決闘の結果は?
時は夕方。
夕日が2人の王レベルを照らす。
決闘は終わり、戦いの場だった場所には2人の男女しかいない。
「──なぁ、俺は負けたのか?」
山上は紅葉に問う。
「勝敗は決められんばってん、戦闘面では負けとったばい」
紅葉は地面に倒れている山上の顔を覗き込みながら、彼に結果を正直に伝えてあげた。
「なぁ?
少しくらいよかった点とか言ってくれてもよかったんじゃないか?」
「そこまで甘やかしたりはせんわ。ほら、立てる?」
紅葉は地面に倒れたままの山上に手を差しのべた。
「おいおい、腹に大怪我負ったままのあいつでも立って去っていったんだぜ?
俺ができなくてどうするってんだ」
山上は地面に横になっていた体を起こし、ズボンや服についた土ぼこりを払って立ち上がる。
「ん? なんか、引き分けなんに嬉しそうな顔しとーね?」
「そうか? まぁ、俺とあいつはこれでいいんだよ。引き分けがちょうどいい。そりゃ決着はつけたいが、互いに喧嘩し合ってるのがちょうどいいのかもな」
山上の言い方的には勝敗など興味がないように聞こえる。
今、あれほど決着をつけたがっていた山上の面影は全くない。
「ふ~ん。ばってん、本当によかったと?
命令ば無視して見逃すような終わり方で」
「言ったろ?
俺が責任を取るってな。
確かに頭の固い王レベル達には叱られるだろうが……。お前や生徒会長や生徒会には迷惑はかけないよ。俺が判断したことだ」
そこまで山上が評価する男だったと言うのだろうか。
確かに彼は魔王軍幹部を倒した実力があるが、本当に山上の今後を左右するほどの命令無視を行っても責任を取る相手なのか。
紅葉にはあまり分からない。
「そげん責任ば取るって言うたっちゃ、本当にそげな何かが彼にはあると?」
「ねぇよ。あいつに何か特別な力があるわけがない。いや、あってたまるか。あったら俺が勝てなくなるだろうが……。
───それに俺はただ今までの借りを返しただけだ」
義理を通すってやつだろうか。
おそらく山上は命の恩人という借りを返したのだ。
これで山上と彼の間に貸し借りはない。
だが、紅葉だって命を救ってもらっているのだ。
「へぇ~借りを返す………。
ああああああ!!!
じゃあ結局うちゃまだ借りば返せとらんやんか。ズルいばい。うちもお礼したかったとに!!!」
山上は彼を見逃すという借りを返した。
紅葉は何もできていない。
もしまたどこかで会ったとしても、彼からの印象では決定事項を無視した彼を捕まえる役割の人。
つまり、町で会った場合、「あっ、あん時ん少年だ~」などと彼に話しかけようとしても、裁かれると恐れて逃げてしまう可能性大!!
紅葉も何か借りを返したかったのだが、これではしばらくの間借りを返せない。
「じゃあ、そろそろ俺は生徒会の仲間に挨拶してくるから、ここでお別れだな紅葉。世話になった。それじゃ!!」
これ以上、何か言われるわけにはいかないと、山上は早口で彼女に別れを告げて、その場から走り去っていく。
「抜け駆けしやがったぁぁ!!!
山上しゃんなズルいばい。待てぇぇ!!!」
紅葉は結局どうすればいいか分からずに、ただ山上を追いかけて知恵を借りる以外の方法が思い付かなかった。
病院の門を走り出る男を追いかける女。
「待てぇぇぇ!!! 相談にのってくれぇぇぇぇぇ!!!」
紅葉は梅重色の髪をなびかせながら、うるうるとした目で山上を追いかける。
その2人を夕日は平等に照らしていた。




