トラックや干支でも暴走したい
「まるで釣られた魚のようにブロードが消えちまった。まさか敵か? あいつが元八虐だから仇討ちでもしに来たのか」
そうだとしたら、もしかしたら近くで話していた俺を狙ってくるかもしれない。
仲間だと思われて狙ってくるかもしれない。
「いや流石に考えすぎだよな。だって俺はあいつの仲間ではないしな。仕方ないあいつは見捨ててこっそり帰るか…。」
ブロードピークなんて放って家に帰ってしまおう。
そう思ってその場から離れようとすると。
その時だった。どこからか糸が俺を襲ってきたのだ。
現れた糸は俺の腕や足を縛りあげてくる。
これじゃあ帰る事ができないどころか、身動きが取れない。
「完璧に敵は俺があいつの仲間だと思っているってことか。見たところ敵は糸を操っている。
これはまずいぞ!!
アニメとかマンガで糸を操っている奴って雑魚はいないんだよな。ほとんどが強キャラなんだよな~」
幸いこの公園には誰もいない。恐らく敵は俺をこの場で殺すために身動きを取れなくしたのだ。
目撃者もおらず、不自然死として俺が暗殺されたとも知らずにみんなが悲しんでしまうかもしれない。
それはなんだか悲しいものである。せめて、暗殺の仇くらいはとって貰わないと成仏できない!!!
「俺の目の前に現れて首を跳ねてくるか? 刺し殺しに来るか? それとも別の方法か?」
俺の額を冷や汗が流れ落ちる。俺は死を目前にして焦っているのだ。
何とかして誤解を解きたいが敵がどこにいるかも分からない状況。
「おい待てよ。俺はそいつの仲間じゃないぞ。仇討ちなんて止めて俺を離してくれよ。」
しかし、返事は返ってこい。話くらいしてもいいと思うのだが。
それほど敵は八虐が憎いのだろうか?
しかし、まさか八虐だという疑惑を懸けられるとは今日は不運な日だ。
朝はうちの店を動物だらけになるし、元八虐に神話を三十分近く聞かされた。
そして今、俺は殺されそうになっている。
────ならこっちだってやってやる。
俺の目の前に来た瞬間、俺の小銭で狙撃してやる!!
一瞬、微かに聞こえた糸を引く音。
しかし、その音よりも大きな音により糸を引く音はかき消されてしまった。
俺の後ろから聞こえてくる大きな音。
それはいろいろな所にぶつかりながら俺に近づいてくる。
俺は何が向かってきているか気になったので、後ろを振り向いてみると。
なんと、それはトラック。
無人のトラックが俺の方に近づいてきたのだ。糸に引っ張られてトラックが動いているのだ。トラックが迫ってくるなんてなんだか懐かしいが、身動きが取れない状況では避けることもできない。
「うわああああああ!!!
いや終わったなこれは。何か懐かしいぜこの感じ。
ふっ、せめて最後に言い残した事を叫ぼう。俺の願望、野望? 願いか。とにかく叫ぼう」
もうこの距離では紐を切断したとしても間に合わない。諦めるしかない。死ぬ覚悟は出来た。もう、この願いが神に届くなら俺は本望だ。
「次は学校もなく、仕事もない楽な世界で、サキュバスがいるような世界にしてくださぁぁぁぁい」
こうして、俺は再びトラックに弾かれてしまった。
───────────────
一方その頃、付喪カフェでは、
「あっ、靴紐が切れた」
英彦はバイト中に自分の靴紐が切れてる事に気付いた。
まだ新調したての靴だったのに、紐が切れるというのは不思議である。
「何か不吉な事でも起こったのか」と英彦が首を傾げていると。
「英彦ーこっちを手伝ってよー」
「こら、待ておとなしくしろ」
黒の助けを求める声が聞こえてきた。
英彦がその方向を見てみると、店内で黒と妙義が慌てて動物達を追いかけまわしている。動物達が突然逃げ回ったのだ。
「これはまずい!!!」
慌ただしい中で英彦は店内にいたお客さんへの謝罪をして店内から避難させている。
店内を走り回る動物達とパニックになる客達。
すると、一匹の猪がまだ避難していない一人の客のいる方向に突っ込んでいく。
英彦は客をかばおうとしているが距離的に間にあいそうにない。
しかし、その客は向かってくる猪に気づいてない様子で、席に座りのんびりとコーヒーを味わっている。
「このコーヒー。じつに素晴らしい味…………ッ!?」
猪との距離があと数メートルという所でようやくその客は自分に猪が向かってきている事に気付いたようだ。
「獣が私を狙っている。逃げなければ逃げなければならない!!」
その客が猪から逃れようと席から立ち、逃げようとして見た方角がその客の運命を決めた。
足元には犬がいた。それも柴犬である。かわいい柴犬を彼は一瞬見とれていた。それがいけなかった。
猪との距離が更に近くなって、猪からの突進を受けることになるのだ。
あの客が怪我をしてしまう。
英彦は不安になりながらも祈るように叫ぶ。
「お客さーん!!!!!」
すると、その客は猪を睨み付ける。
店内に一瞬だけ広がる殺意と支配の威圧感。
その結果、睨み付けられた猪は威圧されて突進をやめた。
その猪につられてか、周りで走り回っていた動物達も動きを止める。
その客は白髪の髪をかき、憂鬱そうに愚痴をこぼし始める。
「うっ。全く今日は不運な日だ。朝は遅刻しそうになり、ここのコーヒーが飲めなかったから会社からの帰り道に、コーヒーを飲みに来たらこんなことになるとは…。私の幸せな時間がこの畜生どもによって汚されてしまった。私の今日のストレスが溜まりに貯まってしまった。はぁー」
「お客様大丈夫ですか?」
英彦が怪我がないかとその客の元へ駆け寄る。
「あっ、いや大丈夫だ。それより早く捕まえてくれないか。これ以上暴れられたら皆が危険になってしまうからね。では今日は失礼するよ」
その客は何事もなかったかのように、外へと走り出し去っていった。
そうして動物達もおとなしくなり、店内に平穏が訪れたのだ。




