十悪の参人
カツンカツンとゆっくり聞こえてくる足音。
会議室に緊張感が漂い始める。
5人の目線の先には青白い松明に照らされた2人の兄妹の姿が写っている
そして、彼らが会議室に足を踏み入れた瞬間、死のような冷たいオーラが部屋中に充満し始めた。
「「此度は我(妾)からの協力に応じてくれて感謝する」」
その姿はまだ子供。
1人は目立つ紫の瞳と白色の髪の毛を持ち、太い2本の角が生えている。着ている黒きローブの袖の方には金色の羽のような飾り付けが施されていた。
1人は黒色の長い髪に緑色の瞳を持ち、太い2本の角が生えている。着ている黒きローブの袖の方には銀色の羽のような飾り付けが施されていた。
2人とも口元を鉄のマスクで隠しているのだが、おそらくは人間態の兄妹であろう。
一見すれば普通の人間の兄妹。
問題なのはそのオーラである。
バイオンがこれまでに見た中で最もどす黒く蠢いているオーラ。
そのオーラを見ただけで普通の者なら震え上がり、頭を垂れて蹲ながら一思いに殺してくれと言い出すだろう。
しかし、ここにいる者は普通の者なはずがない。
「へぇー君が妹ちゃん?
かわいいじゃん。今度余と断末魔鑑賞でも如何かな?」
そんなオーラに恐れることなく恐は、魔王の妹をデートに誘ったのだ。
なんという空気の読めないバカ野郎であろうか。
だが、恐にとってはそれが普通の事。
どんなに相手が強い化け物であってもかわいければ消されても良いという精神の持ち主だからこそ出来る行動である。
「恐………妾は貴様らの時代の主人ではないが、今世の魔王は妾達である。救援に来てくれたのは感謝するが、貴様の代わりを金剛に任せて消してもいいのですよ?」
「冗談がキツいな~。残念だよ」
妹からの脅しも冗談だと疑わない能天気ぶり。
だが、それは演技であったッ!!!
恐は普段ならここで更にデートに誘うことを諦めない男のはず。
ただし、今回は違う。
デートの誘いを聞いた瞬間から魔王の妹の殺意があふれでている事に気づいているからこそ彼はそこで妹から手を退いたのだ。
こうして、何も問題が起こらなかったことにバイオンと金剛の八虐コンビはホッと一安心。
すると、大江は改めて本題へと話を戻すように魔王に頼んだ。
「恐なぞ無視して続けろ。若き妖魔王よ」
そこで、大江からの要求を聞き、魔王は今回の作戦を5人に伝え始める。
「君たちには我の戦いに参加してもらう。
4つの方角に分かれて待機し、王都はモンスターや付喪神の軍勢に任せる」
「つまり、私たちは敵を城に入れさせなければ良いと?」
バイオンからの質問に妖魔王はニッコリとした表情のまま静かにうなずく。
城の防衛を4人だけに任せて進軍するのは自分達より下級のモンスターや付喪神など。
もちろん、この作戦に不満がある者はいるようで…………。
「兄妹は仲良く籠城とは………不愉快だな。
我に働かせ貴様らは甘い汁を吸うか? なんとも魔王らしい作戦じゃないか」
「おい、ミハラ」
「どうした? 金剛。それに進軍は下級に任せるそうじゃないか。
我が攻めればすぐに片付く問題に時間を賭けさせるとはどういうことだ?」
「ああ、その通りだ。君達を働かせる。そして、君たちを王都へは行かせない。
今回の戦争は邪魔者の梅雨払いだ。勝敗もどうでもいい。
我が欲しいのは“あの方の付喪神である”鍵だけだ」
この妖魔王は何を企んでいるのだろうか。
ただ、鍵が欲しいだけのために宣戦布告までして戦争を始めた。
話を静かに聞いていた恐には魔王の真の目的がさっぱり分からない。
「鍵……?
実力で解決すれば簡単なのに、何でそんなめんどくさい方法で世界を支配する気なの?」
「世界を支配する気はないよ。ただ“人類が犯した罪”の償いのために………。
人類の未来永劫の為に。鍵は必要なんだ」
人類の未来永劫のために動く。
金剛を除く者たちは兄妹からそんな発言が出てきたことに驚いた。
「「「……………………ッ!?」」」
声を出せない。
聞いてもよい内容なのか。彼らには分からない。
妖魔王が考えている計画が壮大な野望であることは分かる。
ただ、これは質問して妖魔王の計画を真の目的を聞き出してよいのか。
彼らには質問する勇気をまだ持つことができなかったようだ。
「これ以上は目的について語らなくてもよろしいかと………妖魔王様」
これ以上の説明は不要だと判断した金剛は妖魔王に声をかける。
もちろん、彼も魔王の真の目的については知っている。
だからこそ、彼はここで目的についての発言をここまでで終わらせようとしたのだ。
だが、神の領域に達している破壊神は違う。
「───新入り風情が我らの会談に口を挟むとはな。こいつらは知らんが。
我は今、妖魔王の目的を聞いておるのだ。協力を求められたとしては当然の権利。
この時代にも生誕していない貴様はこの会談には異物である」
「ミハラ。悪いが話せない事もある。お前らが召集されたのは今回の戦いのみ、それ以降は干渉しないはず。それに森羅万象を記した創歴書を読んだ貴様には理解できていると思ったが?」
「ああ、貴様らの目的もこれから起こる余興の事も我は理解している。
だが、未来は1方向に必ず決まっているわけではない。
枝が折れた場所から新しい芽が咲くように……運命も変わる。金剛……貴様という未来がない運命もな。
だからこそ、期末テストが終わった後に分かり切った答えを仲間同士で確認しあう学生のように、自分の知識を正しいか確認しておきたいのだ」
「いや、そこまで知っているなら聞かないでいただきたいものだな。それに貴様はそれを知っていて妖魔王を止めない」
「当然だ。貴様らに従って動かなければ奴に会えん。神の世から今まで待っていた本命が訪れんからな。安心しろ、こいつらにも言わん」
先ほどからすべてを知っているミハラがニヤリと笑っている。
金剛とミハラ、未来を知っている者同士の討論は妖魔王の発言により中断することとなった。
「「じゃあ、もういいかな?
それでは、明日よろしくお願いいたしますね」」
そう言って会議室から立ち去ろうとする妖魔王の兄妹。
そんな彼らの姿をミハラ以外の4人は頭を下げながら見送っている。
「御意…………!!!」
「ええ、おまかせを魔王さん」
「ふん、此度は良かろう」
「いいよ~。ねぇ、それより妹ちゃん余とデートしない?」
「『テレポート』」
恐からの誘いを無言で断り、妖魔王は魔法を使ってこの会議室から姿を消した。
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こうして、残された5人は緊張感から解き放たれた。
あとは明日、魔王からの作戦通りに動くだけである。
一時は恐のせいでどうなることかと思ったが無事に会議を終了できてホッと一息ついている金剛とバイオン。
しかし、恐は自分が調子にのって魔王に無礼を働きかけたことを全く反省していないらしく。
全員と久しぶりに話したくてたまらない恐は片っ端から声をかけて一緒に会話をしようとしていたのだ。
「ねぇ、大江。この後どうする?
時間あるからさ。再会を喜んで殺し合いでもしない?」
「…………『テレポート』」
だが、大江には逃げられてしまった。
そこで、恐は次の話し相手を探すことになり、1人の男に目をつけて話しかけてみる。
「あいつ、いつのまにテレポート使えるようになったんだろうね?
そうは思わない? ミハラ~」
「…………『テレポート(魔法ではなく鏡で移動)』」
だが、ミハラにも鏡移動で逃げられてしまった。
そこで、恐は次の話し相手を探すことになり、1人の男に目をつけて話しかけてみる。
「金剛~さっきの続きだけど王都って余が攻めちゃダメかな?
モンスターとか付喪神の軍団だけじゃやってけないと思うの」
「………………『テレポート』」
だが、金剛にも逃げられてしまった。
そこで、恐は次の話し相手を探すことになり、1人の男に目をつけて話しかけてみる。
「バイオン、そういえばお前って消滅したのにどうやって生き返ったの?
不死身なの? 人体実験でもしたの? 人魚の肉食ったの? 別世界の力でも手に入れた?
今度、余にも教えてくれないかな。その不死身の秘密」
「…………『テレポート』」




