金剛vs大楠母
その頃。
ここはシュオルの町に近い上空。
巨大な空中戦艦が宙に浮いて、町を目指していた。
「目的地周辺に到着」
「これより、離陸準備を開始します」
操縦席では、20人ほどの操縦員がさまざまな機械の並ぶ操縦室で作業をしている。
それを見つめる1人の少年。
彼は茶色のローブを被っており、顔を見ることはできない。
そして、その隣には体が穴だらけのスポンジの付喪神。
「ここがシュオルの町か」
少年の心は期待と不安の中で揺れ動いている。
そんな時、2人の男女が操縦室に入ってきた。
「何を心配している?
何も心配することはないはず」
黒紫色のフードローブを着たサングラスの男が少年に声をかける。
「いえ、金剛さん。シュオルの町なんて初めて来るので……」
「期待するのもいいが、あまり面には出さない方がいいぞ。魔王の幹部が嘗められてはいけないからな」
茶色のローブの少年は、金剛の言葉に静かにうなずく。
「無理ないわ。まだ子供なんだから……。新しい町なんてワクワクするものよ。ねぇ~?」
四阿はいつも少年の味方だ。
「いつまでもそのキャラは通じんと思うが。
こいつは新入りだ。甘やかすのもほどほどにするべきだがな」
四阿にそう言うと、金剛は自身の部屋に戻ろうと歩き出したのだが……。
「報告します。地上に何者かが……!!」
「そうか、我らに用があるのだろう。その周辺で下ろせ。そいつの話は俺が聞く!!」
金剛は命令を放つと、操縦室から出ていった。
操縦室に残された幹部の2人。
「あら、もしかしてお姉ちゃん怒られちゃった?」
「そうですね」
「ちぇ~、私よりも年下はみんな弟か妹なんだけどな~。あっ、もちろん君もね?
そういえば、リーダーは何歳なんだろう。
いつの間にか彼がリーダーになってたし、彼の記録もないし~」
「リーダーは誰の弟にもならないと思いますよ。それに残念ですが、私には家族以外に家族をつくるつもりなんてないです」
妹か弟をつくるために他者の個人情報も調べていたのか。
…と少し呆れながらも少年はゆっくりと降下している空中戦艦から窓の外を眺めていた。
空中戦艦は地上に着陸。
金剛はたった1人、護衛もつけずに地面に降り立つ。
それを待ちわびていたかのように、女性は鞘から剣を抜き取る。
「貴様はたしか元王レベルの『大楠』。元不道が世話になったな」
元不道は目の前の女性によって殺されてしまったのだ。
魔王軍としては、あれからまた新しい幹部候補を捜さなければならなかった。
そうして、拾われたのがあの少年である。
「あらら、もしかしてあいつの仲間?
不道殺っちゃってごめんなさいね。
ねぇ、そういえば、あの町に何か用でもあるの?」
「貴様には関係がない。2人の娘のために下がれ。さすれば、命までは取らない」
彼女は首を縦に振らない。
彼女は今は王レベルの付喪人ではないが、かつては王レベルだったからだ。
「悪いけどその誘いにはのらない。魔王軍幹部にはたくさんの人々や仲間が殺された」
「───それは鍵の獲得候補者を見つけ出すためだ。我が主人が世界を1つに纏めるため。秩序と制御で平和をもたらすため」
「そんなの信じられるわけがないじゃない。それに貴方達の計画は怪しすぎる」
女性は剣先を金剛の喉元に突きつけてそう言った。
それを聞いた金剛はそのフードローブの奥底でため息をつく。
「今さら分かり合えないか」
「ふふ、そのフードローブとサングラスに隠された顔はいったいどんな顔があるのかしらね」
お互い会ったこともない2人だが、殺されてきた仲間のため…自身の信じる道のために……残してきた者のために……。
「『小風の舞う薔薇束』」
女性の持っていた自身の剣は、まるで空気のようにしなやかな滑りで向かっていく。
しかし、刃が近づいてくるにつれて、トゲが突き刺さるような感覚が全身を襲い始める。
まだ当たってもいないのに感じる激しい痛み。
これでもしも刃が体に届いたら……。
金剛は少し焦りを見せたが、すぐに笑みを浮かべる。
何か策でもあるのだろうか。
「『買』」
金剛は一文字小さな声で呟いた。
数分後。
地面には血が飛び散っていた。
真っ赤に染まった大地を力強く踏みつける。
「さらばだ。強い者よ」
金剛はそう言ってその場を後にする。
地面に散らばった女の体。
片手、両足を飛ばされ、剣を砕かれた。
「伝え……なきゃ…娘達に…………」
それでもなお、娘達の事を心配して金剛を行かせまいと、もがいている。
「───それほど心配なら見ておけ。お前に1時間だけ命を与える。俺からのせめてもの贈り物だ」
さすがに、金剛も気になったのか。
彼は大楠に手のひらを向けると、彼女に魔法をかける。
「!?」
「この魔法は延命効果がある。1時間貴様の目で町の行く末を確かめるがいい」
金剛はそう言い残すと移動するために空中戦艦に向かって歩きだしていた。




