自分自身への弔い合戦
その頃、山上は事故があった現場を訪れていた。
先ほど、暴走したトラックが通行人に衝突したのだ。
しかし、彼は野次馬のように眺めに来たのではない。
しっかり息の根を止めたか、また証拠が残ってないかを確認するためである。
フロントガラスは血に染まって、辺りに散らばっている。
この車の状態を見た限り相手は死んでいるだろう。
だが、車の近くには死体はなかった。
それが山上にとっての悩みなのだ。
「何故…!? 何故死体がない」
側の草むらにもベンチの影にも何処にも死体がない。
死体がない。それはつまり………。
「生きているのか? あの状況で、あのトラックの勢いから逃げ切ったのか。やっぱりあいつは普通の一般人じゃなかった。何かしらの能力を持っているんだ」
山上は焦っていた。
自分で言うと自慢に聞こえそうだったが彼は紐を操ることには素晴らしい技術を持っていた。
だが頑丈に縛り動きを止め、さらにあのトラックのスピードからの衝突。
あれから逃げ切ったとすればそいつは強い。
それは山上自身が一番分かっていた。でも、山上は認めたくはなかった。認めることは山上自身の心の敗北を意味していたのだから。
「はぁ…はぁ…はぁ…。あいつは俺の紐から逃げた。自慢の紐から逃げ切った。落ち着け、実力はきっと多分俺の方が上に決まってんだろ。俺が負けるわけがねぇ。隠れてないでどっからでも来やが……………」
ガサッ。
突然微かな音がトラックの下から聞こえた。
しかし、山上は動じない。気になって下を覗く事をあいつは狙っている。誘っている。
そう考えたからである。
「ふぅわぁぁ〜。……………あれ?
ここはどこだ。確かブロードと話した後にそれから……どうしてたんだっけ。素晴らしい事があったのは覚えているんだ。でも、何があったのか思い出せない」
どうやらトラックの下にいたやつは寝っていたようだ。
山上は覚悟を決めた。
このトラックの下から出てきたときに決着を着けるという覚悟を………。
「考えても仕方ないな。その事は後で考えるとして、まずはここからでないと………。でもこれはなんだ?
前に壁ができてる。邪魔だな」
山上がトラックの下にいるやつを紐を使って縛りあげようとしたその時、トラックの下にいる奴はとんでもないことを言ったのだった。
「よし、この壁を壊そう。そうすれば出れるかもしれない」
「はっぁ?」
予想もしない解答に戸惑う山上。しかし、始末するのは変わらない。山上は奴を紐を紐で引きずり出そうとしたのだが……。
「必殺、『5円張り手』」
トラックの下にいるやつの張り手によってトラックが下から押し上げられた。
「エェェェェェェェェェェ!?」
山上の真上でトラックが宙を舞っている。
そうしてトラックは半回転をすると、山上の上に落ちてきた。
──────────────
俺はようやく自分が地面に横になっている事と自分の目の前にあったのが壁ではなくトラックだった事に気付いた。
「ありゃ!? トラック壊しちゃったか。さっさと逃げよっと」
上下が逆になったトラックを置いて俺は逃走を試みる。
さっき誰かの悲鳴が聞こえたような気もしたが、おそらく気のせいだろう。
このトラックを弁償しろなんて言われたらたまったもんじゃない。
現場から数メートル先に逃げた俺だったが、ふと足を止めて考える。
あれは夢だったのだろうか?
綺麗な美少女と友達になった。そんな夢を見たのだ。
そして、何であんな場所でトラックの下で寝ていたのか俺には記憶がなかった。
ブロードと話をした、そこまでは覚えていたのだけれど。
でも、夢だろうが現実だろうが、またいつか会える気がする。
「あれが現実かどうかは会ってから考えればいいことだ」
俺は今にも沈みそうな夕日を一度眺め、振り返らずに家に帰っていった。
次の日、黒が動物達と俺の見舞いに来てくれた。
正直言うとしんどく感じた。まさか動物達が俺の家に入ってくるとは思ってもいなかったのだ。
だが、黒はこれからは十二匹の動物の中から数匹だけを飼うことにしたらしい。
どうやら、客の中にこいつらの中から何匹か飼いたいという新しい飼い主が現れたようだ。
客が言ってきたということは、まさか仕事中に何かあったのだろうか?
とにかく、これ以上は嫌な予感がするので聞かないでおこう。
結局、その夜は動物達とのお別れ会を俺の家で行っておわった。
その頃、
「ニュースです。昨日町中で突如動物達が暴れだした事件ですが、原因はいまだに分かっておりません。警察は…」
突如ラジオが壊れた。
ここはどこかの研究室。
暗き部屋から機械の動く音が聞こえてくる。
そこには白衣を着た中年男性が怪しい機械の前に立っていた。
彼の見つめる先にはカプセルの中で謎の液体に入れられた若者がいる。
「ふふふふ。いいぞ息子よ。お前の出すオーラによって町にも影響が出てきた。さすが我が息子だ。お前の力なら八虐をも越えられる」
すると、突然危険アラームが鳴り始めた。
「なんだ? どうしたってんだ」
硬化ガラスにヒビが入り始め、中の液体が外に漏れだしたのだ。
そして、カプセルが爆発した。
「エェェェェェェェェェ。なんだ何が?」
黒い煙に写る影。室内に響く足音。
そして雄叫びも響いた。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。」
「エェェェェェェェェ!!!!」
それもうるさいほどに……。




