去らば盟友。永遠なれ(narou)
スイカ割り。
スイカ割りとは、棒を持たせた者に目隠しをさせて数回回ってもらう。そして、周囲の声によるサポートでスイカを割るというゲーム。
前に明山が言っていたのを英彦は思い出したのだ。
「…………というルールです。分かりました?」
「「うん。分かった」」
素直に返事をすると、ヨーマが魔法を使って何もない空間からスイカと棒を召喚する。
そして、マオがその落ちてきたスイカを割らずにキャッチしてここから3メートルほど離れた場所に置き、そしてここに戻ってきた。
さて、ここからは誰が最初に始めるかである。
「それじゃあ誰がスイカを割る?」
「はい、我はヨーマを推薦します」
マオは勝手にヨーマの手を持って上にあげる。
「……!?」
なぜ自分が?とおどろくヨーマであったが、マオに目隠しをされて英彦に棒を持たさせられてしまったので、結局トップバッターはヨーマという事に決まった。
そうして、これよりスイカ割りが始まろうとしていたのだが、
「ねぇーねぇー英彦っち。我が誘導してみたい!!」
……とマオが誘導役を行いたいと英彦にせがんできたのだ。
「んん~? しょうがないですね。いいですよ!!」
この時の英彦はこのマオが誘導役に志願することに何か嫌な予感がしていたのだが、誘導役を彼に譲ってやった。
さて、ここからマオの小悪魔っぷりが炸裂する。
実の妹でさえもイジリ、その反応を楽しもうというのだ。
「ヨーマ右だよ。右!!」
嘘である。その方向にスイカはない。
「そのまま5歩まっすぐに歩いて、そして少し右に!!」
嘘である。その方向にスイカはない。
「あっ、カニが前からこっちに向かってきてる。右に思いっきりジャンプして砂浜に着地するんだ!!」
嘘である。カニがこちらに向かってきてはいない。
「分かったよお兄様。とぉぉぉぉぉぉぉう!!!」
かわいそうなヨーマ。兄の言うことを信じすぎたばっかりに、海の中へとジャンピング。
飛び込んだ時に発生した飛沫でヨーマの服はびしょびしょに、そしてマオはそんな彼女の様子をアハハハと大笑い。
そして、自分が兄に騙されたと気づいたヨーマは恥ずかしさと怒りでこぶしを強く握ると……。
「『生命よ、我が慈愛の下に集え(ライフ・ギャザードアンダー・マイチャリティー)』」
謎の呪文を発動させた。
「あっ、ヤバイあの呪文は!!」
冷や汗をかき始める今回の元凶。
そんな現況に見物人である英彦は現況にあの呪文が何なのかを問いただす。
「あれは何の呪文なの?」
「あれは逆転移の呪文。周囲の生命を全て自分の周辺に転移させる。そして、あそこは海。マズいよ英彦っち。今のうちに大きく息を吸っておきな!!」
「大きく息を吸うって?…………」
しかし、マオの忠告もむなしく、息を吸う暇もなくマオと英彦の体は突然砂浜から消える。
一瞬の出来事に判断力が鈍りそうになる英彦であったが、自分の顔に当たる感触には覚えがある。
それは砂。そして海水。英彦いつのまにか水中に。
そうここは明らかに海の中。
ゴボゴボと口や鼻から空気が漏れ出す。
だが、幸運にも彼の足は届く。どうやら海水に浮いているだけの状態だったのだ。
彼が呼吸をするために立ち上がって、マオとヨーマを探そうとすると。
「お兄様聞いてますか? ちょっと聞いてますか?
水着着てないの忘れたんですか? ねぇーお兄様。グッタリとしてないで!!」
マオの首根っこをつかんだ状態でヨーマが彼の体を揺らしている。
一方で今回の悪戯の元凶であるマオは首根っこをつかまれた状態では息ができていないらしくグッタリと顔色が悪くなっていた。
それから、さらに数時間後。
もう時間は夕方。海に夕日が沈みそうな時間帯。
英彦は自分の能力でみんなの衣服を乾かしている。
そんな英彦を見ながら焚火で温まる兄妹。
みんなタオルで体を隠し、今か今かと衣服が乾くのをまっていたのだが。
兄妹は反省して体育座りの状態でぼんやりと焚火で燃える木の枝を眺めていた。
「なぁ、ヨーマ我も悪かったよ」
「確かに今回のは悪戯が過ぎますよ。水着を持ってきていないの忘れたんですか?
でも、まぁ、いつものことですし怒ってませんから……」
それよりも…………と兄妹は背を向いたままの英彦を申し訳なさそうにチラッと見つめる。
彼は先ほどから黙ったまま焚火に背を向けているのだ。
「これはまさか、激おこ状態なのでは?」
「やばいかも激おこぷんぷん丸なのかな?」
2人で顔を見合わせて不安になっている。
今回の悪戯では英彦は完璧に被害者枠なのだ。
誘導者でもないのに巻き添えを食らって海水へとワープさせられてしまったのだから……。
そんな不安に陥っている2人へ向けて、英彦はいきなり口を開く。
「花火1発最後にやりましょうよ!!」
すると、英彦は先ほどの悪戯についてはまったく気にしていないかの如く、片手におもちゃの打ち上げ花火を持っていた。
英彦達は自分たちの衣服が乾くとしっかりと着替えて、焚火の炎を消して別の場所へと移動する。
「それでは準備はいい?」
そして、英彦は砂浜に花火を置いて少し遠くから火を点火するつもりのようだ。
「「もちろんさ」」
マオとヨーマからの元気な返事を確認した英彦は自分の能力を花火に向かって発射する。
「『ファイアー』!!!」
その言葉と共に発生した小さな火種はフワフワと宙を舞いながら花火に点火。
導火線がだんだん焼かれて小さくなっていき、夜の空に花火が打ちあがる。
ヒュゥゥゥゥゥドカーン!!!!!!!!!
普通の花火大会で見るような大きな花火でもなく、数も1発。
だが、その花火は赤青黄緑と様々な色を見せながらキラキラと輝いている。
日もすっかりと落ちてしまった夜の闇の中に鮮やかな光。
その光景はなんだか美しく忘れられないものになりそうだ。
「きれいー小っちゃいけどー」
「きれい~小っちゃいけど~」
「きれいー小っちゃ……って僕が用意したのそんなに小さいかな!?」
1発しかない花火の光が消えて周囲は真っ暗になっている。
そして予想外に小さいと言われた英彦の心も暗くなっていた。
こうして、今回の旅行は終わりを告げる。
そして、みんなで花火の跡片付けをすませて、今は馬借のおじさんの下へ歩いている真っ最中。
坂を登っている中で英彦はふと呟いてしまった。
「これで盟友は終わりなんですね」
そうこれは盟友たちの最後の旅行。
明日、ヨーマとマオは旅に出てしまうのだ。
なんだか寂しそうに呟く英彦を元気づけようとマオとヨーマは考えたようだ。
「英彦っち、我らだって悲しいさ。でも昔から決めていたことなんだ。この旅でやらなきゃいけないことがあるのさ。我はね、君と再会できたあの日は本当にうれしかったんだよ? だから、また会おうよ。あの感情を再び味わいたいんだ。何年かかっても我は英彦っちとの再会を望むよ」
「妾だって命を救われたあの日から英彦っちと盟友になれて、そしてまた再会できたのはうれしかったんだよ? でも、お兄様の言う通り果たさなきゃいけない大業がある。
これからの旅でやらなきゃいけないの。本当は一緒にいたい。
─────英彦っち妾はね。英彦っちのことがお兄様と同じくらい“Te Amo”ですよ~」
2人からの励ましの言葉に胸を打たれた英彦。
しかし、ヨーマの台詞に気になる箇所があるらしく。
迫りよって質問してみることにした。
「マオさん、ヨーマさん。ありがとう……。ん?ヨーマさん翻訳をお願いします」
「ちょっと待て、ヨーマよ。なんて言ったの? 我にも教えて!!」
「いやですよ~~~~~!!!」
まったく……気づかない人たちだ。
でも、まぁ……これでいいのかもしれない。
意味も気づかないしょうがない盟友の2人。
ヨーマはニコッと小さく微笑むと、2人を残して先に馬車が止まっている場所へと走り出していった。
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こうして英彦達の最後の旅行は幕を閉じ、翌日の朝である出発の刻。
まだ人も起きる前の時間に英彦とマオとヨーマが国外へと続く門の前に集まっていた。
見送る者は英彦のみ、旅立つ者は兄妹のみ。
たくさんの荷物を持ったマオとヨーマは門を潜って国外へと出る前に、英彦を見ると別れの挨拶を彼に伝えてきた。
「じゃあな、盟友。一人寂しくてもボッチになるなよ!!」
「それじゃあね。英彦っち。いい加減彼女作ってね!!」
これは本当に別れの挨拶なのだろうか?
英彦は少しムッとしていた。
これは別れ際の最後の挨拶なのに、2人からは悪口を言われている気がしている。
しかし、英彦が2人の顔を見たら、悪口を言われて怒るわけにはいかない。
2人の目柱は熱くなって今にも大量の涙がこぼれ落ちそうになっているのだ。
おそらく、そのまま別れを告げると涙が止まらなくなるから、わざとらしく悪口を言っているかのように……。
そんな顔でこちらを見られたら………。
英彦は一度、地面の方を向き気持ちを整理してから2人の顔を再び見ると……。
「じゃあねシスコンのマオさん。あなたは頭が悪いから推理なんてせずに妹の言うことを聞けよ!!」
「それからブラコンのヨーマよ。あんたは運が悪いんだから余計な行動をして周りに迷惑をかけるなよ!!」
そうやってお互いに別れを告げあうと、彼らは固い握手を行った。
そして、盟友の顔を目に焼き付けると、涙をこらえながら口を開く。
「お元気で……」
「「……じゃあな」」
そう言ってマオとヨーマは自分達の重そうな荷物をドサッと背負いなおす。
その後は振り返ることはない。
兄妹はそのまま国外へと続く門をくぐって旅立っていった。
そして、英彦も振り返ることなく朝の町を歩いて帰っていくのだ。
その後、お互いが見えなくなった頃、地面に小さな雨が落ちていく…………。




