黒さん計画の観光旅行
すると、黒は誘惑しようとするかのように俺に囁いてくる。
「ねぇ~明山さん。ちょっと話でもどう?」
二人は俺をいったいどうするつもりなのだろう。
「却下だ」
「エエエエエエ!!!」
どうやら、何も聞かずに提案を却下した事を黒は驚いているようだ。
「なッ、なに勘違いしてるの?
別にモンスターの群れに簀巻きで突き落としたり、夜中に付喪神の出る道に放り投げたりしないわよ」
「じゃあ、なにするんだよ?」
すると、今まで口を閉じていた英彦が口を開いて俺に答えを教えてくれた。
「久々の旅行ですよ。付喪カフェのメンバーで……」
旅行?
もしかして、俺に元気になって欲しいから考えたのだろうか。
二人にしては良い考えだと思う。
しかし…………。
「そうか、いってらっしゃい」
俺からの返事はこれひとつであった。
「……というわけでみんなに集まって貰いました」
場所は代わりここは付喪カフェ。
俺は結局着いてきてしまったのだ。
最近は一時休業していたのだが、みんなが集まるならここがいいだろうと黒が勝手に店の鍵を開けた。
そんな黒は今回の旅行の幹事役として張り切っているのだが、俺には彼女に幹事が勤まるとは到底思えない。
「──結局、いつものメンバーじゃねぇか。
他の曜日のバイト共はどうした?」
「連絡先を知ってる人にしか誘ってないのよ。
でも、そういえば駒ヶやマオやヨーマは返信してこないの」
今日集まったのは俺と英彦と黒、そして妙義と鈴木さんと簀巻の計6人である。
駒ヶと連絡がつかないのは残念だが……。
フィツロイ戦の時も忘れられてたし、まぁ、大丈夫であろう。
「その僕はちょっと……」
その時、手をあげて旅行には行けないと答えた男がいた。
そう簀巻である。
その発言に黒は少し困った表情を浮かべて……。
「そう困ったわね~。宿の人数キャンセルできるかしら」
どうやら、黒は人数が決まる前にすでに宿の予約をとっていたらしい。
やはり、半強制的に旅行に連れていこうとしていたのだ。
なんて、恐ろしい子……………。
確かに彼女がみんなに元気になって欲しいから計画したというのは嬉しい。
しかし、その気持ちだけで充分なのだ。
俺が先程旅行に乗り気ではなかった理由は、2つある。
一つ目は、これまで俺達は何度か旅行に行っているが、どれもこれもゆっくり休めるものではなかった事。
どんな場所にいった時でもトラブルに巻き込まれてゆっくり出来ることはなかった。
旅行先では何かとトラブルが起こってきたのだ。
これでは素晴らしい旅行で休息を……なんて出来ずに逆に疲れを溜めてしまう。
二つ目の理由は、黒達である。
こっちはトラブルに巻き込まれる側ではなく起こす側だ。
他人と喧嘩したり、敵をおちょくったり、封印といたり……。こいつらのせいで俺がどれだけ尻拭いをしてきたことか。
こんな事なら元の世界で沢山旅行とかしておけば良かった…と今でも後悔している。
まぁ、その旅行の話はいずれ語るとして……。
そう俺は旅行に行きたくないのだ。
しかし、このままでは旅行に強制参加させられてしまう。
俺はハッキリと黒に伝えるために、気持ちを整理して、
「「悪いけど俺(私)はいけない」」
台詞が被った事に驚き、俺と鈴木さんはお互いの顔を見る。
すると、その二人の発言に怒りを覚える者がいた。
「何がいかない…………ですか?」
その声の主は怒りで体が震えている。
いつもはそんな事はないはずなのだが、ストレスでも貯まっているのだろうか?
「いいですね~リア充してて……。
う゛ら゛や゛ま゛し゛い゛で゛す゛ね゛~鈴木さん。
いいですよね~護衛の任務として3人の女性と仲良く馬車の旅した人はや゛っ゛ぱ゛り゛違゛い゛ま゛す゛ね゛~明山さん」
「「英彦?」」
どうやら彼も駒ヶと同じタイプだったのだろうか。
「前々からたまにそんな感じはするな」とは思っていたが。
それほど羨ましかったのだろうか。
「女子2人がいる楽しい旅行ですよ!!!
断れる理由がないでしょ!!!
黒さん、宿のキャンセルなんてしなくていいです。みんなで行きましょう!!!
思い出作りましょう!!!」
嫉妬と怒りで豹変した英彦。
もしかして、性格が少し変わったのは大悪魔の後遺症か、それとも彼の成長か。
最初のヘタレたビビりな頃から考えると、自分の意見をちゃんと俺たちに言えるようになったことは嬉しい。
「分かった。英彦がそこまで言うなら行こう!!!」
英彦の想いは俺の考えを変える。
その俺の出した発言に手を合わせて喜ぶ黒と妙義、そして困惑する鈴木さんと簀巻。
「ちょっ、明山君!?
確かに僕も行けると言えば行けるが、趣味が………………」
「なぁ、僕の意見は?」
結局、行かないと言っていた二人も旅行に参加する事となるのであった。
そして再び幹事気分になった黒は、今からでもワクワクが止まらないようで、ギュッと気持ちを圧し殺しながら……。
「じゃあ、来週。元魔王城に最も近い町シュオルへ。
みんなで行くわよ~!!」
さらっと恐ろしい事を発言した。
元魔王城?
それに気づいた俺と英彦は、さっきまでの行いがなかったかのように……。
「「今、なんて言った?」」
…とこれまでの発言を撤回したくなってしまうのであった。




