めた不老不死の技術ですよ!!!」
バイオ団は不老不死の研究をしていたのか。
そして、これが不老不死? 冗談じゃない。
こんな殺しても殺せない奴に勝てるわけがない……と先程まで勝利を喜んでいた戦士達は少し気分を落ち込ませている。
希望からの絶望。死なない奴に勝てるわけがないという諦め。
「あいつの首を飛ばしても死なないのなら、いったいどうすれば討伐できるんだ?」
「勝てるのか………急に不安になってきた」
ザワザワと不安になっている戦士達の声が聞こえる。
「皆様。王レベルばっかり相手にされてお暇でしょう?」
「「「…………!?」」」
全員がバイオンの言葉に驚くように耳を傾ける。嫌な予感がプンプンと放たれている。
彼らの予想通り、何を思ったのか。フンッ!!とバイオンは地面を力いっぱい踏みつけた。
すると、地面から轟音と共に巨大なツル状の触手がウネウネと地面から生えてくる。
太さは灯台くらいの太さで深緑色の触手達は地面からその姿を現したのだ。
まるで怪物。30柱の化け物をバイオンは呼び出したのだ。
「彼らは不老不死の実験で出た失敗作ですよ。そして、不老不死の完全体である私の命令に従うペットです」
バイオンの不老不死の実験で出た犠牲者達の成れの果て。
それがこの巨大触手だと彼は言う。
「御前!!!
これは失敗作だと?」
空木は目の前にある光景を簡単に哀れんでもよいのか。簡単に怒ってもよいのか。どう思ってあげるのが最適かか分からず、ただバイオンに失望していた。
こんな非道な人体実験の残骸にかけてあげる言葉が見つからない。
簡単に他人事に思ってしまうわけにはいかないからである。
だが、一方でバイオンはこんな失敗作に何の感情もわくことがないようで………。
「そうですよ~。1柱に20人ほどですから…………。ここにいるだけでも600人くらいでしょうか。あっ、材料は主に侵略した国の病人や子供、女、反逆者です。おすすめですよ?」
600人の人体実験の残骸。
不老不死の技術のために利用されたかわいそうな人達。
そんな人間としての尊厳を奪われた犠牲者に対してのバイオンが行う軽い態度。
その態度に乗鞍の中でなにかがブチッと切れた。
「吾輩………こんな奴は始めてあったぞ。
全員戦闘配置!!!
慈悲はいらん。そのすべてをもってこの触手を殺してやれ!!」
「そうですか。そうですか。あなた方はそうやって…………。まぁ、いいでしょう。
来なさい。英彦と空木と乗鞍!!!
嬲り殺しにしてくれるわァ!!!」
戦士たちに襲いかかる巨大触手とバイオンに襲いかかる3人の付喪人。
こうして、魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(南)の火蓋が切って落とされたのである。




