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迸る落雷の雨

 向かい合う2人。


「来るか? たった1人で立ち向かうのか?」

「ああ、最後まで足掻かせてもらうぜ。おサムライさん」


戦うのは2人の男達。

紐を操る若き戦士と刀を操る闇の侍。

開始の合図もなく紐を操り、大江の動きを止めようとする山上。

彼の能力で周囲の柱の影からたくさんの紐が大江の腕や足に向かって巻き付こうと襲いかかってくる。

シュパ………シャン………シュパン!!

だが、大江は黄色に輝く刃を高速で動かし、山上の紐を斬り捨てていく。


「俺の紐達が箸で摘まんだ時に切れたうどんのようにポトポトと切られていく!!!

くそッ!!!」


それでも、山上は諦めない。

例え、どれ程紐を切られようが、動きを止めなければいけないのだ。

シュルシュル………シュルシュルと紐は柱の影から伸びてくる。

何度も何度も、大江の足や腕に絡み付き、大江を空中で張り付けにしようとしてくる。

大江が切っても切っても紐は途切れることなく、向かってくる。


「厄介な。面倒だな」


大江がそう言うと天に刀の切先を向けた。

その隙に紐は大江の両足と両手、そして首に巻き付く。

こうして、天に刀を掲げたまま、宙に縛り付けられる大江。

さすがの彼も腕力だけでは動けないのだろう。

ピクピクと腕や足を動かそうとするが、その度に締め付け具合が強くなっていく。




 「よし、そのままだ。刀を掲げたのがお前の運の尽きってやつさ」


よしッとガッツポーズを山上は一回だけ行うと、警戒しながら大江の首をとるためにゆっくりと近づく。

相手はもう動けないのだ。何もできない相手をこのまま殺してしまうのは後味が悪いが、これも戦争。国の未来を賭けた戦争ならば仕方がないかもしれない。


「なぁ、塩見さん。あんたの日本刀を貸してくれ。大江御笠さん安心しろ、晒し首にはしない」


武士は晒し首や武功をあげるときに首等を切ると山上は聞いたことがあった。人の首を落とすのは気が引けるが………。山上はグッと気合を入れ直す。

そんなとき、山上は塩見から刀を借りると、紐と使って自らの手元へ飛ばしてきた。




 山上は今から人を切る。その首を落とす。

敵将は魔王軍幹部で戦争を仕掛けてきた張本人達。

それに今までもたくさんの罪のない犠牲者が魔王軍によって出ている。

殺す。殺す。殺す。

気持ちを圧し殺しながら唾を飲み込む。

悪には裁きが必要なのだ!!

彼はそう思いながら、必死に刀を振り下ろそうと構える。

狙うはその首の一刀両断。苦しませることなく素早く首を落としてやる。

彼の胸に走るのは緊張………。

グッと刀の柄を持って構える。呼吸を落ち着かせて冷静に………。




 そんな時であった。山上の苦悩を遮るかのように大江が彼に話しかけたのだ。


「一つ教えておこう。この黄色の刃はライトニングスライム。その能力は雷だ。私の周囲を無差別に落ちる落雷。

つまり、貴様は既に射程距離内に入っているのだよ?」


山上は選択を誤ってしまった。もともと刀を操る大江との接近戦では不利だったのだ。

この距離では逃げ出せない。


「しまっ………!?」


山上は驚きと焦りでその場から離れようと足を動かしたのだが………。


「『悪路惨雷あくろざんらい』!!」


大江がその名を大声で唱えると、まばたきもできないほど速く何発もの雷が降り注ぐ。

大江の周りを無差別に落雷が落ちてくる。

激しい落雷。激しい雷音。

たくさんの落雷が、周囲の音と景色を強烈な音と光でかき消してしまい、両者の姿はまばゆい雷光の中に消えてしまった……………。




 その眩しさに八剣は思わず目を閉じる。

それでも光はまぶたの裏の暗闇にまで侵入し、目を閉じているか閉じていないかも分からないほど、真っ白な光景。白紙の世界。

その10秒間は彼女を別の世界へ誘ったように思える。まるで白い空間に浮いているような感覚。

大きすぎて何も聞こえない。眩しすぎて何も見えない。暑すぎて何も感じない。

副バ会長………山上さんはどうしただろうか?

塩見さんや敵将はどうなっただろうか?

こんな白い光景の中にいてもそればかり考えてしまう。

だが、その光の世界は幕を閉じ、暗い世界がやって来た。


「うぅ………う~ん??」


ゆっくりとゆっくりと目を開く八剣。

すると、彼女の目の前には焼け焦げた地面。

彼女から3mの範囲が落雷が落ちた範囲に入っているようで、落雷で砕け落ちた柱が燃えている。


「嗚呼…………」


八剣は側にいたはずの塩見の姿を目で探す。

先程まで側にいた塩見の姿がない。


「塩見さん…………ハッ!?」


ようやく見つけた彼女の目線の先には仁王立ちで1人の男が立っていた。


黒く焦げた大地に刀を構えた侍。

彼女に見せつけるかのように彼の背中が立っている。


「…………………」


返事はない。胸にある深き傷の痛みすら彼には感じられない。

彼は山上や八剣に落ちてこようとしていた落雷を斬っていたのだ。

落雷を斬るなんて常人にはできない。

だが、数秒間万物を斬ることができる彼の能力なら話は別である。

しかし、それもあの長い10秒の時間すべてを使うことはできなかった。

その後は塩見にもどうやったか分からない。

普通の刀の状態でどうやって斬ったかあ分からない。

だが、それでも結果として彼は10秒間を耐えきった。

それだけだ。それ以上は分からない。

彼は構えた刀をスッと鞘にしまうと、崩れるように地面に倒れこんだ………。




 ちょうど、塩見が倒れた頃。


「うぅ………ん。ハッ!?」


気絶していた八剣は意識を取り戻す。

気がつくと、彼は焦げた地面の上に横になって倒れていた。

記憶が少し飛んでいる………確か、あの時敵将を縛り上げたのだが、敵の射程距離内に入って………。


「塩見さん!! 八剣!!!」


あの2人は無事だろうか?

八剣は2人の姿を必死に探す。

すると、地面に倒れている塩見の姿と、それを不安そうに見ている八剣の姿を見つけた。

1人は重傷で既に虫の息だが、2人ともまだ生きている。

死んではいなかった事にホッと一安心して、山上は彼女らの側に駆け寄ろうと立ち上がるのだが………。

キラッ………と山上の首筋に感じる。

彼の首筋近くに刀の刃が向けられる。


「……………ッ!?」


振り返ることができない。ヘタに動こうとすれば簡単に首と体が離ればなれになってしまう距離。

すぐにでもスッ……と横に動かせば、簡単に首に突き刺さりそうだ。


「あの落雷の中を生きていたのは、賞賛に価する………………」


そいつはまるで死神のように山上の背後にいる。

あの自らが放った落雷の中、身動きもできないため、自爆技かと思っていた山上の予想は外れていた。

山上達と同じ落雷の雨の中にいたのに、塩見との戦闘時に出来た1つの腹部の傷以外の負傷は見えない。

あの雷の中でも彼は無傷だったというのだ。

そんな敵将に山上は振り向くことなく話しかける。


「なんで傷すらつかないんだよ」


いい加減にしてくれ!!

もう敵将に向かって叫びたい。文句の1つでも言ってやりたい。

そんな想いを込めて彼は敵将に言い放つ。

すると、大江はそんな哀れな山上に語りかける。


「力の差だ…………。土蜘蛛と生身の人間が戦っているようなものだ。ただ恐れるのみ。策もなしに向かう玉砕では絶対に勝てん。もっとも………この戦場で情報もなく出会った時点で敗北は避けられぬ」


大江の言葉は山上の胸を力強く握ってきた。

大江の言う通り、確かに実力差はありすぎた。すぐには埋まらないくらいの圧倒的な差。

敵の情報がない時点で策を考えるなんて最初はできなかった。

山上が勝てる相手ではなかった。


「──────ああ、俺は敗けた。

策なんてない無我夢中………だから敗けた。正直、あんたの弱点も分からないし、実力も不十分だ。

だがな。俺は1人で勝ったことは一度もない。1人じゃ王レベルでもない。

俺たちは生徒会だからここまで来れたんだ」


「ああ、自覚しているな。お前では勝てない。私には」


「そうだとも俺じゃあお前には勝てない。

でも、生徒会長が俺たちを庇ってくれて………。

塩見や八剣がお前と戦ってくれて…………。

周囲の冒険者連盟や付喪連盟の戦士達がスライムを近づけさせないように戦ってくれて…………。

怪我した奴らを回復能力のある戦士達が守ってくれた…………。

そのお陰で俺はここにいる。

勝てないはずの俺はここにいるッ!!」


「……………何を言いたいのだ? 何を企んでいるのだ?」


「スライムを利用するしかない強者のお前と、周りの力を借りるしかない弱者な俺。勝敗は明らかだ。だが、それを利用する。

俺はお前には勝てない。だから、俺たちで勝つ!!!」


燃え上がる闘志。

山上の言葉には決意があった。意地があった。

射程距離内にいたのは山上ではない。

射程距離内にいたのは大江の方である。

ものすごく嫌な予感を感じ、焦った大江は声を張り上げてそのまま山上の首を切ろうとする。


「貴様ァァァァァ!!!!!」


「八剣頼んだ!!」


言われた通り、八剣が大江に向かって水流をミサイルのように飛ばす。

焦っていた大江は周囲に警戒できるほど冷静ではない。

大江は避けることもできずに、おもいっきり顔面に水流を食らってしまう。


「……?!」


反射的に目を瞑ってしまう大江。

水が目に入らないように、その瞳を一瞬だけ閉じてしまった。




 ……………グサッ!!


「─────ウゥグゥ…………!?」


大江の腹部に再び走る激痛。

彼が目を瞑った数秒の隙に、彼の敗北は決定した。

目を開けると、そこには紐に繋がった紫色の刃が突き刺さっている。

先程、地面に落としたままにしておいた強化されたポイズンスライムの刃。

切られた者の肉体を蝕む毒の刃。

それは大江にも例外ではなかった。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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