簀巻と鈴木の町巡り
こちらは鈴木さんと簀巻サイド。
周囲を見渡しながら、プレゼントを探す簀巻。
そんな彼に鈴木さんは先ほどまでの疑問をぶつけてみた。
「──なぁ、体調とか大丈夫なのかい?
先ほどからボッーと上の空のようだが」
「あっ、すみません。じつは何かが頭の中から出てきそうな。この景色を過去に見たような。そんな気がしちゃって」
簀巻は恥ずかしそうに頭を擦る。
もしかしたら、簀巻の記憶が戻りかけているのかもしれない。
鈴木さんは彼の過去に少し興味を持ったのか。
プレゼントを選びながら、彼と会話を続けていく。
「そうか。それはいいことじゃないか。
過去の記憶が戻りかけて来ているってのは素晴らしい事だよ」
「何かキッカケでもあれば、ポッと思い出せる気がするんですけどね~。この町に僕の何があったんだろう」
また、簀巻は一人で考え始めた。
付喪カフェのメンバーなら簀巻のために協力してくれるかもしれない。
そう考えてもいるのだろうが、せっかくの旅行の時間を潰してまで協力してほしくないのだろう。
きっと、明山を元気付ける為の旅行なので、周りのみんなに気を使っているのだ。
そんな彼の姿勢に心射たれたのか、鈴木さんは彼に協力する事にした。
「それは気になるね。
私も昔、この町に来たことがあるんだ。何らかの景色でも思い出してくれたら、そこへ連れていってあげよう」
その言葉を聞いた瞬間、簀巻の顔色が明るくなる。
「僕の記憶に協力してくれるんですか?」
その表情は頼れる存在を見つけたと喜んでいる様にも見える。
「ああ、もちろん。
でも、その前にみんなへのプレゼントを探さないとね。
あと、私も私の恋人に贈り物をしたいんだ」
「彼女さんに何をあげるんですか?」
「そうだな~。宝石が付いた指輪でも贈ろうと考えてるんだ。あっ、この事は他言しちゃ駄目だよ」
鈴木さんは少し恥ずかしそうに、正面を向きながらも赤面していた。
その頃、2人の近くの通路ではもめ事が発生していた。
「はっはっはっ、ひ弱そうなガキが彼女連れてイキりながら祭りに来てやがる。パーティー気分か?」
2人の男女に、酔っ払った大人がからかっているようだ。
「あ?」
「ほおっといていこ~。うちらにはやることがあるけん。こげんところで時間ば使うとー暇なんてなかばい。早う占い師ば探しゃないかんやろ」
男の方は売られた喧嘩を買う気満々のようだが、隣の看守服姿の女性が彼の動きを止めている。
「戦うか? 酔っぱらい相手でも俺は手加減はしないからな!!!」
「ダメ~落ち着いて~。一般人ん酔うぱらい相手に本気ば出すなんて笑えんばい。
店ん前で争うなんてダメ~!!!
靴屋さんに迷惑がかかるやろ~?」
必死に頬を膨らませながら、男の裾を引っ張りその場を後にしようとする看守服の女性。
その引っ張る力が強いようで、男は簡単に引っ張られていってしまう。
こうして、2人は姿を消し、女性の努力あって喧嘩沙汰にならずに済んだのだ。
「なんだ? ひっく、あの弱そうな奴ら。俺でも楽勝で泣かせそうだな~。
しかし、あの女、スタイルも良くて胸も……まぁ、後で会ったらだな。フフフッ」
酒に酔っ払った大人はなにやら怪しい事を考えながら、その場を後にしていった。
「おやおや、どうやら無事にすんだようだね」
その様子を遠くから見ていた鈴木さんと簀巻。
「まったく、浮かれるってのはいいが、羽目を外しすぎないで欲しいものだ。なぁ~簀巻君」
祭りに浮かれていた酔っ払った大人を嘲笑うように話をしていた鈴木さんは、ふと簀巻に話を振ってみたのだが。
「靴屋…占い師…シュオルの町…2人組…」と関連性の見えない言葉を口ずさんでいる最中だった。
しかし、彼の顔は真剣そのもの、冗談の欠片も彼からは見えない。
そんな彼の様子を不安に思ったのか。
「簀巻君? どうしたんだい? 熱でもあるのか?」
鈴木さんが彼のおでこに手を当てようとしたその時。
全てのトリガーが達成された。
記憶が戻る。戻る。戻る。
瞬間的に簀巻の頭の奥底から蘇る記憶たち。
生まれた時も、家族も、思い出。
彼の中から記憶へと溢れてくる。
ハッキリときれいに何事も残さず全て……。
その情報量を一瞬で把握しようと脳はフル回転で動く。
頭がクラクラとしながらも彼は記憶を見続けていた。
たくさんの映像を一度に観ているような感覚に襲われながらも、彼は人生を……記憶を見つけ出したのだ。
「ハッ……………!?」
気がつくと、彼は汗を流しながら立っていた。
あれから何分たったのだろうか。
鈴木さんの呼び掛ける声が聞こえる。
「どうしたんだい? まさか?」
鈴木さんが最後まで質問を言う前に、簀巻はその口を恐る恐る開く。
「………はい、きっ、記憶が、もっ蘇りました」




