開戦宣言
数分後、王女様と側近と三原と大楠が遺跡から出ると馬車の前で1人の子供が帰りを待っていた。
その子供、赤髪でメガネをかけており、背が小さくカジュアルな雰囲気の花色の服を着ている。
だが、側近にはこの子供が誰かは分からない。
知らない子供が彼らの帰りを馬車の前で待っていたのだ。
「誰だ。き……君はこんなところで何をしているんだ?」
側近はその子供に怯えながら尋ねる。
すると、その子供は側近に危害を加えることもなく、笑いながら自己紹介を語り始めた。
「僕っちの名は『真円雲仙』。
王レベルの付喪人で図鑑の能力持ちの天才少年さ。よろしく~」
少年?
側近の目に写るのはどう見ても女の子。
側近は自分の目を疑い、視点をハッキリさせようと目をパチパチとさせている。
まるで自分の目がおかしくなったとでも思っているのだろうか。
すると、真丸は自分が側近にどういう風に見られているか分かっているようで、不満そうに睨みながら側近に話しかける。
「もしかして、疑ってるのかい?
ガッカリだな~。せっかく三原さんに呼ばれて鏡の中から現れたというのに」
「夜分遅くに呼び出して悪いな。
だが、貴様の推理も聞かせてもらいたい。急用だ」
「もちろんさ。戦闘面じゃないことなら喜んで僕っちも協力させてもらおうじゃないか。
それよりも………」
真丸は三原の発言に笑顔で返事をした後、チラッと王女様の方を見る。
「あなたが王女様だね。噂に聞く以上に美しい人ですね。さぁ、行きましょう僕っちが馬車にお連れしますよ?」
「あっ、はい……」
王女様の了承を得た真丸は彼女の手を握りながら、馬車へとエスコートを行う。
それはもう同年代の仲のよい男女のようだ。
そして、その後を追うように馬車へと乗り込む三原。
だが、側近は真丸と王女様が仲良くしているのが気に入らないようで、
「あのクソガキ王女様に……。無礼者めぇぇぇぇ!!!」
…と歯をキリキリと流しながら彼を睨み付けている。
だが、そんな側近へと声をかける者が1人。
「ほら、速く。何してるんですか?
年下の子供相手に嫉妬してるってこと城内のみんなに言いふらし、SNSに投稿しちゃいますよ?」
大楠は片手に自身のスマホを持ち、側近のことを脅している。
「あっ………はい……………」
すると、さすがの側近もそんなことをされてはいけないと考えたようで、黙って大楠に言われた通りに馬車へと乗り込むのであった。
馬車は王都へ向かいながら走り出す。
ラジオでクラシック音楽を流しながら優雅に颯爽と走る馬車。
そこに乗っているのは王女様、側近、大楠、三原、真丸の5人と馬借さん。
揺れる馬車内で5人は今回の出来事について反省会を行っていた。
「──結局、どうなってしまうのでしょう」
側近は結局どうすればいいのか分からずに、不思議そうに呟く。
「私がもっと速く来ていればこんなことにはならなかったかもしれませんね」
そして、王女様は自分の代で中身を封印しなおす事が出来なかった事を悔やんでいる。
そんな2人の隣で必死に推理している3人の王レベル。
彼女らはまだ諦めてなどいないのだ。
「しかし、おかしいですね。そもそも、瓶内はまだ少し液体で濡れていた。
液体の中に封印されていたとしても、少しずつ液体ごと運び出した?」
「あり得る。だが、餌付けしていた奴がそれに気づかぬわけがない。奴も本当にあそこにいると信じきって話していたしな。吾はそう思うぞ」
「ん?
そもそもあの黒い存在が警備を殺したとしたら、なぜ連絡を取れなくした後に1日明けて殺したのでしょう?」
三原と大楠は頭をひねらせて推理しようと試みていた。
そんな中、1人が頭の中にピンッと考察が浮かんだようで4人に向けて自分の推理を語り始める。
「僕っちの推理だと……。
警備が殺された今宵の間に運び出したとか。
そうすれば、警備にバレることなくさらに戦闘に集中している黒い存在にも気づかれない。
真犯人はあらかじめ封印の日にちを決めておいて、奴に伝える。
奴は事前に復活の儀の邪魔になる者を消す」
「真犯人ですか?」
王女は推理に少し疑問を浮かべながら、真丸の話を聞く。
「そう、そして君たちを数にいれたのはおそらく数日前までストックが減ったことに気づかなかったからだろう」
「そういえば、三原との戦いで自分のストックをとったのに気づいてませんでしたね。つまり、真犯人は事前に何個かの魂を抜いておいた?」
「その通りです王女様。
黒い存在との協力者関係の真犯人が中身を奪うために仕込んでおいたんです。
ただ残念なのが真犯人の正体までは分からないということですね」
王女様も真丸の推理を聞いて色々と謎を解き明かすことができたようだ。
だがその時、
馬車内に取り付けられた小さなラジオから音が聞こえてくる。
何かのラジオ番組が始まったというわけではないらしい。
先程までのクラシックスタディオというラジオ番組が急に流すものを変えてしまったのだ。
「全国民に継ぐ。全国民に継ぐ。天乃四霊。
我らは魔王同盟。繰り返す我らは魔王同盟。
今宵より1週間後。我らは同士の敵討ちとし君たちを我が世界まで送り届けよう。出迎えは天乃四霊。我らが消えるか貴様らが消えるかである………」
ポチッ。
馬借はチャンネルを変えてみるが、音声は変わらない。
どうやらすべてのラジオのチャンネルを乗っ取られているようだ。
それでも音声はひたすら流れ続ける。
「………ただし戦争を回避させる方法はある。鍵の獲得候補者を差し出せ。獲得候補者を差し出せ。さもなくば、挑む者迎え撃つ者を殺す。
刻は1週間後である。
戦争を始める。戦争を始める。戦争を始める。……………………………」
そこでハッキングは終わり、ラジオ番組は元通りいつもの内容を流し始めた。
魔王軍がついに動きを見せ始めたのだ。
各組織の全面戦争。
不穏な雰囲気は平和な国内へと迫ってきている。
戦いは1週間。
最終章は刻一刻と彼らに近づいているのだ。




