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三原と大楠と黒い存在

  時は現在に戻り王女様達に移る。

王女様の目の先に見えたのは巨大な水瓶のような物体。

さまざまな紋様や古代文字が彫られた巨大な瓶がドンッと広々とした空洞の中に4人の人間は迷いこんできたのだ。

周囲を確認してみると、コロッセオのように囲いが築かれている。


「これが終末の瓶……初めて見ました」


「見たところ、問題はなさそうですね王女様」


王女様と側近は終末の瓶を見ながらそのスケールに圧倒されているのだが、護衛の2人は何か思うことがあるようだ。


「なんだか匂いますね……」


「貴様も思うか? 吾もだ。先程から鼻に匂っておる」


鼻で匂いをスンスンと嗅ぎながら、辺りを見渡す2人。

その2人の様子を見て自分のワキや服の匂いを確認する側近。


「─お前ら、何も匂わないじゃないか?」


きっと匂うと言われるほど臭くはなかったのだろう。

しかし、2人が言っているのは側近の体臭の話ではなかったようで、


「「お前のではない。黙れ!!」」と口を合わせてキレられてしまった。




 周囲を見渡しながら、警戒する王女様と側近。


「──血の匂いだ。それも1人ではない。

やはり、この場に吾ら以外の誰かがいたな。

フハハハ、実に愉快ッ!!」


「─何が面白いんです? はぁ、やれやれですね。あっ、王女様…私の側に身を隠してください。危険ですから」


女性の護衛に言われた通り王女様は彼女の背中に隠れる。

すると、物音1つしないはずの空洞内からはどこからか小さな小さな呻き声が聞こえてきた。

苦しそうな呻き声。

その声を耳にした王女様はいてもたってもいられなくなって、女性から離れて声のする方へ行こうと走り出す。


「呻き声が聞こえました。誰かが助けを求めてます。行きましょう!!」


1人で勝手に声のする方へと走り出した王女様。

その姿を見て側近は慌てて戻ってくるように伝えようとする。


「王女様!?!?!?

危険ですからお戻りになられてください」


しかし、王女様は側近の必死の訴えに耳を貸さずに走っていく。


「このままじゃ、助かる命も助かりません。助けを求めている者がいるのに、助けないなんて選択肢はありません」


王女様は必死に声のする方へと走る。

だが、それはまばたきも出来ない程の一瞬。


「───死ね。」


振り返った王女様の後ろには既に謎の黒い存在が心臓を突き刺そうとしていた。




 勢いよく地面を蹴る音。

側近が横を振り向くと、先程までそこにいたはずの護衛の女性がいない。

どこだろうと思い、側近が王女様の方を見ると……。

その目に映ったのは、脚力だけで地面を走らずに黒い存在に近づいた女性。

ここから王女様までの距離は20mは離れているはずだ。

彼女はこの距離を一蹴りで蹴り跳んだとでも言うのだろうか。


「首を断つ」


彼女は刀を鞘から抜くと、今にも王女様に襲いかかろうとしていた黒い存在に斬りかかった。




 ボトッ……!!!

黒い存在の首が地面に落ちる。

それと同時に王女様に襲いかかろうとした体の方も地面に落ちる。


「我の首落ちき。何故落ちき?

なんぢは何者なり?

何故落ちき?」


首を落とされてもなお、黒い存在は自身を見下ろしている女性を見る。

薄紫色のツインテールに眼帯をかけた紅の瞳の女性。

黒い存在はその顔を見てさらに首をかしげている。

どうやら、奴は自分でもいつ首を斬られたか分からなかったらしい。


「私の名前は『大楠巳汝おおぐすしなれ』。覚えておきなさい。私は貴女のご主人様なんだからねコブタちゃん。

いや、王女様に触ろうとする奴に生きてる価値なんて無いか……」


見下すような目で黒い存在の首を見つめている大楠。

そのまま彼女は奴に向かって微笑した後、首を思いっきり踏みつけた。

黒い存在の首を靴底で磨り潰した後、大楠は王女様の方を向いて、笑顔で彼女の頭を撫でる。


「───よし、王女様お気をつけください。このように危険な場所なので」


「──はい………」


大楠は別に王女様の行動を責めたりはしない。

彼女の優しさには敬意を評すべきだ。

しかし、王女様の優しさには自分への優しさが入っていない。

側近もみんなみんな、彼女のそんな性格が心配なのだ。




 さて、そうやって王女様と大楠が話をしている間に側近は呻き声が聞こえてきた場所へと行ってみることにしたようだ。

終末の瓶の裏から啜り泣くような小さな声が聞こえる。


「───こっ、王女様。こっちに来ては行けませんよ。絶対来ては行けません」


顔面真っ青で目線の先を見つめる。

その様子から見ても明らかに何か異様な物を見ている。

何かを察した大楠は、王女様の頭を再び優しく撫でると、もう一人の護衛の男に王女様の警護を頼む。


「おい三原。ちょっと王女様の側に居てやってくれ」


「よかろう傾奇者よ。吾の側に寄れ」


紫色で後ろ髪を縛った男性。

彼は黄色のシャツを着て、金銀財宝で出来たアクセサリーを身につけている。

その目付きは悪く、頭には青い角を持っている。


「まったく…………。くだらん催しだな」


そんな謎の男性はその細い目で王女様の顔を見た後、そっぽを向いたまま静かに手招きをする。

決して、王女様を甘やかそうとはしない…という態度だが本心は甘やかしたいのだろう。


「──あの、こんな事に巻き込んですみません。ですが、王族の使命の1つなのです」


だが、王女様のその発言が三原の心を素直な方へと動かした。


「構わん、まだ幼い貴様に罪など無い!!

それよりは傾奇者達の方を見るなよ。あの光景は貴様の目にはまだ汚れているからな」


そう言って王女様に話しかける三原の右手には小さな鏡が…。

どうやら、三原は鏡の反射を駆使してその光景を見ているようだ。




 さて、その光景とは……。

心臓に穴を開けられてもピクピクと脈打っている21の死体達。

いや、正確には死んでいない者もいるが関係なく山のように摘まれている。

下の段に連れて既に亡くなっているようだ。

彼らは確かこの場所を警備していた騎士レベル達。

生きているみんなは心臓に穴を開けられても小さな虫のように呼吸を行っている。


「ヒュゥ…ヒュゥ………」

「ヒュゥ……」

「ヒュゥ…ヒュゥ…ヒュゥ」


蝿が集り、下の既に亡くなられた方にはウジが集る。

彼らの顔は青ざめて負の感情を出し尽くしたまま魂を引き抜かれている。

もってあと数分といった所だろうか。

その光景に脅える側近と哀れむ大楠。


「──すみませんでした。私たちがもっと早く駆け付けていれば…」


「大楠さん……」


彼らに手を合わせて合掌する大楠を見た側近は、脅えてしまった自分を責めるように再び彼らを見る。

そこにあるのは最近まで我々と同じだった者達。

山のように積み上げられて、ボロ雑巾のように捨てられてはいるが、彼らは痛みに泣いた人間。

大楠は彼らの方に刀身を向けると、


「───痛みは2度続くかもですが、その後は楽になりますからね。ご冥福をお祈りします」


目をつぶり頭を下げる大楠。

そして、目を見開いたかと思うと、大楠は中央の段にある人間に切り傷を与える。




 大楠巳汝は重りの付喪人。

数メートルの範囲に彼女が傷をつけた相手がいた場合、相手の重力を何十倍とあげてしまう。

下手をすれば死人が出るし、遺跡が壊れる可能性もあるが、今回は瞬時に完璧に殺してあげなければいけない。

だから、今回は瞬間的に絶命させる。


「───」


大楠が能力を使うと、腐肉の山はまるで1枚の紙のように圧迫される。

血は池のように土を濡らし、地には大きなクレーター。

大勢の被害者は死ぬ。

1人の被害者はその罪を背負う。

だが、1人の被害者は大勢の被害者の仇を討った。

それが今回得た問題の結果。


────────────


だが、それだけでは終わるはずもない。

全てが解決したはずの遺跡の奥に更なる脅威が現れる。

死を経験してもなお、奴の心臓は鼓動をやめない。

いや、鼓動は初めからなかった。

とりあえず、正確に言うとそれは既に生物ではないので心臓はない。

生きてはいないが生きていると言うモノだろうか。

奴は自らが“アレ”に捧げる為の貢物を喰らい、現代に存在する。

すべては過去より存在していた。


「───さだめて会ふべし。

かの御方復活させて自らの肉体を呼び戻してもらふべきなり。恨めしき恨めし」


奴はたった今でも深淵の中で刻を待つ。

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今回の話もどうかあなたの暇潰しとして役にたちますように…。 気に入っていただけたら是非評価でもポチッと押していただけませんでしょうか。モチベーションに繋がりますので…。星1でも構いません!! ★これ以外の作品☆付喪神の力で闘う付喪人シリーズ
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