尋問っていうのは苦手です。
場所が変わり、ここはとあるビルの屋上。
そこには二人の男がいた。
一人は紐で縛られ身動きが取れずにおり、もう一人の男は手から出ている紐でその男を縛り上げている。
縛られているのは元八虐であるブロードである。
「では、質問だ。あの事件を起こしたやつは八虐の中にいるか?」
男はブロードに向かって質問を始めた。
しかし、このまま素直に返答するようなブロードではない。
「落ち着けよ。お前が、関係ない一人の命を奪うほど八虐を憎んでいるってのは分かった。だが何事も勢いで行動するのは良くないぜ。それはお前への破滅となる」
「おいお前。なんで話を流そうとしてるんだよ。あと、お前キャラ変わったか?」
「何をいってるんだバカじゃないか? グハッ!?」
反論しようとしたブロードを締め付ける力が強くなった。
彼は今、拷問を受けている。魔王軍幹部である元八虐の彼が情報を言えと脅迫されているのである。
「いいから答えろ。あの事件を起こしたやつは八虐のやつか?」
「ああ、そうらしいな」
適当な返事に怒った男はさらにブロードを締め付ける力が強くする。
「らしいだと? てめぇ俺の事を甘く見てやがるな」
ブロードは苦しそうだった。呻き声まであげている。
「おい、黙ってないで何とか言ってみろよ」
「ぶ…っ…ぶっぁは。言えねーよ。お前の紐が首の方にずれて絡み付いたんだよ!!!」
「それはすまねぇ。」
なんと、先程の締めを強めたことでブロードの首に紐が絡み付いてしまい。
呼吸ができていなかったのだ。
さすがの男もそれには少し負い目を感じてしまったようで、ブロードとは目を合わせずに少し紐を放す。
すると、ブロードを締め付けていた紐が緩くなり、残すは手足だけになった。
さて、これでブロードから口を割らせる準備はできた。
「えっと……何で、らしいなんだよ」
ブロードは男からの尋問に先ほどまでの怒りをこらえて返答する。
「俺達八虐は私生活を仲間に見せるようなことはしない。簡単に言うと会社のイメージだ。プライベートは個人の物で、仕事は仕事。だから八虐にお前の探しているやつはいるかも分からない」
「そうか。」
その男は少し残念そうな表情を浮かべる。
やっと手がかりを掴んだ。
そう思っていたのに期待した返答はこれだ。
男の名は、山上 俊。紐を操る付喪人。
彼は国市高等学校の2年生。高校では生徒会副会長として、また付喪人としても活躍していた。
彼が事件の犯人を探すきっかけとなったのは………。
中学2年生のある日、家族は殺されてしまったからである。
その日、部活で遅くなり帰宅すると。彼が帰ってすぐ見たものは血に染まった玄関のマットであった。
中に入ると異臭がした。家中を探しても父は見つからず、リビングにいた血まみれの母は彼を、最後の力を振り絞って抱こうとし、何かを言おうとした時に内部から破裂した。
その瞬間、彼は気を失った。
気がつくとバイトから帰って来た兄が自分を心配そうに見ていた。
それからというもの彼は復讐のために付喪人となり果ててしまう。
だが、犯人の正体を探したが見つかることもなかった。
彼は必死に犯人を探しまくっていたので人との交流を避けていた。
中学生時代の後半を全て犯人探しに使っていたのだ。
そのせいか。
他者との喧嘩沙汰はしょっちゅうあった。
いかなる方法を使ってでも復讐を遂げようとする彼を皆は恐怖に感じていた。
そんな彼を復讐の鬼から救ったのは、小学校からの同級生であった一人の友である。
彼はその友に助けられ少しずつ復讐の鬼から解き放たれていた。そして彼は復讐をしようとは思わなくなった。
あの犯人が八虐だという噂が流れるまでは……………。
こうして、山上の回想は終了する。
すると、山上の中になにかを感じたブロードはうっすらと笑みを浮かべながら話しかける。
「だが、もしかしたら八虐やその他の組織にその犯人がいるかもな」
「ああ、だから俺は犯人を今でも探しているんだ」
犯人への復讐の人生か。
ブロードにとって、この山上という男は別にどうでもいい人間なのだが、復讐の人生というものには少々興味があるようだ。
「これからどうするつもりだ? お前」
「これからも犯人を探していくさ」
「そうか。ならこうして俺を縛ることもないだろう。いい加減ほどいてくれないか?」
「チッ、いいだろう。ほどいてやる」
山上は少し残念そうに舌打ちをすると………ブロードの体に巻き付いていた紐をほどいた。
ブロードはやっと解放されたのだ。
彼は両手を空にあげて背伸びをする。
「あー、やっと解放された。いやー、よかったよかった」
そう言ってブロードは立ち上がり後ろ向き歩いていく。
その後、なんと鉄格子から身をのりだし始めた。
「おい、お前なんのつもりだ? 落ちちまうぞ?」
ここから飛び降りなんてしたら死んでしまう。
そう思った山上はブロードを心配して声をかけたのだが……。
「…………………フハハハハ。お前は復讐を諦めた方がいいな。いやー甘いなー。敵に情けをかけるやつがあいつを倒せるわけがない。だがお前の頑張りに敬意を払ってやろう。お前にヒントをやる」
その言葉を聞いて山上は気付いた。
自分がブロードに騙されていたということに…。
「まさか、お前あの犯人を知ってるな。知ってて黙ってたな。情報を漏らさないために…………」
「ああ、だが正体は教えない。その代わりのヒントだ。いいかよく聞けよ。やつは八虐という噂は確率が高い。真実かもしれない。八虐にもいろんな奴がいるんだ。人と仲のいいやつもいれば、人を殺しにかかるやつもいる。そんな奴らが集まって八虐としてやってきているんだ」
「だからなんなんだよ。いい加減本題に入れよ!!!」
「その八虐だが、普通の仕事みたいにノルマがある。それは毎月魂を集め、返上することだ。
これは八虐全員のノルマであって魂を集めたくない奴は他のやつに集めてもらえばいい。
これがヒントだ」
「つまり集めたくないやつの分も集めてるやつがあの事件を起こした犯人かもしれないということか」
「ご名答、ではじゃあな」
ブロードは別れの挨拶を済ませると、鉄格子から飛び降りた。
彼の体は地面へと落ちていく。
「バッ、バカ野郎!?」
山上がブロードを助けるために鉄格子に手を差し伸べよう下を向いたのだが………。
そこには何もなかった。
ブロードは消えてしまったのだ。




