死神さんには友達が少ない
「う~ん。あと、10分いや20、30分寝かせてくれ。疲れてるんだ。朝から嫌なことばかりでな。じゃあおやすみ……………。ん?」
俺は目が覚めるとそこは暗い場所だった。
「これは死後の世界か? それとも俺の頭の中?」
前にもこんな経験をした事があった気がするが、ここはいったいどこなのだろう。見たこともない場所だ。
俺が周囲を観察していると、突然どこからか声が聞こえてきた。
「お疲れさまでした。明山さん。いや明山さんではない魂? どっちだろう?」
謎の声は俺がどっちなのか悩んでいる。
確かに、俺と明山は肉体は同じでも中身が違う。
それを当ててしまうということは、この声の主は何者なのだろう。
だが、どこからか聞こえる声と俺はコミュニケーションをとってみる事にした。
「あっ、ややこしくなるのならすみません。明山でいいです」
「そうですか。では明山さんお疲れさまでした」
すると明かりが差し込み始め、辺りが照らされる。
ただの暗い場所だと思っていたのに、そこはどこかの教会だった。
そして俺の目の前には青色の長い髪と目の美少女。
年は少女くらいの若い女性だが、俺は彼女との面識はない。
「まさか、あなたはサキュバスですか?」
これが生まれ変わった後の世界なら、神様は本当に俺の願いを聞いてくれたのだ。神様ありがとう~!!!
きっと彼女はサキュバスなのだろう。
しかし、その美少女は手に持っていた大鎌を取り出した。
「やだなー明山さんそんな冗談はよしてくださいよ!!!」
「…………!?」
そして彼女は大鎌を俺の首を落とすかのごとく横にふってくる。
危うく首を取られそうになった。
サキュバスではないのか?
サキュバス扱いしたことに怒っているのだろうか。
それにしても、初対面の相手に鎌をふるってくるとは恐ろしい女性である。
「──さてと自己紹介しますね。私は死神。死後の魂がさまよわないように導く仕事をしています」
死神?
死神ってもっと骸骨感があると思っていたのだが、目の前にいるのは美少女。うん、サキュバスじゃなくてもかわいい。
「えっと………。死神さん? それとも仕事が死神ってことなの? あと、サキュバスなんて言ってすみませんでした」
死神は大鎌を置き、指を鳴らす。
すると、突然目の前に机と椅子が現れた。
もちろん俺用の椅子と机ではない。死神は自分用の椅子に腰かける。
「いいですよ。気にしてませんから。私は〈死神〉。名前なんてありません。生まれた時から死神と言われています。なので、これは大切な名前。皆さんから頂いた大切な名前というわけです」
なんだか心優しそうな死神である。
ほんと、死神ってこう………髑髏なイメージなのだが、こんな美少女だとは思わなかった。俺の頭の中にインプットしておこう。
しかし、俺の目の前に死神がいると言うことは俺はあのとき死んでしまったのだろうか?
えっ…死んだ…死んだ…死んだ?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!」
ショックだった。死んだのはショックだった。
死神は慌ててパニックになっている俺に向けて落ち着くように言ってくる。
「明山さん落ち着いてください。死んだのは辛いことです。ですが、あなたにお話があるんです。お願いです。落ち着いてください。」
「はい、落ち着きます」
「いや、逆に落ち着くのが速いです」
「俺は死んだんだな。心臓も動いてないし………。なあ、俺はどこに連れていかれるんだ」
諦めた顔をした俺に死神は優しく答えてくれた。
「それはあなたが決めることです。これまでもこれからもあなたが進む道を決めるんです。なので心配しないでください。あなたはあの人のミスによってあの世界に送り込まれてしまった。その罪を償う義務が私たちにはあります。どんなことでも一つ言ってください。私が叶えますので」
願いを叶える。死神はそう言った。
「本当に俺が決めていいんですか?」
俺の望む願いを叶えられるなんて………。
それなら話は決まっている。早く元いた世界に、あんな異世界ではなく平和な日本に………。
「では、死神さん。俺が叶えて欲しい願いは………願い事を二つ追加させてください。」
別にそれくらいの欲をだしても別にバチは当たらないだろう。
「二つ…………二つですか? 分かりました。いいでしょう。では二つ目の願いは何ですか。明山さん。
お金ですか? 不老不死ですか? それとも元の世界に戻ることですか?」
もちろん、そんなのは決まっている。
俺は歩いて死神の元へ近づき二つ目の願いを言った。
「俺と友達になってください」
「えっ…!?」
そりゃそうである。
いきなり友達になれだの言われたら驚くものだ。
しかし、このときの俺は本当に友達になろうとしていた。
元の世界に戻るにはまだこの世界を楽しみきれていない。
なんていう、俺の気まぐれの願いだったが。
「私があなたと友達にですか?」
死神はうつむいてそう答えた。
やはり、いきなりはまずかっただろうか?
「いやすみません。いきなりこんなこと言われたら困りますよね。分かりました。今のは無しでお願いし………」
「その……………私でよければ友達になってください」
死神のその表情は満面の笑顔だった。
逆に本当に良いのか聞いてしまう。
「えっと、いいんですか?」
「はい、もちろんです。そんな事より私は死神なのにいいんですか? 友達になっても…………。こんなことあるんですね。友達作りなんて私には一生起こり得ないことです。こんなことが…………。」
確かに、彼女は死神。
彼女にはたまに来る死者しか話し相手がいない。
彼女には友達と呼べる相手がいない。
何故なら死神だからである。
魂をあの世の世界に導く者、死神。
だから、俺は友達になりたかった。
昔、小学生のときにいつも放課後に一人遊んでいた一人の同級生。
あの時は声をかけてやれなかった。
しかし、同じ思いはもう一度したくない。
そう思っていた事が俺を突き動かしたのだ。
………という理由もあるが、気まぐれという理由もある。
「明山さんありがとうございます。私なんかと友達になってくれて。
でも、あなたには大切な仲間がいます。
あなたがここに残ってずっと私と友達になっていることはできません。
なので、明山さんは生きてください。
そして、もしあなたが死んで後悔した時、この最後の願いはその時のために取っておかせてください」
死神さんは笑顔で言った。
「ちょっと死神さん。いったいどういうことですか?」
まただ。どうしてあの世系の者は話を聞かないのだろう。
俺は願いを決めていたんだ。
俺はまだもう1つの願いを叶えてもらっていない。
チート能力もらってない!!!
すると、そんな思いとは裏腹に俺の体を天からの光が包み込み始めたのだ。
なんだかこの光は懐かしい。
「これは友達へのイタズラです。
あなたはまだ私に会うべき時ではありません。生きて自分の運命を乗り越えて行って下さい。さあ、あなたの仲間がきっと待っていますよ。私と友達になってくれてありがとう明山さん。私はあなたを見守っていますよ。会えてよかったです。異世界からの…………」
彼女の台詞は途中から聞こえなくなった。そこで俺の意識は遠くなっていったからである。




